おじいちゃんの故郷――異世界へ

第24話 精霊と出会って

 私はまばゆさに目をギュッと閉じていた。眩しさが落ち着き、体全体に風邪を感じる。そっと目を開けた。

 精霊の本の比ではない、大草原が目の前に広がっていた!

 それだけではない。川も森も存在し、大自然が目の前に広がっている!

 凄~い! 何これ!

 映画の中でしか見たことがない風景がそこにあった。

 ここがおじいちゃんがいた世界なんだ。って、事は扉を開ける事に成功したんだ!

 え~と……。

 私は自分の状況を把握しようと辺りを見渡す――三六〇度地平線を一望出来た! って、これどういう状況!?

 「きゃー!!」

 私は気が付きたくなかったけど、落下している事に気が付いた! 扉はどうやら空に……空中にあったみたい。って何、冷静に分析しているの私!

 「おじいちゃん!!」

 私は思いっきり叫んだ。さっき見渡した時には、人影など見えなかった。自分だけが落下していた!

 どんどん地上が近づいて来る!

 やばい! そうだ魔法! 止まって! 浮いて! 止まってってば!

 一向に止まる気配がない! 私……ここで死ぬの?

 もう地面は目の前だ!

 私は覚悟を決めてギュッと精霊の本を胸の前で抱きしめ、目を瞑った。

 カサカサ。ストン。

 あれ? 強い衝撃がこない? 私生きてる?

 私はそっと目を開けてみた。青空が見える。落ちている気配はない。背中に地面を感じる……。

 うん? 何故? どうなって?

 私は上半身を起こした。起こしても背丈が高い草で周りは見えないが、自分の体を見てみるとどこも怪我をしていない。

 私、最後の最後で魔法を使ったのかな?

 周りは鬱蒼と茂っている草しか見えず、ここが草原だとわかる。

 『おい、あんた大丈夫か?』

 「きゃ」

 突然背中から声を掛けられ、私は驚くも振り向く。そこには男の子が浮いていた!

 精霊?! しかも男の子! 精霊って男の子も居たんだ!

 彼はきりっとした顔つきだが目がパッチリとしてかわいい。

 じゃなかった。彼がきっと助けてくれたんだよね?

 「えっとあなたが助けてくれたんだよね? ありがとう」

 私がそう声を掛けるとその精霊くんは頷いた。男の子でも精霊はかわいい。

 『浮く事も出来ない人間を初めて見た。……で、あんた、どこから来たんだ?』

 あぁ。魔法使いの世界だもんね、ここ。私がこの世界の人間じゃないって事はすでにバレているみたいだね。このままだと通報とかされちゃうのかな? 精霊の本に閉じ込められるとか……。

 『で、なんで精霊の本を持っているんだ?』

 うん? 精霊の本……。あ! いけない。アメリアさんに届けないと! って皆どこ?!

 「あの、私ぐらいの年齢の人間見ませんでしたか?」

 『もしかしてあいつらの事か?』

 精霊くんは、草より高く浮き、私の後ろ指差す。そのまま振り向いても見えないので立ち上がった。

 ずっと向こうに白い岩のような大きな建物? が見えた。その周りだけ草の丈が短く感じる。そして所々に大きな白い石が点在している。なんとも神秘的な場所。

 日本では見れない風景だわ。

 よく見てみると、人影が見える。いち、にい……七人の人影。

 遠すぎてハル君やアメリアさん達かわからないなぁ。

 「人はいるみたいだけど……」

 『ブレッツエルにティメオ、アメリア、クレタス、それとあんたと同じぐらいの年齢の人間が三人……』

 私の呟きに精霊くんは答えてくれた。

 精霊って凄く目がいいのね! アメリアさんがいるみたい。それに私と同じぐらいの年齢の人間ってハル君達に違いない!

 「ありがとう!」

 『ちょっと待てよ』

 私は走って向かおうとするも精霊くんに呼び止められた。

 親切に色々教えてくれたりしたけど、よく考えれば私は不審者だった。見逃してもらえないとか?

 私は恐る恐る彼に振り向いた。

 『あんた、浮く事出来ないんだよな?』

 何故か改めて精霊くんは聞いて来た。私は素直に頷く。

 『じゃ、それ以上進まない方がいい。落ちるよ』

 落ちる? 危ないから引き留めてくれた?

 「えっと。ありがとう」

 一応礼を言う。足元を見るもよくわからない。確かに途中から草が低いような気がするけど……。

 四つん這いになって草をかき分け少し進むと、突然崖になっていた!

 うわ。マジ? これ知らなかったら危なかったかも。

 その崖から落ちれば怪我する高さだった。飛び降りて進むのは不可能そう。左右を見てもその崖はずっと続いていた。どこか道はないかと辺りを見渡して私は驚いた。

 道がない! 建物に向かう道だけじゃなく、道というモノが自体が見当たらない! 緑を遮る物は、岩や川だけだった!

 もしかしておじいちゃん達って空を飛んで移動しているからこの世界には道って存在していない!?

 そうなると崖から降りる手立てがない。自然に出来た低い所を探すしかないけど、見た所そんな場所はなさそうだった。

 「どうしよう……」

 叫んで聞こえる距離ではないし。ぐるっと回るとしても向こう側に行ける気がしない。

 「って、本当どうしよう……」

 アメリアさんに見つけてもらうしかないけど……。

 『連れて行ってやろうか? あそこに行きたいんだろう?』

 驚いた。凄く優しい精霊くんだ! いや、精霊は皆優しいか!

 「本当に? お願いします!」

 『俺様の従者になるならな』

 「………」

 うん? 今、なんとおっしゃいました? 従者って何? え? それって私達の世界と同じ意味なの?

 『俺様のパートナーにしてやると言っているんだ』

 よく聞けば、この精霊くん。自分の事俺様って……。って、パートナー?

 「えー?! パートナー! それって魔力を供給してくれるという?!」

 私が驚いて叫ぶと精霊くんは、呆れ顔で頷いた。

 いやここでは当たり前の事かもしれないけど……。

 「パートナーになれば連れて行ってくれるって事?」

 『そう言っているだろう』

 パートナーにならないと私を飛ばせないのかな? う~ん。おじいちゃん達を見ていて、パートナーになって害があるような感じじゃなかったし大丈夫だよね?

 取りあえずこれ逃したら向こうに行けそうにないし、この提案に載って置こう!

 「わかりました。宜しくお願いします!」

 私は軽く礼をする。彼は嬉しそうだ。

 『俺様の名は、タフィー。あんたは?』

 「ルナ……」

 咄嗟にハル君達が呼ぶあだ名を口にしていた。

 『では、その命尽きるまで一緒に歩もう』

 「え……。あ、はい」

 ……え? 命尽きるまで? まさかと思うけどパートナー契約って途中で解約できないとか? と、とにかくおじいちゃんに会ったら聞いてみよう!

 『それじゃ、約束だから連れていってやる』

 「ありが……きゃー!」

 私がお礼を言い終わらないうちに体が浮き上がり、凄い速さで移動を始めた! このスピードってここでは普通ですかぁ!?

 もしかして私やばい精霊くんと契約を結んだんじゃ……。少しだけ後悔していた――。

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