第20話 扉の秘密

 「おじいちゃん!」

 「おじい様!」

 私達は嬉しくて泣きそうになった! もうさすが魔法使い!

 「全くお前達はこんなところで何をしているのだ? ロサーノさんまで……」

 あ、この訪問者のお兄さん、ロサーノさんって言うんだ。やっぱり知り合いだったんだ。そのロサーノさんは、おじいちゃんをほおけた顔で見ている。

 「リ、リアムさん……どうしてここに?」

 「アメリアさんからヌガー殿をお借りして出かけていたのだが、そのヌガー殿がアメリアさんの気配が消えたと言うので、慌てて戻って来たのだが……。一体何があったのだ? シュトル殿が動けなる程消費するとは……」

 おじいちゃんは、アメリアさんの異変をキャッチしたヌガーさんの言葉で戻って来たのね。おじいちゃんが気が付いた訳じゃなかったのね! でもよかったぁ。

 ロサーノさんは私達を見ておじいちゃんを見た。

 「お、お知り合い?」

 おじいちゃんは頷いた。

 「えっと、ありがとうございます……」

 聞いてもまだよくわかってないのか、安心して頭が回らないのか、ロサーノさんはやっと、礼を言った感じだ。

 『リアムさん、ありがとう。もうだめかと思ったよ』

 「復活したか。よかった」

 シュトルちゃんが元気になり、ロサーノさんの頭の上を飛び回り言った。

 『アメリア~! 無事でよかった!』

 「ヌガーさん、ありがとう。あなたのお蔭でシュトルさんも消滅せずにすんだわ」

 ヌガーちゃんもアメリアさんが無事で嬉しかったのか、彼女の上を飛び回る。

 「さて、詳しい説明を聞くのは家に入ってからにしよう。お前達は目立ち過ぎだ」

 おじいちゃんに言われ、私は辺りを見渡した。扉だかに入る前は人はいなかったが、数人の人がこちらジッと見ている。

 多分、私とマリアさんだけでなく、アメリアさんとロサーノさんも見えているかもしれない……。

 「二人の姿も見えているようで、コスプレした男を三人の女が囲んで何かしているような構図になっているぞ」

 「まあ、嫌ですわ」

 「コスプレ?」

 アメリアさんは、意味がわからず首を傾げている。まあ、知らないよね……。

 って、やっぱり見えているんだ。魔力全部使っちゃったもんね。じゃなくて! SNSにでもUPされたら大変だ!

 「直ぐに移動しよう!」

 私は慌てて先を急ぐ。学校にでも知れたら大変だ! 説明のしようがない……。

 家に到着すると、マリアさんが「少しお待ちになって」と言って中に入って行って、三枚の雑巾を持って来て床に置いた。

 あぁ、ブーツのままで上がれるようにね。

 アメリアさんは一度、家に上がっているので、雑巾の上で靴の裏を拭き中へ入って行く。ロサーノさんもおじいちゃん達のを真似、雑巾に靴裏をこすり中に入った。勿論私は、靴を脱いであがった。

 私は居間のソファーにアメリアさん、私、マリアさんと出掛ける前と同じく座り、アメリアさんの前におじいちゃんが座ると、ロサーノさんも隣に腰を下ろした。

 「さて、一体何があったのだ?」

 そう聞かれても私達にはさっぱりわからない。勿論ロサーノさんが答えた。

 「俺はアメリアさんという女性が精霊の本を持って地球に逃亡したので、本を奪還し彼女を連れて帰る支持を受けて地球に来たのです」

 ロサーノさんって偶然いたんじゃなくて、アメリアさんを追って来ていたんだ!

 「あなたはエリーヌ会ったか?」

 「え? エリーヌさんですか? 地球でですか? 俺は見かけてませんが」

 「いや、向こうの……私達の世界でだ」

 「いいえ。戻られていたのですか? 私は戻って直ぐに支持を受けたので、何も聞いておりませんが……」

 ロサーノさんは、おじいちゃんの質問に首を横に振って答えた。まあ、おばあちゃんの事は知っているよね。偉い人の娘だもんね。

 「先に戻ったんだが。全くこっそりと人に頼むから……」

 ため息交じりにおじいちゃんは呟いた。

 「そう言えば、彼女――アメリアさんとリアムさんってお知り合いだったのですか? 何も聞かされていなくて……」

 知っていればと思って聞いたんだろうね。捕まえてこいって命令だったからあんなに強引だったんだ。

 「私がリアムさんを訪ねて、さきほどお会いしたのです」

 アメリアさんが、さらっと説明する。

 「先ほど? ……もしかして、あの時に結界を張って飛び立ったのは、リアムさんだったのですか?」

 「そうだが。見ていたのか」

 ロサーノさんは、頷いた。もしかしてつけられていたのかも。ドアからでる時には結界で姿が見えなかったからおじいちゃんだとわからなかったんだ。そうして、私達がこの世界の魔法使いと知った訳だ。

 「ロサーノさんが、わたくし達の話を全く聞いてくださらなかったからあんな事になったのですわよ!」

 マリアさんが不満を述べる。確かにおじいちゃんの名前でも聞けば話を聞いてくれていたかもね。

 「すまなかった。知ってれば待っていたのだが」

 「あんな事とは?」

 「はい。飛び立ったのがリアムさんだとは思わず、彼女達を私達の世界に連れて行こうとしたのですが、何故か扉が見当たらず……。多分閉まっているからだと思うのですが。それでやむを得ず戻って来たのですが、あのような事態になってしまったのです」

 なるほどと、おじいちゃんは頷いている。

 多分ロサーノさん……アメリアさんもそうだけど、精霊の玉を持って来ていなかったところを見ると、地球が魔力が少ないと知らずに来たんだろうね。

 「場所を間違えたとかではありませんの?」

 「それはあり得ない」

 「そうだな。訪問者である私達が間違えるわけがない」

 マリアさんが言うと、ロサーノさんとおじいちゃんは口を揃えて否定した。迷子ではなかった訳だ。……じゃ、扉を閉められたのかも。ロサーノさんは開けて地球から出たんだし。

 「向こうの世界で扉閉めたんじゃない?」

 「やっぱりそれしかないのか?」

 「しかし、世界側から開け閉めできるが、次元側からは閉まっていると、それ自体が見えなくなるのに閉めるか? ロサーノさんも外にいるのを知っているというのに……」

 「え? そうなのですか? 知りませんでした。地球の扉が開いていてよかった」

 二人の会話を聞き、アメリアさんは驚いていた。

 と、いう事は、アメリアさんはあの扉から入って来たんじゃないんだ! 扉っていっぱいあるのかな?

 「そう言えばアメリアさんは、一体本を持ち出して何をしようとしていたのですか?」

 「実はエリーヌさんが兄にお願い事をしたのですが、ティメオ様に信じてもらえずに本の中に捕らえられてしまってそれで……ついとっさに奪ってリアムさんを尋ねに来たのです」

 「そうでしたか。しかし、随分大胆な行動を……」

 アメリアさんから詳細を聞いたロサーノさんは驚いていた。

 って、お兄さんが閉じ込められた本ってリードできないのかな? 閉じ込めた時はそういうのはないものなのかな?

 「本から出す方法ってリードではないの?」

 「普通はリードです」

 私が唐突に聞くもアメリアさんが答えてくれる。

 「じゃなんでアメリアさん自身でリードしないの? 条件で何かあるの?」

 「いえ条件云々とかではなくて、能力の問題です。ティメオ様がお作りになった本を解除できるのは、リアムさんしかいないと思って……」

 そういうもんなのか。

 「買い被り過ぎだ。私でも無理だ」

 「つじつまが合いませんわ。おじい様がお作りになった本をアメリアさんはリードをなさったではありませんか」

 そう言えばそうだった! マリアさん鋭い! 能力の力関係ならおかしい事になる!

 「ガード掛けていないからな。ガードを掛けると本人もしくは、本人以上の力の持ち主でないとリードや解除は出来ないのだ」

 アメリアさんではなくおじいちゃんが説明をしてくれた。

 なるほど。おじいちゃんのはガードを掛けていなかったので、アメリアさんでもリードを出来たって事ね。

 「そうでしたの。それもそうですわね。罪人として閉じ込めたのですから鍵を掛けて当然ですわね」

 マリアさんも納得してそう言った。

 「この本はお返ししましょう。逃亡の恐れもないようだし」

 「いいのですか?」

 ロサーノさんは頷いて本をアメリアさんに手渡した。

 「あなたが直接ティメオ様にお返しして下さい。きっとわかって下さいます」

 「ありがとうございます」

 アメリアさんは精霊の本をギュッと抱きしめた。

 ロサーノさんって融通の利かない人かと思ったけど、優しい人だった。

 「さて取りあえずは、扉をこじ開け安否確認だな」

 「そうですね。今まで一度もこんな事がなかったのですから」

 おじいちゃんとロサーノさんは頷きあう。

 安否確認って穏やかじゃない内容だけど。何かが起こっているって事? 一度も閉められた事がない扉が閉められていた。何かが起こっている?

 「おじいちゃん、すぐに行っちゃうの?」

 「すぐに行きたいが、もうそろそろ二人が戻って来るだろう。お前達に何かあったかも知れないと思っているからな。顔を見てから行く。準備をしている間に戻ってくるだろう」

 おじいちゃんに聞くとそう言った。ハル君達もアメリアさんに何かあったかもって知っているんだ。まあ必然的に私達もそれに巻き込まれているかもって思うよね? ちゃんと仕事してるかなぁ?

 おじいちゃんは、ロサーノさんとアメリアさんに精霊の玉を渡している。

 「ありがとうございます。まさか地球がこんな所だとは思わず助かります」

 「私もです。ありがとうございます」

 二人はおじいちゃんに礼をすると、渡された精霊の玉を握りしめた。

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