第19話 危機一髪
「ここだ……」
ぐだぐだ考えていたらどこかについたようって、やっぱりハル君家の裏手の道。ここに一体何が?
あたりを見渡しても特段何もない。人影すらない。
「ここに次元の扉がある。閉じているがな……」
意味不明な言葉を言いつつ、訪問者のお兄さんは目の前を指差した。勿論何かあるように見えない。
そう思っていると、指差していた手をパーに広げた。すると、目の前が陽炎のように揺らめく!
「え? なんですの?」
「こんな所に扉が……」
アメリアさんには見えているのか、理解できたのか、そう呟いた。って、その扉って何?
「いいか手を離すなよ。離してどうにかなっても自己責任だ!」
訪問者のお兄さんは、不吉な事を言って一歩前に進む。
ちょっと怖いんですけど!
「ちょっと待って!」
私が叫ぶも更に進むと、訪問者のお兄さんが揺らめく中へ入って行く! まさに入っていくだった! だって揺らめきの先からは、体が見えなくなっていた!
これ魔法じゃなかったら怪奇現象だよ!!
そして私が怯え驚いていると、凄い勢いで引っ張られ、次々と揺らめきの中へ!
「キャー!!」
「すごいですわ!」
私が悲鳴を上げるよ横で、マリアさんは感動していた!
不思議な場所だった。進んでいる感じが全くない。辺りは漆黒と言っていいほど真っ暗闇なのに自分達の姿は、はっきりと見える。多分、上も下も右も左もない世界なのかもしれない……。
「変だな。ここら辺のはんずなんだが……」
五分ほどたった頃だと思う。訪問者のお兄さんがボソッと呟いた。まさか、迷子になったんじゃないでしょうね?
「シュトルさん、近くにないか?」
『変ですね。私もここら辺だと思ったのですが……』
あ、あれはもしや、精霊なのでは!? おじいちゃんと同じ世界から来た魔法使いならパートナーがいてもおかしくない!
訪問者のお兄さんの肩の辺りにツインテールの精霊がいた。
なんだろう? 昨日まで魔法とは無縁だったのに、魔法を目の当たりにし精霊なんて三人目!
マリアさんを見れば、彼女も頬を染めてシュトルちゃんを見ている。興奮してます!
「見つからないのなら一度戻った方がよろしいのでは?」
アメリアさんは冷静です。まあ、見慣れてますよね……。
確かにさっきから訪問者のお兄さんは、オロオロしている。手を離すなと言ったりしていたし、凄く不安なのですが……。
「わかってる。一度戻るぞ。一体どうなっているんだ……」
納得がいってないようだけど、戻る事にしたみたい。って、無事戻れるのかな? それも不安だよ。
「いいですか。落ち着て聞いてい下さい……」
ぼそりとアメリアさんが私達に話しかけて来た。やっぱり迷子なんだろうか?
「彼の魔封じが解かれました……」
うん? どういう事なんだろう? 魔封じに掛かっていた事を知らなかったけど。って落ち着くも何も普通それっていい話なんじゃないの? 解放されたんだし……。
「そ、そうですか……」
マリアさんも戸惑いながらそう返す。私達には、彼女が言いたい事がわからない。
「同時に私とあなた達を私の魔法を使って移動しています」
アメリアさんの言葉に私達は顔を見合わせる。魔封じを解除されて自分で移動しているって事だよね? それってそれまでは訪問者のお兄さんが移動させてくれていたって事なのかな?
「それはどういう意味なのでしょうか?」
マリアさんが聞いてくれた。
「彼の魔力が尽きようとしているという事です。そして、私も後少ししか魔力がありません。魔力が尽きればここを彷徨うしかありません」
「え~~!」
「なんですって!」
私は驚いて叫んでしまった! 迷子どころの話じゃなかった! 迷子じゃなくても帰れないかもしれなかった!
あ、でもパートナーがいるよね? 非協力的?
「あの、あの訪問者のお兄さんにパートナーがいるみたいだけど?」
私は質問してみた。もしかして移動って凄い魔力使うとかかな? と思ったりもしたりして……。
「知らないのですか? この場所には魔力が存在しないのです! そして今、私の魔力がつきました!」
知りませんでした! って、空も飛べない魔法使いが知っていると思いますか!! しかも魔力切れ宣告!! どうするのよ! おじいちゃん助けて!
「どうしよう。マリアさん……」
「どうしましょう……」
これなら本に閉じ込められた方がましだったかも!!
「出口が見えた! シュトルさん大丈夫か?」
訪問者のお兄さんはシュトルちゃんにそう話しかけると、シュトルちゃんは頷いた。って、もしかして今、私達はシュトルちゃんに運ばれているの?
頑張れ! シュトルちゃん!
心で応援していると突然強く引っ張られるような感覚に捕らわれ、気が付けば体を地面に打ち付けていた!
どうやら私達は何とか地球に戻ってきたみたい。
「いたたたた……」
腰を打ち、擦りながら体を起こし横を見ると、マリアさんが片膝を立てそこに佇んでいた。
「結構、着地するのは難しいですわね」
まさか、転ばず着地したのですか? 凄い反射神経ですね……。
「もうだめかと思いました……」
アメリアさんも腰を擦りながら起き上がる。これが普通だよね?!
「シュトルさん! しっかりしろ!」
訪問者のお兄さんの叫び声が聞こえ振り向けば、彼は四つん這いになっていた。その彼の目線の先にはシュトルちゃんがぐったりと地面に横たわっていた。
「え? 精霊って魔力が切れると弱るの?」
「弱るどころか消滅します!」
「なんですって!」
私の呟きにアメリアさんが返した答えは驚きの内容だった! 消滅――つまり人間に例えるなら死という事だよね?
「無理を承知でお願いだ! 精霊の玉を分けてくれないか? 虫がいいのはわかっている。シュトルさんが……」
私達に振り返ると訪問者のお兄さんは、懇願するように訴えて来た。あったらあげたいところだけど、私達は持っていない。
「元々持って来ていないわ」
アメリアさんは、そう答えた。彼女も持ち合わせていなかった。その回答を聞き、訪問者のお兄さんは項垂れる。
どうしたら……。そうだ。アスファルトの上だと魔力がこない。すぐそこの公園に運べば……。
「公園! ほら私達が出会った公園に行けば、少しぐらいは魔力が出てきてるかも!」
「シュトルさんは、もう限界みたいで動けないんだ……」
私が提案するも項垂れたままそう答えた。
「では、連れて行って差し上げたら宜しいですわ」
「知らないのですか? 精霊には直接私達人間は触れられないのですよ!」
「なんですって! 精霊魂だけではなく精霊もなのですか!」
「え? そうなの?!」
私達はアメリアさんの返答にまた驚かされる。これはもうどうしようもない。後はおじいちゃんが戻って来るまで、シュトルさんが持ってくれるのを願うしかない。
『リ……リアムさんが見える』
そうそう向こうの世界ではリアム……え?
声の主は、シュトルちゃんだった。振り返れば、彼女の上に手が差し伸べられているように見え、そのてから精霊の玉が零れ落ちる。それは、シュトルちゃんの中に吸い込まれていく……。
手を辿り顔を上げて行けば、おじいちゃんがいた。手を差し伸べたのはおじいちゃんだった! 奇跡が起きた――!
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