第六章 六節 決着

 玉座の間は静寂に包まれていた。

 その静寂を破ったのは、滴り落ちる血の音だった。


「……フン。こんなもので幕切れか……下らん。……私は自分がしてきた事を間違いなどとは思わない。例え私の行動が、お前の言う私怨だったとしても……後悔は無い」


「……母さんは、この国のために頑張る貴方を誇らしいと言っていた。それなのに、貴方は復讐に駆られて護るべき民を苦しめた。……それは、王のすることじゃない……!」


「……ふっ。お前も言うようになったな。……そうか、フレイアがそんなことを……。だが、それでも私は後悔などしない。これが正しかったのだ。……いや、違うな。正しさなど誰にもわからない。故に、私は自分を信じる他なかった。お前も、自らの信念を貫いてここまで来たのだろう? ならば、最後まで貫くが良い。……最後まで……父としても……王としても……お前を導くことができなかったな……すまなかった……エルド……」


「……父さん…………っ!」


 エルドの剣はイヴァンの胸元を鎧ごと貫いていた。

 そして、イヴァンの大剣は地面を深く抉ってはいたが、エルドの腕側面を擦る程度に留まった。

 だが、どちらの傷口からも止め処なく血が流れ落ち、地面の血溜まりを今なお広げて続けていた。

 そんな中、イヴァンは大剣から手を離し、二歩、三歩と自ら退がってエルドの剣を引き抜き、力無く仰向けに倒れた。

 エルドは戦いの終わりを実感するよりも先に、イヴァンに吹き飛ばされたまま動かなくなっているアリスの身を案じて一歩踏み出した。

 すると、まるで足が無くなったかのように踏ん張りがきかず、地面に倒れた。

 そこでようやくエルドは自身の体がとっくに限界を超えていることを自覚した。

 足に力が入らず立つことができないエルドは、腕の力のみで地を這いずってアリスに近づいていった。

 しかし、エルドの視界は既にかすみ始め、アリスまであと少しというところで力尽き、地に伏した。


 それとほぼ同時に玉座の間の扉が開かれ、複数の足音がエルドとアリスの元へと駆け寄った。


「エルドさんッ! アリスさんッ!」


「お姉ちゃんッ! しっかりしてッ!」


「殿下ッ! お気を確かにッ!」


「マズイですわ……! すぐに手当てしないと手遅れになりますッ!」


「私がやるわ! クレア! エリス! 二人は清潔な布や包帯、あれば薬やお湯も探してきて! ガレン様とディアナは私が傷口を縫合する手伝いをお願いッ!」


 皆が慌ただしくも必死に奔走している様子を、どこか遠くのことのように感じながらエルドは意識を失った。

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