闇夜に沈む森・下
「カプセルみたいに魔法を物に付与することで、魔力消費を抑えるってこと?」
「そうですね。カプセルだと使用するたびに魔力は減っていきますが、反霊魔法なんかだと少しずつ減っては行きますが、私が常時発動するよりは抑えられてると思います」
森の中を歩く九人。狒々の皮や骨はアルマスの持っている、素材収納用である一回使い切りのカプセルの中に収納し、狒々の肉はレオンの肉貯蔵用のカプセルに収納された。
ヒトの小指ほどの大きさはあろうかという爪と犬歯は、マロンの魔法が付与され九人にそれぞれ配られた。マロンはずっと発動させていた魔法をとめ、リリアに背負われながら魔力の回復に勤しんでいる。
しかし体力的にまだまだ余裕がある(マロンを背負ってはいても)はずのリリアや、底抜けに明るいはずのシャルロッテは無理しているように明るく喋っていた。
「ねぇー、村ってどこにあるのー」
「あと二キロくらいだから頑張れって……」
「もう疲れたー」
ケタケタケタケタ……
「ひっ!」
「また!!」
体を強張らせるリリアとシャルロッテ。マロンの魔法の時は全身を覆われていたため、そのような事象は感じなかったものの、爪と牙となった今では【永夜の山麓】地方の黒花獣、幽霊(ファントム)の笑い声が聞こえてしまうのである。
今現在視認は出来ていないものの、断続的に幽霊の声が聞こえてくるのである。
「もう怖いぃぃ……やだぁ」
「お布団潜りたい。もうやぁ……」
そろって泣きべそをかくリリアとシャルロッテ。ゼルレイシエルとアリサの年長組二人が慰めようとしているが、アリサの方は明らかに鳥肌が立っておりビビッているのは明白であった。
「うぅぅぅ……ねぇマロン。魔法使っちゃだめなの?」
「ごめんなさい……魔法の付与で魔力を結構使ってしまったみたいで……今は使えそうにないです……」
「そんなぁ……マロンちゃ……」
珍しく弱気になっているシャルロッテを見て嘲るように笑うマオウ。笑われた少女は目じりに涙を浮かべながらも、反抗的な目でマオウを睨んだ。
「幽霊ごときに怯えるたぁやっぱガキだな」
「うっさい! だって幽霊とか武器当たらないもん! 壊せないのに攻撃してくるとか嫌いだし!」
キィェァァァァァァァァァァァァ
「「ひっ!」」
「……」
森に響いた声に同時に悲鳴をあげる少女二人。レオンが呆れていると、ふと不可解なものを見つけた。
「あれはなんだ……村か?」
「村……? 何言ってんだ。影潜みの村までまだ二キロは……って、マジだ」
レオンが呼び指したのは一行の進路方向からみて右斜め前方。木製の塀が建ち並ぶ内側に、人工物が建ち並んでいた。家や街灯といった明らかにヒトの住んでいるような、村があった。
「なんでこんなとこに村が?」
「おい、アリサ。てめぇの機械狂ってんじゃねぇのか」
「んなわけねぇだろ! 俺だってわけわかってねえよ!」
クラッキング技術すら持つ機械に強いアリサと、機械というものが苦手で自身の端末でも通話とメールしか使えないマオウが言い争いをする。しかし機械のきの字の知識もないマオウに反論しても、のれんに腕押しと言うべきか、糠に釘と言うべきか。まったく言葉が通じないので最終的にアリサが諦めのだった。
ミイネ以外の六人はそのやりとりに呆れつつ、ジッとその村を観察する。
「どう……? アリサ兄の機械が壊れたりとかだとおもう?」
「……五分五分。このあたりで電磁波の異常が起きてるってんなら機械の異常だろうが、この深い森の中で電磁波の異常ってのもおかしな話だしな……」
「と、とりあえず休もう? ね?」
リリアがマロンを背負いながら提案する。シャルロッテも一刻も早く床に就きたいのか、首を縦にブンブンと振った。他の六名は訝しげな表情を浮かべながら村を見ていたが、二人の動揺具合を見て村へと向かうことが決まった。
「けど、この村ってお札は貼ってあるんでしょうか……」
マロンがリリアの肩越しに村を見ながら言う。丁度横に来ていたミイネがマロンの呟きに反応し、オートマタンらしく言葉の意味を伝えやすいように首を傾げながら言った。
「お札、とは?」
「えぇと……私が使える
「アリサ様はたしか精霊魔法が……」
マロンの説明を聞き、背後を見るミイネ。ずっとパソコンを弄っていたアリサは、自分の名前を呼ばれたことに気が付き、ミイネの言葉に答える。
「てかそもそも精霊魔法とか言われるけど、魔法とは別のものだけどな。とは言っても呪法と直結の法種でもないし、俺も視認は無理だ」
「ふむ……そのあたりのことはあまり勉強出来ておりませんでしたので、詳しく記録されておりませんでした」
「おっけー。大丈夫、あとで一息つけたら教えるよ」
「ありがとうございます」
アリサに頭を下げてお礼を言うミイネ。アリサが何故か誇らしげな表情をしていると、やがて不可解な村の門へとたどりついた。
門番は重装備の鎧を身に纏った騎士のような出で立ちの男で、鎧の奥には真っ黒な空間があるように見える。肌が真っ黒な種族というのも存在するものの、肌というような肉感的なものは感じられない。
「こんにちはー」
「……こんにちは、あんたらは、旅人? 行商人?」
「行商人に見えますか……?」
「ふふ、言ってみただけさ」
言葉に抑揚は感じられ、変につっかかることも無くしっかりと聞き取ることが出来た。だが鎧の男の笑い声には心を感じず、異様な希薄さを感じさせる。
「ひーふーみー……九人か? いらっしゃい。歓迎しよう。村長のところにでも行こうか」
鎧の男は手に持っていた槍を塀に建てかけ、九人を村の奥へと誘おうとする。九人が警戒して門をくぐらずにいると、彼らをあざ笑うかのように突如として背後から
突然襲い来るその音にリリアやシャルロッテ、アリサといった既に恐怖していた者達も含め、マロンとミイネ以外の全員が全身に鳥肌を立てて門の中へと脚を踏み入れた。
「な、なん……」
「心臓止まるかと思った……うきゅぅ……」
「…………」
それそれ恐怖によりバクバクと鳴る胸を抑えるマロン以外の花の騎士達。霊という超常現象は、彼らが戦闘の際に感じる「死ぬことへの恐怖」などの精神的負荷に近い物を持ってはいるが、やはりそれ以上に「理解不能なものへの恐怖」による生理的恐怖や悪寒というものを感じるのである。マロンのように幼少の頃から身近にあったものならば慣れもするものだが、普通は他の花の騎士のように異常な程の気分の悪さを感じるもので。
「やっぱおかしい気がする……この村」
レオンが忌々しげに呟く。その言葉は事実で、この場に居る九人全員が思って居ることであった。
アリサがパソコンをもう一度見る。向かうはずだった村の名は
その画面を横から見たゼルレイシエルが鎧の男に尋ねる。
「ねぇ、この村の名前って何かしら?」
「影潜みの村ですが……どうかしましたか?」
花の騎士達は嘘をついたようなそぶりすら見せない鎧の男の発言に、頭が痛くなるような不快感を露わにするのであった。
ここは影潜みの村。
地図の上では二キロ先にあるはずの村だ。
男の言葉は心を感じないであろう。
これは奇怪不可解恐怖の奇譚。
山麓の森の黒花獣。ファントム達は、花の騎士を嘲笑う。
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