正に夢の如く・下
一方、少しばかり遡り、男湯。女性達の慌ただしさとは一変して落ち着いた空間である。
というのもマオウは打たせ湯を無言で浴び、アリサとレオンは通常の湯船でくつろぎ、狼の姿になったアルマスは今にも溶けそうな顔をしながら、獣用の湯船に浸かっているためである。
壁を挟んだ向こう側の女湯でひと騒動起こっているとはつゆ知らず、まったりとした空気が流れる男湯。アルマスが湯船の縁に顎を乗せてうとうととし始めた頃、マオウが打たせ湯からアリサ達の入っている浴槽へと移動し、タオルを手すりに掛けたあと体が大きい為に肩までつかるのが難しいようで、肩の下まで浸かった。その後、アリサに話かける。
「そういや、後はどんな奴が居るんだ? でけぇ四つの機械のうち、この前の赤いやつがそれだったんだろ?」
「あぁ……そうだ。そういや前は疲れて言って無かったな……」
マオウの言葉に姿勢を正して答えるアリサ。マオウは勿論のことレオンもアリサの言葉を待つ。少し離れた場所にいるアルマスも片目を開けて耳を立てた。
「今は手元にパソコンが無いからまぁ詳しいことは言えんが……まずに二体、これはどちらも四足歩行の獣型だ。それぞれの形は同じみたいだが……目の色だけが違うみたいだ。右目が赤で左目が緑のやつと、もう片方はそれの逆で右目は緑みたいだ。」
レオンとマオウは頭の中で形でも想像しているのか、少し俯いて考え始めた。アルマスは獣用の風呂から上がると、体をブルブルと左右に振ってその真っ白な獣毛についた水滴を飛ばした。しっとりと濡れていた毛が水分を飛ばし、ある程度柔らかな毛に戻ったのちアルマスはヒトの姿に変わり、アリサ達の浴槽へと移動した。そして質問。
「どこに出て来るとかは、わからないのか?」
「個体名称がついているみたいでな。右目が赤なのはアウグセム、右目が緑なのはエウグレムって言うらしい。」
「それで?」
「んで、なんかその名前って意味あんのかなぁと、ゼルレイシエルに聞いたらとある猫系族の村の伝承に出てくる、双子の
「よりにもよって、猫かよ……」
アリサの言葉に複雑な表情を見せるアルマス。好意や理解などがありながらも、苦手意識などが全面に出ているようである。アルマスがそんな様子である為、レオンが代わりのように結論の推測を述べた。
「つまりは……次の目的地は人猫村って事か?」
「正解! ここから東に行ったところに【星屑の降る丘】地方唯一の猫系族の村があるんだ。そこを目指すって寸法さベイベー」
アリサの話を聞きながら一か所に集まっていた三人は、一往に顔を見合わせた。そして三人はアリサを仲間外れにし、それぞれの持っている情報をまとめ始めた。
「そういや、人猫が猫とヒト型になれるやつで、猫人が二足歩行のでけぇ猫だよな?」
「……まぁそれで間違ってはねえけど、なんだかなぁ……猫系はあと、猫又族ともう一種類がいたはず……なんだったか。レオン知ってるか?」
「お前が知らないのに俺が知ってるわけないだろ」
わざと仲間はずれにされている様子を見て慌てたアリサは、すぐさま三人のもとへと移動し情報交換の輪の中へと入った。
◆◇◆◇
多種多様な温泉に入り、そしてじゃれて遊びつつ女性陣が温泉を上がったのは一時間後のことだった。
美肌効果のある温泉の湯によって、肌はつやつやとしており、髪もしっとりとした獣人族にも負けずとも劣らない毛並みになっている。
体に浮く水滴をタオルでふき取り、ごくりと冷やされた水を飲んで喉を癒す。
そして服を着ている最中のゼルレイシエルが言葉を漏らした。
「それにしても、本当に気持ちよかったわね」
「ほんとに! 温泉って初めて入ったけどこんな感じなんだね」
「あら、リリア入ってこと無かったの?」
「うん。私の村は巨人族の村だからシャワーとかでも贅沢だし……、そもそも近くに温泉が無かったからね」
リリアが表情も変えずに言ったのを見て、ゼルレイシエルはその豊かな双丘のある胸で抱きしめると「よしよし」と頭を撫でた。そんな二人を見て苦笑するレイラ。傍らでは既に服を着て足首にリボンを巻きつけることに四苦八苦するシャルロッテの姿があった。
そんなシャルロッテを横目に下着をつけ、上着を着ようとレイラは黒い服を取り出した。苦しいと顔を赤くしながら訴え、やっと解放されたリリアはレイラの持つ服を見て首を傾げた。
「あれ?マロンってそんな露出の多い服持ってたの?」
「え? あぁこれね。これ凄いんだよ、マロンが作ったものなの」
「マロンが?」
「うん。たしか脳内のどーぱみん?とかそういうののぶんぴつりょうだかによって服のデザインが変わるとかなんとか」
「……まぁよくわかんないけど、人格が変わったらデザインも変わるってこと?」
「まぁそういうことね」
そう言いながらレイラが着たのは大胆に腹部を晒し、肩を露出した挑発的なデザインの元は黒いローブだったもの。そして、膝より上に丈がきたふわりと広がった黒のスカート。どうやら形状が変化したさいにスカートの一部がスパッツの形になったようで、スカートの中が見えても問題ないようになっている。
クルリと時計回りに一回転すると、見せつけるようにドヤ顔をした。
「どうどう? これ! マロンがデザインしたんだけど可愛いと思わない?」
「マロンが…? 以外な才能ね」
「可愛い可愛い! すっごく可愛い!」
「えへへ……マロンが褒められると私も嬉しいなぁ……」
頬を両手で隠して照れるレイラ。髪を梳かしながらゼルレイシエルが言った。
「二人とも、とっても仲が良いのね」
「そりゃあ勿論! ふた……姉妹だもの!!」
そう言ってレイラははにかむと、再び着衣を再開した。
女性達が着替え終わり、ロビーへと移動してきたのはそれから約十分後であった。レオンら男性陣はロビーのテーブルがおいてあるソファに座り、アリサのパソコンを覗きこみながら何かを話していた。
「なにしてるのー?」
「ん? やっと上がったのか……おせえっての。って、マロンお前急にその恰好どうした……」
レオンがシャルロッテの言葉に反応して振り向き、言葉を返すとマロンの姿恰好を見て驚きの声をあげる。他の男性陣も振り向き、マオウ以外の二人がリアクションを見せた。レイラはなんだかなぁ……といった表情をとると、男達が座るソファに体をうずめ、自分のことを説明し始めた。
◆◇◆◇
「二重人格……ねぇ」
「あ、やっぱり信じてない?」
「そりゃそうだろ、いきなり私は二重人格なんです。とか言われて、はいそうですか。って理解できるわけないわ。たちの悪い冗談にしか聞こえねぇっての」
レイラの言葉に思った言葉を率直に返すマオウ。それに同調するようにレオンも頷く。レイラは嘆息すると、ボソリと呟いた。
「はぁ……こうやって疑り深いから、男性は女の子にモテないんだってば……」
そんな嘆息の声に、
「別にモテても仕方ねえし、そういうのめんどくせえだけだからどうでも良いわ」
と、レオン。
「女なんかいなくても喧嘩が出来りゃ俺は良いんだよ」
と、マオウが言った。
女性陣全員の嘆息が漏れる。シャルロッテは微妙なところだが少なからずもいくらか乙女思考である彼女らからすれば、かなり頭がおかしい言葉に聞こえるもんである。
「まぁ良いんだけどよ。次の行く先決まったぜ」
「本当に? やっぱり……猫の?」
「ああ、その通り」
アリサが言葉にゼルレイシエルがすぐさま反応した。そしてそれに対するのは肯定の二言。そして、次の目的地を全員に伝えた。
「次の目的地は、ここ“宝砂温泉”から東!“黒双の人猫伝説”発祥の地。
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