イルミンスール・中
ゼルレイシエルは西側に伸びた大きな幹の上にいた。幅は三メートルほどであろうか。遠距離攻撃に特化した銃という得物を主に使うゼルレイシエルは、支援係として広範囲を見渡せる木の上にいた。無論、彼女に木登りの技術など皆無に等しいため、マオウにおぶさって連れてきてもらったのだが。
「皆、準備は出来てる?」
複数人での会話が出来るように通話画面を開き、ズボンのポケットに入れる直前のような形で構えた携帯端末越しに、仲間達に声をかけた。
木の中にいたアリサは電話越しに全員の声を聞いて「よし」と、うなずくと「いくぞー!!」と声を張り上げる。
そして、アリサは準備していたUSBケーブルをアンテナの差込口に差し込んだ。
ギャリ
キリキリ
途端に四方八方から金属が当たって擦れあう不快な音が響き始める。凄まじい数だとわかるほど絶え間なく鳴り、音が大きくなることから徐々に近づいていることもわかる。そして、なぎ倒された草むらや切り裂かれた木の間から機壊達が飛び出してきた。
アリサはその音を聞きながらもセキュリティの突破を急ぐ。
☆
大樹北西側。ここを守るのはリリアとシャルロッテの二人。リリアは両手に涼しい顔でそれぞれに剣を携え、その刀身に火を纏わせる。同様にシャルロッテも両手のランスに風を纏わせていた。破壊しなければならない敵対象の数は、合計でおよそ六十体。ゼルレイシエルの援護もあるだろうが、西側全域の支援をしているためあまり頼ることも出来ない。
「……よっし、頑張ろう!」
「ねえ、リリアん。競争しない? どっちが勝つか」
「流石にそんなこと言ってる場合……? マオウ兄とやっとけば良いじゃない」
「うあぇー……飽きてきたからなぁ……まぁ……来るよ!!」
彼女たち方面に多いのは獣の型をした機壊。なかなかに素早いため手数の多い二人がまかされたのだ。
まず一番最初に接敵したのはシャルロッテ。得物を右に薙ぎ、突き刺し、力任せに振り下ろす。一見すると荒らしくただ適当に振りましているように見えるが、しっかりと足を破壊して行動不能にさせたり、動力部を破壊したり等の無力化をしている。集中し、研ぎ澄まされた感覚で敵の身を切り裂かんとする爪の斬撃を紙一重で避け、上手くその勢いを利用しながら攻撃をしてきた機壊を穿ち壊す。
「一体、二体! ……三!!」
少しばかり遅れてリリアが戦闘を開始した。剣を乱舞し、熱で溶解した目の前の鉄の塊を切り裂く。
「……どんだけ切れ味良いのよ……金属を肉斬るみたいに切断するとか……斬った感触は微妙だけどさ……」
二つの剣が纏う炎は一瞬だけ空に赤い煌めきを残して消える。そして、一体の機壊の動力部を破壊する。
(あ、やば……!良く考えたらオイルとかかもしれないじゃん……!!)
と、動力部を破壊した後になって慌てて火を消すが、杞憂に終わったようで。倒した敵を見てみてると動力はバッテリーだったようだ。それでも危険な事には変わりないのだが、オイル等に比べればマシと言えばマシである。
(あ、焦った……)
目の前の機壊が突如として崩れ去る。おそらくゼルレイシエルの援護射撃だろう。リリアは心の中で感謝しつつ再び剣を振るった。
☆
南方面。マロンとレオン、アルマスたちが機壊と戦っている。
「フッ……シッ……オラァ!!」
右ストレート左ストレート。そして回し蹴り。
「“草甲(そうこう)”」
アルマスが言葉を唱えると倒れた機械から植物が生え、目の前の機壊の足を絡め捕って移動を阻害する。それを見たアルマスは手を鳥の足のように曲げ、イメージによって鋭利な爪を出現させたガントレットをつけて振り下ろす。
一機の機壊を切り裂いて無力化すると、続いてアルマスが体を深く沈めた。だが足を曲げているわけでは無く、彼の足が狼の後脚になっているのだ。人間の姿よりも優れた筋力を用いて一気に敵に飛びかかる。
そのアルマスから見て右側。レオンは巨大な鉄塊、いやハンマーを使って敵を粉砕、殴打していた。金属塊であっても有効打を与えうる打撃武器だが、彼の得物の打撃面にはさらに凶悪にも金属の棘が大量についている。敵にハンマーを当てるとその棘が突き刺さるのだが、機壊と打撃面が離れると同時に棘が分離して刺さったままで残っていた。蜂の針のようなものであろうか。
「“棘鎚(きょくつい)”」
棘も少なくなってきたころ、レオンが業の名を唱える。すると再びハンマーに棘が生えてきた。
そんな二人が戦っている所に一つの呼び声がかかる。
「雷、行きますよ!!」
「おう!!」
「わかった!」
その声を聞いた二人は後方へと撤退する。そして、二人は五メートルほど後ろへと下がると、“光で視界が焼けぬよう”俯いて腕で目を覆った。
「〔
目の前で凄まじい幾つもの閃光が発生し、バチバチと音がする。
しばらくしてレオンたちが目を開けると目の前の機壊達はみな動かなくなり、中には煙をもくもくと出しているものもある。イルミンスールにいた鳥達は電撃におどろいたからか一斉にどこかへ飛びだっていった。
「ナイス、マロン! よし、あとは討ち漏らしたやつを壊さねえとな」
「鳥さんごめんなさーい!」
☆
アリサは早々にクラッキングを終え、リリアを手伝っていた。本来の作戦としてはマオウの方を手伝いに行く予定だったのだが、シャルロッテがやはり暇だからとマオウの方へと絡みに行ったため、致し方なくこちらを手伝っているのだ。
切り上げ、袈裟斬り。一挙一動として攻撃が美しいながらも、アリサは確実に敵を無効化させていく。本人の技量と、最高レベルの切れ味を自己修復によって維持し続ける神聖銀の刀。二つが組み合わさって幾度もの斬鉄を可能にしていた。
調子よく倒し続けていたが、表情はどこか上の空である。
(まだだ……なんでだかわかんねえが、俺はまだ先にいける…!!)
そう心中で考えたアリサは何を思ったか腰に鞘を出現させ、その中に刀を収めた。
右足を前にして左手で鞘を押さえ、右手で柄を握る。そして、機壊が自身の方へと向かって来る中、全身の力を使いながら一気に刀を抜いて振りぬく。
振りぬかれた刀身は異常に長くなっていた。だが、それは刀そのものが長いわけではない。
鮮烈な輝きを放ち続ける電気が、刀を覆うように瞬いている。怖いほどの怪しくも美しい光は、アリサが刀を振る動きに合わせて姿形を変えていた。
アリサの目の前の空に薄い半月型の軌跡を残す。だが、その軌跡がアリサの目の前に残っていたのも刹那のこと。雷撃は振りぬかれた速度そのままに前方へと走り、前方の機壊を感電させ、上下真っ二つに斬り裂いた。
「……『雷光斬(らいこうざん)」
電気による遠隔斬撃。万物を支配下に置く天の花の祝福、それが無ければ再現も不可能であろう、文字通りに“ありえない攻撃”。機壊達を十体ほど駆動不可能にしながら段々と小さくなり、十一体目のボディに傷をつけたあたりで完全に消え失せた。
「すっご……」
近くで戦っていたリリアは素直に感嘆の声を漏らした。
「ヒューッ! よっしゃ、もっとかかってこいや!」
☆
ゼルレイシエルは樹上でライフルを構える。機壊の動力部へと狙いをすませ、引き金を引く。撃ち出された水の弾丸は通常の弾丸の速度を優に超え、その動力部を貫通していった。
次に狙いを定めた機壊には氷の銃弾を撃ち出した。氷の弾丸は水の時と比べて速度が劣っているが、的に当たった瞬間にその的を凍り付かせた。
「まだ……ね」
ゼルレイシエルは樹上で北側と南側の敵数を見る。南側の敵は今いる幹の上からでは確認出来ないところにいるようだ。少し思案した結果、ゼルレイシエルは地上へと降りる。木登りは出来ないが、地面も柔らかいため飛び降りるぐらいは出来た。着地に失敗する可能性は五分五分以上にあったのだが。幸運である。
そのまま北側へと駆ける。
手元には二丁の拳銃をそれぞれの手に握っていた。そのまま撃つような形で手を伸ばして銃を構える。
すると拳銃が変形を始め、ゼルレイシエルの肘の近くまで覆うほど大きくなり、まるで彼女の腕と一体化している大砲のような形になった。
「チャージ……」
銃口のような部分にそれぞれ水と氷の塊が作られていく。徐々にそれは大きくなっていき、バレーボールほどの大きさになった頃、ゼルレイシエルは言葉と共に引き金を引いた。
「ショット!!」
発射された銃弾はライフル時と比べても非常に大きいが、その見た目に反し同じような速度であった。
水の弾丸は機壊達を奥に奥に押していく。三体四体五体と押し、一番奥の機壊が岩にぶつかると玉突きのように奥から順に潰れていった。手前三体は駆動不能にならなかったようだが、どこかの歯車かなにかが悪いのか動きがぎこちなくなっている。水の弾丸の軌道上の地面は水に濡れていた。
氷の弾丸は地面に着弾した。そのまま弾けると、周囲の地面を氷つかせた。ライフルの時とは比べものにならないほどの範囲である。その範囲内にいた機壊は動きが鈍り、全く動いていない。
「まとめての足止めには良いかもしれないわね。」
ゼルレイシエルは再び左手の銃に、弾丸を溜めはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます