『審判』~逆位置~
Ⅰ
―――
「あ、お帰りなさい。もうすぐご飯できますよ。」
「あぁ。」
「座ってて下さい。」
「………」
蒼井さんの何か言いたげな視線に気付かないフリをして、私はキッチンへと入っていった。
初めて彼と一つになった日から、1ヶ月が経っていた。
その間に私たちは付き合う事になり、ついこの間からは同棲を始めた。
ソファーに座ってテレビを見ている彼を、ちらっと見てため息をついた。
あの日撮った写真を、翌日蒼井さんの大学の掲示板に貼った。
その日の夕方蒼井さんに呼び出された私は、緊張しながらもどこか吹っ切れていた。
罵倒されようが殴られようが、文句も言えない事をしたのだと覚悟した。
――
「…蒼井さん、私……」
「ずっと一緒にいて欲しい。」
待ち合わせ場所に現れた蒼井さんは、私を強引に抱きしめた。
「…え?」
「百合の傍にいたい。いさせて欲しい。」
「でも…」
「憎んだままでもいいと言っただろう。」
おもむろに私の体を離した蒼井さんは、真っ直ぐ瞳を見つめてきた。
「それでもいい。君の、俺に対する感情全てを受け止めたいんだ。」
「…許してくれるの?」
「許して欲しいのは俺の方だ。」
蒼井さんはゆっくり私の肩から手を離すと、夜空を仰いだ。
「あの事を、なかった事にはできない。」
つられて空を見上げる。
笑顔の蘭の幻が見えた気がして、私はそっと目を逸らした。
「だから百合、俺が罪を償うところを見ててくれ。できれば一生傍に……」
「蒼井さん!」
蒼井さんの言葉を遮って、私は彼に抱きついた。
「百合!?」
「私なんかが一緒にいていいの?」
「君がいい。」
何処か子どものような言い方に、思わず笑いが込み上げる。
その笑顔を隠すように、私は自分から彼の胸に顔を埋めた……
――
「蒼井さん、ご飯できましたよ。」
「あ、あぁ。」
「食べましょう。いただきます。」
「………」
無言で箸を持って食べ始めた彼を、私は笑顔で見つめた。
「美味しい?」
「あぁ。」
「もう!さっきからそればっかり。何か感想はないんですか?」
「うん。…美味い。」
「そう、良かった。」
私は短くそう言うと、笑顔のままご飯を食べ始めた。
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