53

 放課後。空と陸、小清水は一緒に海山家へ帰る。


 川谷は即帰宅。湊は用事があるとのこと。竹田は彼女とデート。

 小清水はあまりものである。


 桃木の件について竹田と湊、小清水には話を聞いてもらえた。

 竹田はもう関わりたくないらしくノータッチ宣言。

 湊は用事が忙しいらしく、手は貸せないと。

 川谷にいたっては、話すことすらできなかった。休み時間になるとすぐに席を立ってしまうからだ。


 海山家に着いた三人。


 空がリビングに入ると桃木が抱き着いてきた。


「おかえりー! 杏寂しかったぁ。でもね、いい子にしてたんだよ!」


 上目づかいで空見る。目はうるんでいる。

 すかさず陸が二人を引き離す。


「ちょっと! 空ニィに抱き着かないで!」

「なんなの? 君だれ? 彼女?」


「――な!? ……妹だけど!」

「妹? だったら杏が抱き着いたってべつにいいじゃん!」


「いくない! ってかあんたね、さんざんリクのこといじめてたくせになんなの!」

「――え? 杏いじめなんてしてない……杏そんなことしない……」


 空が二人を止める。

 小清水は変わってしまった桃木を見て驚いている。


「これがあの桃木先輩かよ? ドスのきいた声はどうなったんだ? あのおっかない目は? これじゃただの可愛い先輩じゃん」

「そうなんだよ。クニツルが起きてくれれば色々訊けるんだけどさ……憑依と違ってどのくらいで目を覚ますのかもわからない」


「空ニィ! こいつのこと可愛いとか思ってんの?」

「いや――そういうことじゃなくて」


「サイテー。昨日だって違う女の子連れてきてたもんね!」

「おい陸!」


「フン!」


 陸はリビングを出ていく。そして階段を上がっていく。ドンドンと足音を立てながら。

 小清水が空の肩を組む。


「違う女の子ぉだと? おい海山。隠すなんてつれないな」

「…………今は関係ない。桃木先輩をどうするかの方が問題だ」


「へいへーい。とりあえず俺は竹田に電話する」

「え? なんで?」


「桃木先輩と仲の良い金子先輩と茶木先輩に連絡とるため。連絡先知ってんのは竹田だろ?」

「なるほど」


 桃木が頬を膨らませる。


「杏いい子にしてたのに!」


 小清水はスマホ片手にリビングを出ようとする。


「海山は先輩の子守りを頼む」

「まじか……」


 空はため息を吐き、テレビ台のところへいく。


「桃木先輩。ゲーム一緒にやります?」


 桃木の表情は明るくなる。



 一時間ほど経ち空は夕食の準備のため立ち上がった。


「えー。もうおしまい? 杏もっとやりたい!」

「先輩一人でやっててください。俺はメシの準備するんで。先輩お腹空いてるでしょ?」


 桃木は自分の腹に触れる。

 

「わかった。ひとりでゲームしてる」


 そのとき玄関から音がした。

 小清水がリビングに入ってくる。茶木も一緒。


「桃っち! 今日学校来ないと思ったらこんなとこで遊んでんじゃん?」


 桃木は茶木を見ると立ち上がり、駆け足で空の元に逃げた。そして背中に隠れる。


「また知らない人……」

「桃木先輩。大丈夫ですよ。あの人は先輩の友達です。きっと一緒にゲームで遊んでくれますよ」


「ほんと?」

「はい」


 桃木はゲームのコントローラーを拾い、茶木に差し出す。


「杏と……杏と遊んでくれるの?」


 茶木は桃木の肩を組む。


「当たり前じゃん」


 茶木はここに来るまでに小清水から状況を知らされていた。

 桃木の変わりようで戸惑ってはいるが、自然を装っている。


 小清水は空に耳打ちする。


「茶木先輩から桃木先輩のこと色々きいた。金持ちの家だけど家庭事情が複雑らしい。なんか、こうなって逆に安心してるっぽかったぜ? 茶木先輩」

「どういうこと?」


「桃木先輩は自分に帰るよりここにいた方が安全・・ってこと。茶木先輩の家に一週間泊ってたりしたこともあったらしい」

「…………」


「あ。クニツルのことは言ってねーから安心しろ」

「そうじゃない。この流れだと……桃木先輩はここに泊まるってことか?」


「まあそうなるな。クニツルが起きるまでは」

「茶木先輩の家は?」


「無理らしいぜ。家が格闘技の道場で厳しいんだと。その一週間泊ったときに親がブチギレたらしい」

「……春君ち――」


「無理無理。お前んち親が仕事でいないんだしいいじゃねーか」

「…………」


 インターホンが鳴る。

 空はインターホン画面を見る。映っているのは椿沢。

 小清水に画面が見えないように手で隠す。


 空は玄関に向かい扉を開ける。そして首だけを出す。


「――空さん。メールが返ってこないから不安で……」


 椿沢は申し訳なさそうにしながらも、空の顔を見て安堵した様子。


「すいません。スマホの調子が悪いみたいで」


 桃木と茶木の笑い声がリビングの扉を越えてかすかに響いた。


「女の声? 空さん!」

「え! いや今のはきっとテレビの音ですよ! ははは」


 椿沢は強引に扉を開け、玄関をのぞき込む。そして、ローファーの数を見て眉間に皺を寄せる。


「上がらせてもらいますね!」

「――ちょっと!」


 空の抵抗も虚しく、椿沢はズイズイとリビングの扉に向かった。


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