探ノ章

 大きな屋敷がいくつも点在する場所にきたが、門には門番が付いて、周りを柵で囲まれてる場所は結構な数があった。その中でも大きな屋敷、隠せそうな場所がある屋敷、それに目星をつけて、千景は忍術『天稟千里眼てんぴんせんりがんの術』を発動して、屋敷をのぞいていった。


 急いでくるあまりに、エルタにゴルビスの屋敷の目印となるものや、詳細な場所の位置を教えてもらうのを忘れたことを、少しだけ後悔した。時間がないのに……千景が覗く、どの屋敷の住人も、婚姻の儀の準備に追われているらしく、メイドや執事達が慌ただしく、動いていた。


 どれだ……こういうときにゲーム内のヴォイスチャットがあれば便利なのに……と千景は思った、その瞬間、ならばグループヴォイスチャットのパーティーを組めばいけるんじゃないのかと、すぐさま、プレイヤー操作キーを出し、天音の名前を入力する、するとすぐに承認が完了され、グループヴォイスチャットの名前の欄に、天音の名前が浮かび上がった。これはいいぞ「聞こえるか? 天音」「聞こえます、御館様おやかたさま


「天音、エルタに、ゴルビスの屋敷の目印になるものと詳細な位置の場所を教えてもらってくれ」


「エルタ様が言うには、建物の大きさが一番大きく、かなりわかりやすく屋根を、とがらせて、高さも一番高くしてあるので、頭一つ他の屋敷から抜けてるのがそうだそうです」


「わかったありがとう、天音、そのまま警戒を怠らないでくれ」


「かしこまりました、御館様」


 千景はすぐさま、千里眼の視線を、上から辺り一帯を俯瞰的ふかんてきに見ることが出来る位置にスライドさせ、エルタが言っていた一番大きくて、一番高いという、シンプルな特徴に当てはまる屋敷を探した。すると奥の方に、三つの尖塔せんとうが伸びる、大きな屋敷があった。遠くから見た時に教会かと思っていたが、そうではなかったようだ。千景は、その屋敷の様相から、ゴルビスの過度な上昇志向と、顕示欲けんじよくが見て取れた。門の柵の前には二人の衛兵が立っていて、周りを巡回している兵士もいた。千景は、ゴルビスの屋敷に近づきつつ、屋敷内に千里眼の視線を、潜らせた。


 屋敷の前面にある大きな扉をくぐるとすぐに、三百人くらいは簡単に入れそうなくらいの、白を基調とした大きなフロアーが広がっていた。そこには、金細工の調度品や、豪奢ごうしゃなシャンデリアが天井に備え付けら、至る所に天使や、旗を掲げた騎士等がモチーフのフレスコ画が描かれていた。その周りにある部屋を千景は、一つ一つ急いで覗き込む、一階はどうやら大勢の客を迎えるためにあるようで、化粧室や、古い木造の喫茶店のような感じがする部屋、ゲストルームらしきものと、応接室等があった。奥に進むと、メイドが扉から出てきたので、そこを抜けると、今ままで見た装飾された部屋とは違い、簡素ではあったが清潔そうな給仕室であった。そこから下に降りる階段を降りると、庭から光が取り込めるように設計された調理場があり、そこには、芋の山を前にして、それを無表情で皮を剥き続けているだけの調理人が二人、ちょっとした倉庫のようなワインセラーには、小さな机に向かい書き物をしている初老の男が座っていたが、特に変わった様子はなかった。


 一階と地下を、雑にだが見て回った限り、怪しい部屋や人物といったものはいなかったし、隠された部屋とか通路も見つからなかった。


 一階の入り口近くのフロアーに戻り、二階にあがる、フロアー近くにある部屋は、どれも一階と大差なく、客人用に用意された部屋ばかりであった。ニ階の廊下を更に進み、一つ一つまたざっと目を通していく、部屋の多さに若干じゃっかん、千景はうんざりしてきた。


 廊下が突き当りに差し掛かり、そこを曲がると、守護兵士付きの扉があった。やっと何か情報が得られそうな部屋がありそうな予感がして、千景は自分の体を、木の上に隠し、千里眼の視点に集中して、兵士達の間を抜け、扉の奥へと視線を移した。


 そこは屋敷の裏手にある湖が、一望できる部屋だった。この間取りと大きさからして、ゴルビスの自室であるだろうと推測して、部屋をくまなく捜索する、どの部屋もきちんと整理されていて、見る分にはなにも苦労はなかったが、あくまで千里眼の視線を走らせているだけなので、物を触って色々確認出来ないことがもどかしかった。しかし、この部屋も特に変わった様子もなく、誰かが隠れているということもなかった。


 大勢を呼んで、もてなすような屋敷に、自分の立場が危うくなるようなものを置くか? 為政者いせいしゃとしての評判を自ら落として、得する物はなにもない、デメリットだらけだ、千景は屋敷の捜索には見切りをつけて、湖に面したベランダから、外に視線を移し、もう一度、上から見下ろして見た、すると屋敷からそう遠くないところに、柵で囲まれた、重厚な壁が目を引く倉庫のような建物があった。


 そしてそこには、職種屍操師かばねそうし、種族人間、レベル25とこの世界に来て一番、高レベルのやつがいた。

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