姿なきものの挑戦
「なに!?」
コラドの機体が勝手に墜落するのを、スゥは見た。
「あたし、なにもしてないよね? 故障?」
「いや、械獣だ!」
ラージャ・グルラーが墜落する寸前、辺村は1体の械獣の姿を捉えていた。
カメレオンに似た四足歩行の械獣。
辺村は知らなかったが、それは絶遠がグスタフに忍ばせておいた械獣であった。
動力室の高い天井に張り付くようにして、ずっと活躍の機会を待っていたのだ。
動力炉を破壊しようとしたブルーとピンクを殺害し、次の獲物は、赤い巨神。
械獣はゆっくりと移動。
足底に仕込まれた
「どうしよう、ベムラハジメ!」
コクピット空間の中で忙しなく四方に目を走らせるスゥ。
械獣と違い、ラーディオスには時間制限がある。
長期戦は不利、いや不可能だ。
相手はただ、数分身を隠したままでいればいい。
それだけでスゥ達の敗北が確定する。
「こっちから見つけないと……」
「わたしに任せて」
ラーディオスが銀色の形態に変化。
メンカ・ラーディオスは大型のセンサーアンテナをいっぱいに伸ばし、敵の痕跡を探査する。
しかし――何の反応も返ってこなかった。
「まさか、逃げた?」
「わざわざコラドを墜落させるためだけに出てきた? ありえないな」
「ありえないなんてことはありえないって、誰かが言ってた」
「その台詞、希望的観測で使う奴初めて見た気がする」
背中に衝撃。
辺村は即座に背後を確認。
敵は幽霊のように、半透明になって風景に姿を溶け込ませていた。
「メンカ!」
辺村はラーディオスの視界に、敵のいるであろう範囲を色分け表示させる。
そこを狙って、メンカはロープ状にしたアロンズケインを投げる。
ロープはビルや尖塔を薙ぎ倒して地に落ちた。
手応えなし。
「もういない……?」
だが次の瞬間、色分けしたのと同じ位置に械獣が出現する。
「えっ!?」
大きく開けた口から勢いよく飛び出す
それが巨神を打つと同時に、電流火花が身体を奔る。
悲鳴をあげるメンカ達。
「あいつのいるとこ、さっき攻撃したのと同じ位置じゃん!」
「どうやらあの械獣、姿を消している間は無敵らしい」
「無敵って、ズルい!」
「ズルいといわれてもな」
ラーディオスの全形態中、最高感度のセンサーを持つメンカ・ラーディオスでも探知できない。
闇雲に撃っても無駄――消えている間は攻撃が通用しない。
光学的に姿を消しているというより、存在そのものが消失しているらしい。
透明械獣というより、幽霊械獣だ。
考えろ、と左右に視線を走らせながら辺村は自分に言い聞かせる。
この世にそんな都合のいいものがあるはずがない。必ず何か欠点が、つけいる隙があるはずだ。
「……昔見た特撮番組で、ペイント弾をぶつけるって手があったな」
「はーん? それはどこにあって、どうやって一瞬しか出てこない相手にぶつければいいの?」
「ですよね!」
衝撃。今度は右斜めからだ。
すかさず放ったビームが、半透明になった械獣をすり抜けていく。
そのまま械獣は完全に姿を消す。まさにゴースト。
ペイント弾があったとしても、道路を汚すだけだっただろう。
「消えながら移動も可能、か。しかしこちらの攻撃はすり抜ける。なんで地面はすり抜けない?」
「魔法の靴でも履いてんじゃない?」
「それだ」
辺村は注意深く地面をサーチ。
「たとえ幽霊となっても、あの世の自分とこの世の座標を繋ぎ止めるために依代が必要なはずだ」
「ベムラハジメ、何言ってるのかわからない」
「量子力学的にいえば、あいつは自身の波動関数を自在に収束・拡散できる存在ってことだが、再収束するためには自身を再び観測可能にするとっかかりが必要なはずだ。シュレディンガーの猫を成立させるためにはまず箱が必要っていうか」
「尚更ワケわかんないよ!」
「安心しろ、今回ばかりは言ってる俺も自分で何言ってるかわからん! あーつまり、100%消えると完全に無に帰しちまうから、1%でも実体化しなくてはならない、はずだ。でないと幽霊化と同時に地球をすり抜けて、次に出たときはマントルの中か宇宙空間だ」
「そうなの?」
「じゃあ、その1%とはどこか。足裏だ。地面をすり抜けないよう、足裏だけは実体化してるはず。言い換えれば今奴は足裏数センチか数ミリのみの平面存在といえる」
「要するに――足跡を探せばいいわけね!」
たとえ数ミリでも高さがあれば影ができる。
そして銀のラーディオスの
「探せ! おまえらは前、俺は背後だ!」
必死に目を凝らすメンカ達。
辺村の着眼は
だが、彼等は1つ考え違いをしていた。
彼等は必死にカメレオンの足跡を見いだそうと躍起になっているものの、避役械獣の足裏の構造はカメレオンとは違う。
避役械獣の足裏には、ゴム製のスパイクが数点。
そのわずかな切っ先のみがこの世に取り残され、械獣の存在をこの世に繋ぎ止めている。
大きさは小石に等しい。
もし械獣のすぐ足元に人間がいたとしても、気づくことはなかっただろう。
平面存在どころではない――むしろ『点』だ。
スパイクの先にはカメラとセンサーが内蔵されており、各スパイクから得られる情報を総合すれば、械獣は充分な『視界』を得ることができた。
こちらを探してキョロキョロ首を回すラーディオスを見ながら、械獣は注意深く足を這わせる――。
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