chapter5-14:邂逅!怪人達の頭目!
『――オメェら、なんでこんなことになってるんだか説明しろや』
エコーがかった、ガラの悪い声が辺りに響く。
この声の主が、怪人達の親玉。
それに対し、怪人達は俺相手とは打って変わって、うやうやしく駆け寄って対応する。
『は、はい親分!あのヒーローが、「クロコダイル」を連れてやってきて……』
『アイツら、人質取って俺ら脅しにきたんすよ!』
『なるほどォ?んで、なんて脅された?』
『『『え?』』』
目の前で繰り広げられる、まるで漫才のような光景。
そこに口を挟みたい気持ちは多々あった。
が、ひとまずのところは、あの怪人のボスであるロボット乗りが状況を理解してくれているようなので、静観する。
『え、じゃねェだろ?じゃあなにか、確証もないのに襲いかかったって?』
『でもでも!クロコダイルが……』
『……クロコダイル』
『は、はい!街でヒーローに襲われてるところを、ユウさんとリナさんに助けて頂きまして!ただそのせいで外が危なくなってお二人も逃げられなくなっちゃったので、ここに……』
『はぁ……』
『えぇ、だったらすぐに言ってくれよぉ!』
『めっちゃ言ってたよね!?』
『オメェら今日から一ヶ月拠点の掃除な』
……あの大型ロボットから響く声と、クロコダイルが俺の弁明したいことを全部代弁してくれている光景。
その漫才みたいなやり取りを、俺は死んだ魚のような目で見つめることしかできなかった。
――
これはとんでもない失敗で、悔やんでも悔やみきれないことだ。
誤解を解くために無抵抗を貫いたつもりが、相手の力を過小評価し過ぎていた。
これは俺の怠慢で……致命的なミス。
「せんせい、だいじょうぶ?」
「あぁ……わるい、かえって面倒なことになった」
心配してくれるリナに、素直に謝罪する。
……思えば、素直に反撃すればよかったんだ。
人の心を解そうが、襲いかかってきた時点で敵と断じて変身するべきだった。
相手が
改めて自分に戒めねばいけない。
無責任な
だから問答無用で、敵でもない相手には襲いかかるまいと、そう行動してきたし、今回もそうしたのだ。
だが……俺が戦えなくなれば、必然的にハルカや共に戦うリナに影響がでてしまうのだから。
このスタンスを貫くこと自体が、あるいは迷惑になってしまうかもしれない。
……こんなこと、一人で戦ってた頃は気付きもしなかったが。
そうして、思案してるうち。
――話し合いを終えたらしい単眼の巨大ロボットから声がかかる。
『ウチのバカ共が迷惑かけたな、ヒーロー』
「――「ヒーロー」じゃない……二度と、間違えるな」
咄嗟に、厳しい口調で反論してしまう。
……不味い、自分でもわかるほどに動揺しているらしい。
友好的に接してきた相手なのだから、利用するほうが得なのに……どうにも、焦燥が勝る。
だがそんな俺の否定を、相手は軽く笑い飛ばした。
『へへ、なんだヒーローは嫌いか?……ま、それ見りゃどこの所属かはわかるがなァ。
「なに?」
壊れた変身機を一瞥してのその言葉に、思わず耳を疑う。
所属がわかる……ということは、こいつは反英雄組織を知っているのか?
エゴ・トランサーと、そしてレイカという名前が出た以上、それは信じるしかない。
だが、どうして。
そんな疑問が、口をついて出掛けたとき。
『よ、っと』
巨大ロボットの背部、その項付近から重い金属音が響いたかと思うと、表面の装甲が開く。
そして中から蒸気が吹き出し……そのなかに、人影が現れる。
いったい、どんな姿の怪人がそれを動かしているのか。
そう思い、目を凝らすと。
「なに……?」
「せんせい、あれ」
そこに居たのは、怪人ではなかった。
灰色の髪に、橙色の瞳。
そして……ウロコ状でもなく、毛皮のようでもない。
肌色の手が、機体の足元にいる俺達からも見て取れる。
そして、遠隔操作でロボットの掌が俺達の眼前に置かれ、そこに肩を伝って一人の男性が駆け下りてくる。
……この、男が。
『挨拶が、まだだったなァ?』
『オレの名は「
この人間が、怪人のリーダー。
そんな驚愕の事実に、俺たちは眼を見張ることしかできなかった。
『ま、驚く気持ちはわかるがなァ。とりあえずウチ来いや、立ち話もなんだろ?』
そうして一迫 ギンジは要塞を指差して、着いてくるよう促す。
それと同時に、重々しい音をたてながらその正面ゲートが開放され……そのなかへ、ギンジは進んでいく。
そしてクロコダイルもそれに倣って着いていき、その場に残るは俺とリナだけだ。
「どうする?」
「まぁ……着いていくしかない。今外に出たって、大量のヒーローと鉢合わせるだけだ」
俺とリナは、お互いに目配せしてからギンジに追従することを選ぶ。
……これから向かうは、怪人たちの巣窟、その中枢だ。
一体そこに何があって、どうしてギンジは彼らの頭領を努めているのか。
アンチテーゼや意思のある怪人たちのことも含めて、聞きたいことは多々ある。
待ち受ける対話へ、改めて覚悟を決めて、俺は要塞の門をくぐったのだった。
◇◇◇
俺たちは一迫 ギンジとクロコダイルに連れられ、要塞内部へ侵入した。
―――そこには、想像とは大きくかけ離れた光景が広がっていた。
『いらっしゃいいらっしゃい!今日は地上から取ってきた魚が安いよ!』
『プラント産野菜!100%地下育ちの野菜はいらんかね!』
『そこのイケメン怪人さん、うちで作った服はどう?安くしとくぜ』
飛び交う客引きの声。
ガヤガヤと話し声がそこら中から聞こえ、人波でごった返した光景。
それはまるで、地上の商店街のようだ。
ただひとつ、大きな違いを上げるとすれば、それはそこに住む人々がすべて怪人だということ。
そんな、『怪人』というものの常識からかけ離れた光景に……俺たちは、ただ驚くばかりだった。
「驚いたかァ?怪人が、こんなふうに暮らしてるなんて」
「うん……驚いた。怪人って、もっとこう……」
「野蛮な感じだッてか?」
「……」
流石に、怪人で出来た人混みのなかでは明言するのが憚られたのか、リナが口ごもる。
『だいじょぶですよリナさん、ぼくらそんなに気にしてませんし!……地上にいる怪人が、人を襲ったりしてるのは事実ですし』
そんな話を、している最中。
周りからの刺すような視線を感じて、俺は振り向く。
見ると、何人かの怪人達が俺たちを見つめていて、俺と目が合うやいなや気まずそうに目を逸らす。
……単にギンジ以外の人間が珍しいからか。
それとも俺たちの話している内容に思うところがあったのか。
そのどちらかは分からないが……この話をここで続けるのは、お互いによくない気がした。
それを伝えようと前を向くと、ギンジも同じように振り向いていたようで、こちらに目配せしてくる。
「ま、こんなとこでする話じゃあねェか。あの一番でけェ建物がオレらの家だ、そこまで行ってから話そうや」
◇◇◇
ギンジ達の言う家は、まさしく居城と呼ぶにふさわしいほど仰々しい外観だった。
瓦礫が無数に組み合わさり構築された、雑然とした異形の建築物。
……まさに悪の組織の拠点だと、口にしそうになったことは心に秘めておく。
ともかく建物の内部、その最深にまで通された俺たちは、玉座のように飾り付けられたソファに横になるギンジの前で、椅子に座らされた。
挨拶もそこそこに済ませ、名を伝え。
俺はふと、背後の扉を見る。
唯一の出入り口である部屋の扉には、内外それぞれに怪人が二人ずつ詰めている。
もし、万が一。
ギンジが掌を返したようにこちらを攻撃してくるという可能性も否定しきれない。
となると、逃走経路に4人も怪人が立ちはだかる今の状況は非常に危険だと言えた。
先程の油断もある……普段以上に、危機感をもって臨まねば。
『にしても、災難だったなァ鳴瀬ユウ?怪人を助けて、ヒーローから追われたってェ?ハハ、笑えるぜ』
ギンジはソファの傍らのテーブルに積み上げられたフルーツを口に運びながら、上機嫌そうに笑う。
まったく、笑い事ではない。
その結果、助けた怪人の仲間に襲われたうえに、変身機まで壊されたのだ。
「あぁ、確かにな。その結果、助けた怪人の仲間に勘違いで変身機が壊されたんだ、とんだお笑い草だとも」
俺はすかさず、嫌味で返す。
……半分は自嘲だった。
早とちりで襲いかかられたことに腹を立てているのは事実だが、変身機が壊されたのが自分自身の責任であることは間違いない。
だが……まぁ、責任転嫁できるなら、それに越したことはない。
「あーあー、悪かッたッて、謝るよ。俺もアイツらはもうちょい冷静だと思ッてたところだ」
「……冷静、ね」
口をついてでた言葉。
頭を掻きながら苦笑するギンジの言葉に、違和感を抱いたのは確かだった。
彼は部下の怪人達を、心から信じてるらしい。
……どうして、だろうか。
疑問に思うのは、怪人側の態度もそうだ。
強大な力を持つとはいえ、なぜ彼等はただの人間であるギンジに付き従うのか。
その間の奇妙な信頼関係のようなものに、俺はただただ小首をかしげるばかりだった。
「一迫 ギンジ、あんたは能力者だろ?なんで怪人達のリーダーなんてやってるんだ?」
だから、つい聞いてしまう。
すると……ギンジは、ぴたっと果物を齧る手を止めた。
「なんで、かァ」
そして数秒、考えるような素振りをみせ。
「俺がアイツらを始めてみた時な、子供を護ろうとしてたんだよ。誰も見てねぇのに、自我のない超つえぇ怪人から、何人かでな」
しみじみ、語る。
「いい奴らだって、そう思った。だから苦戦してるアイツらと怪人の間に割って入って……ドカン!とやってやった……そしたら、アニキだ親分だって付き纏われて」
そう言うギンジの顔は、どことなく優しげだ。
初対面からこっち、この男の穏やかな顔を見るのは初めてかもしれない。
さっきも、この男は笑顔を浮かべながら、どこかで俺を値踏みしているように感じられた。
けれど……今、仲間との思い出を語っている姿は、それとは違う。
「そんなの守ってやんなきゃ、ウソだろ。だから俺はここにいる、そンだけだ」
「……って、俺の話なんざイイだろが、オマエのぶっ壊れたエゴ・トランサーのが重要だろ、オマエも」
「それは、そうだったな」
「とはいえ、こんだけ壊れたら直しようもない……正直お手上げだ」
俺は意識しないうちに、肩を落としていた。
……それを取り繕う気にもなれない、というのが正直だ。
素直に破壊されたことを伝えて、再度供給される保証もないのだ。
そもそもここにくる一週間前に、組織の何人かにレイカに気をつけるよう警告した直後のこと。
スナイプ・グレイブがチクリでもしていたら、今頃不穏分子として除名されてることだって十二分にありうる。
……だめだ、考えれば考えるほどにネガティブな考えが泡のごとく浮かぶ。
そんな俺に。
「なんだァ、エゴ・トランサーが欲しいのか?」
当たり前のことを、ギンジが言う。
「それは、そうだろう。壊れた以上、新しいものをどうにか手に入れないと……」
何を今更、と思いながら改めて思案する。
が、解決策はなかなか思い当たらない。
……それこそギンジ達のように、英雄達のオーディション会場を狙ってエヴォ・トランサーを強奪するか?
いや、どこでいつ行われてるのかも自力では探し出せないうえ、見つけたところで生身では。
いやそれより、エヴォ・トランサーのうちのいくつかはギンジ達が2個ほど奪っていったのではなかったか。
そのことを突けば、チャンスはあるか?
……いや駄目だ、エヴォ・トランサーが俺に使える保証がない。
エゴ・トランサーと要求する資格、適合する因子が同じだとは限らないのだ。
しかも、あの「英雄達」と同じ変身機を?
……冗談じゃない、吐き気がする。
考え込み、なおも頭を悩ませる俺。
そんな俺に、ギンジは。
「ンなら、俺のエゴ・トランサーいるか?」
「あぁ……そこら辺にあるっていうなら、欲しいくらいだ、だが……」
信じられないことを、告げた気がした。
俺は、あまりのことに一瞬聞き逃した。
今、コイツはなんと言った?
「……は?お前の、エゴ・トランサー?」
「おう、使い古しは気に入らねェかもだが、別に使ってねェからいいぜ?」
「どうして、持っている?」
「そりゃあ、お前……」
「――俺が
もっと信じられない言葉を、吐き捨てたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます