chapter5-7:アナタは敵か、味方か




 ◇◇◇




「貴方たち、25歳以下の子供……25年前の隕石騒ぎ以降に産まれた子供達には、生まれついて「能力因子」という未知の物質と、それを操る素養が備わっていたわけですが」


 俺が切り出した「怪人」についての話。

 それに対してレイカは一般常識をおさらいするように、怪人についての知識を開陳する。


 ……能力因子。

 それは俺達能力者が、大なり小なり必ず持っている固有能力の、根源となる物質だ。

 25年前の隕石落下時に国中にまき散らされたそれは、その時点で影響下にいたすべての人間の受胎能力に作用。

 以降の出生児を「能力者」という、未知の物質を自らの力として操る新たな人類へと作り替えた。


 能力因子は、25年の間に生まれたすべての子供たちにとって身体の一部。

 魂に結び付いているといっても過言ではない、ニコイチの存在だ。

 ……だがそれは力の源であると同時に、身体を蝕む毒素でもある。


「変身機の過剰使用には、リスクがある。その負荷が限界に達した時に起こりうる未知の体細胞変質現象……」


 反英雄組織アンチテーゼや「英雄達ブレイバーズ」が戦闘衣の装着に用いる能力増幅機器……変身機トランサーは、その毒性をも倍増させてしまう。

 軽度のものであれば、変身機内に取り付けられたフィルターがそれを抑制する。

 だが……もしもその機能では抑えきれず、変身者に濃縮された悪性の因子が逆流したとき。


 ――身体が因子に合わせるように、異形の姿へと変貌する。


「―――通称「怪人化」。それが、巷に溢れ変える怪人達の主な発生原因のひとつです」



 世間では知られていないことだが、自然に発生する怪人よりもヒーローが怪人となる例のほうが遥かに多い。

 その主原因である『英雄達ブレイバーズ』の手によって巧みに秘匿、隠蔽されているから、真実を知られることもなく、怪人が増えるほどに『英雄達ブレイバーズ』の需要も拡大していく。

 正にマッチポンプ。

 ……それこそ、所属しているヒーローすら承知しているのかどうか。


「怪人となると意識を失って暴れるか、因子側の自我が本体を乗っ取って好き放題をしだす、だったか」

「力もすごいんだよね、人間だった頃よりもずっと」


 俺に続いて、リナも知っている情報を口にする。

 思えば、リナは「英雄達ブレイバーズ」に対抗する戦士になって日が浅い。

 彼女へのおさらいとしては丁度良かったか。


「えぇ、そう。だからこそ、貴方が怪人化する直前で確保した「盗賊THIEF」の因子は、貴方の自我を奪わんとするほどに強固な力を持つわけで……」


 そう言うレイカの眉間に、少しずつシワが寄る。

 ……まずい。


「そんなものを、ピンチになったからってほいほいと使ったせいで、貴方は1ヶ月昏睡状態になったわけです!」


 案の定、レイカはお説教モードにはいる。

 こういうときの彼女は非常に面倒だ。言い返すと会話が異常に長引く。


 ここは……、


「……あのときの事後処理に関しては、本当に感謝してるよ」


 素直に、感謝しておく。


「えぇ、全くです!……ユウさんって素直に感謝とかできたんですね?」


 そんな俺の態度に、レイカは毒気を抜かれたように表情を和らげる。

 確かに、今まで彼女に対し素直に感謝をしたことなど、ハルカ絡み以外ではほとんどなかったかもしれない。


「……ま、しつこくいっても聞かないんでしょうけど、あまり無理はしないでくださいね?」


「善処は、するよ」


 朗らかに微笑みかける彼女。

 それに対し俺は、煮え切らないような返事しかできなかった。

 なにせ、俺はこの女を信用していなかったからだ。

 なにも昨日今日の話ではない、初めから。そもそもとして、この反英雄組織のことだって快く思ってなどいない。


 だがハルカを助けてくれたことにだけは感謝をしていた。その為に協力して、ヒーローと戦ったのだ。

 だが。


「……それで、これはもしもの話だが」

「?」


 その信頼は、過去最高なまでに揺らいでいる。

 俺が、急に話し出したことにきょとんとするレイカを他所に、俺は。


「変身機の因子増幅機構を、無線操作で働かせるようなことは可能か?」


 不自然な質問を、YESかNOでしか答えられない問いかけをした。


「なんらかの方法で怪人やヒーローが、変身機トランサーをつけている人間と繋がりを作った状態で、その相手の因子を意図的に暴走させるような」


 やけに具体的に、例を交えて。

 聞きたいことを直球で突きつける。


「――可能でしょうね」


 それに対しレイカは、表情一つ変えることなく返答をする。

 答えは、YESだった。


「といっても、因子を介して接続を構築できたのなら、自身のもつ毒性の高い因子を直接流し込んだほうが遥かに楽でしょうけれど」


 ごもっともな意見に、俺は納得してただただ頷く。

 それは、そうだ。

 今話した内容は、初耳であれば人一人を対象にした仮定のように捉えられるだろう。

 わざわざ無線で個人攻撃をするくらいなど回りくどい。

 直接不意を狙って悪性因子を詰め込んだ記憶触媒メモリ・カタリストでも突きつけたほうが、遥かに楽に怪人化を誘発させられる。


 至極真っ当な、納得できる返答だった。


「……ところで、なんでそんなことを?どこかでそういう話でも聞きました?」


 レイカはきょとんとした顔で、俺に伺いを立てる。

 藪から棒に何の話だろう、という顔。

 その奥に焦りや、苛立ちといった感情は一切見えなかった。


 だから、俺も何事もないかのように返事をする。


「――実は、この間怪人と交戦したときに似たような事例をみてな。もちろん被害者が怪人化する前に両方とも倒したが、これからも似たような個体が出てきたり、ヒーローがそれを利用したりすると面倒ごとになりそうだと思って」


 嘘だ。

 そんなヒーローも怪人も、俺は一度だって見たことはない。


「なるほど!……って、そんな大事なことあったなら真っ先に報告してくださいよ!」

「悪い、他の考え事をしてて」




「……とにかく!その件についても調べは進めてみます。では一旦ブリーフィングは終わりで……そのうちまた、任務の連絡をすると思いますのでそのつもりで!」


 レイカはそういうとパンッ、と手を鳴らし、会議の終了を宣言する。

 俺達はその声に合わせて、そそくさと会議室を後にしようとする。


 そして、ドアから廊下へと出るそのとき。

 俺は、ふと振り向いてレイカへと視線を向ける。


 彼女も会議が終わったことから、俺に背を向けて手元の端末で他の構成員と通信を取っているようだった。

 その背中を、俺は睨みつけて。


 ――彼女が本当は敵なのか、味方なのか。

 それだけを、考え続けていた。




 ◇◇◇




 <真人類社会創造計画:沿革>



 <計画概要>

 新人類社会創造計画(以降本計画と表記)は、因子を持つ新人類である「能力者」がより健やかに生活を営める社会を実現すべく、発案されたものである。

 本計画は、既存の人類=旧人類による能力者への一方的な差別、弾圧を抑制し、新人類によって結成された政府により旧人類を制御、管理することを主目的とし――





 <発起人:>




 <外宇宙由来因子研究機構>

 主任研究員:若林



 ◇◇◇

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