chapter4-2-12: 学園最高のflirt with!

 ◇◇◇


 日付は変わり、そこは翌日朝の校舎裏である。

 リナの話を聞いた俺……鳴瀬ユウは、そこに協力者の二人を呼び出して、作戦会議を開始した。


 ……こんな電撃作戦を決行することになったのは、昨日にリナから提供された情報が原因だった。

 ゴルド・カンパニーとの連絡回線の位置が校長室と確定でき、城前カナコの所在が明らかになった。貴重なそのタイミングを、決して逃すわけにはいかなかったのだ。


 だからこその決戦である。

 ウカウカしていたら、回線も、城前カナコも別の場所に移されてしまう危険性がある。あるいは既に……という可能性だって否めないのだから。

 だからなるべく今日で全てを解決するように立ち回り、一旦学園を離脱する。それこそ俺が定めた、不退転の決意であった。


「……それじゃあ、作戦を説明するぞ」


 俺がそう前置くと、協力者であるリナ、シズクはこちらに頷く。


 ―――作戦のフェイズは、大きく分けて3つだ。


「まずは東照宮が、学長室の鍵を開けたタイミングで学長に相談を持ちかけてそこから引き離す」


 まずは一段階目。

 東照宮 シズクを囮にした、学長室への潜入。

 まずこれが成功しないことには全てが始まらない。一番重要なファクターであり、彼女には一番最適な任務。


 なにより一番よかったのは、彼女が元はマナカの側近であったということだ。今でこそスケープゴートの対象と化してしまった彼女だが、その経歴は非常に役に立つ。

 学園長が悪人であれ善人であれ、そんな彼女の相談を無下にすることはあるまい。なにせ……間違いなく「マナカに逆らった教育実習生」と繋がりのある生徒なのだから。


「まっかせて!このお嬢様学校に生徒は数あれど、他校との合コンに行きまくってる子は私をおいて他にはいないんだから!最高の媚びってやつを見せてやりますよ!」


「なんかその自慢すげぇやだ」


 目をキラキラさせて誇らしいんだかなんだか分からない自慢をする彼女を放置して、俺は次の段階の説明をする。


「……それで、俺とリナはその隙に内部に侵入。内部で俺はデータの持ち出しを、リナは捕まってると思われる、城前の痕跡を探る」


 二段階目は俺と志波姫 リナによる校長室の調査。

 そこにあるという「ゴルド・カンパニー」への直通回線、PC端末を捜索する俺と、地下室への道を捜索するリナによる手分け作業である。


 回線を確認しだい、持ち込んだ空白の記憶触媒へとそのめぼしいデータを抜き出す。これで俺の第一の目標は達成されるという寸法だ。


「あ、でも学長室には確か監視カメラがたくさんあるって!もし気付かれたら……」


「……今日を決戦としてしまえば、問題ない。情報を抜き出し、城前 カナコを救出し、多賀城 マナカを制圧する。……それしか、活路はない」


「ただ監視カメラに関してはこちらから細工をするから、即座にバレるようなことはないはずだ。一定の時間は稼げる」


 そう言うと、俺は一つの記憶触媒を二人に見せる。

 それは「映写機CINEMA」の記憶触媒である。ヒーロー「ホロウ・ヴィジョン」から回収した幻影を投射する能力因子が込められた物。

 つまりこれを使って、監視カメラには誰もいない状態の映像を写し出す。それで時間を稼ぎ、目当てのものを回収する手筈である。


 そして、最後。


「最悪の場合、城前 カナコの救出は後に回す。それより優先すべきは多賀城 マナカの撃破だ」


 最終目標は、この学園の惨状の根本原因であり、「英雄達ブレイバーズ」幹部でもある多賀城 マナカの撃破および能力の回収。

 これは本当に最悪の場合の話だが、万が一城前 カナコ学園の発見できなくともマナカからその所在を聞き出せば問題はないのである。


 ―――強いて問題があるとすれば、彼女に俺が勝てなかった場合全てが台無しになるということだけか。


 だが……そんなリスクは、考えるにも値しないとのだ。俺は全てのヒーローを、ヒロインを潰す。ただの一人も例外なく、である。


 どのみち何れ倒さねばならない相手なら、いつ倒そうと変わりはしない。

 ならば……全霊をもって、撃破にあたる。それだけだ。


「急にはなるが、この計画はこのあとすぐにやる。タイミングは、学長が職員室から学長室に戻るその瞬間だ」


 斯くして、潜入と呼ぶにはあまりに力業な、俺たちの強行突入作戦が決行された。



 ◇◇◇



「……僕は、やっぱり最低だな」


「……?先生?」


 俺は思わず溢しながら、目の前の光景を眺める。

 哀れ、学園長は何も知らずに真っ直ぐと自分の私室へと向かう。その進行方向の物陰に、自分を毒牙にかけようと企むシズクがいるとも知らず。


 まるで美人局つつもたせを扇動しているようで気分はかなり良くないが……しかし、現状これ以上に最適な手段はあるまい。


「なんでもない、いくぞ」


 俺は罪悪感を振り払うと、突入の準備に備える。

 チャンスは一度きり、シズクが学園長を引き離したその瞬間だけだ。


 そして学園長が扉の前に立つ。

 手にしているのはカードキー。それを端末に差し込み、学長室の施錠が解除された。


 ……今だ。


「せんせー!」


「おぉ!?なんだ、きみは……あ、たしか、東照宮ちゃん、だったかな?」


 シズクは颯爽と躍り出て、学園長の前へと潜り込む。

 そして……キラキラとした上目遣い。

 俺ならあざとすぎて吐き気がするほどの媚びっ媚びの態度だ。流石、百戦錬磨を自称するだけのことはある。


 ―――ここまできて俺は始めて、東照宮シズクという少女を味方に率いれられたことに感謝していた。

 彼女以外、こんな作戦に合致した人間は校内を探してもいなかっただろう。残念なことに、俺もリナもいささかに過ぎる。


「じつは、ご相談がありまして……大事な、大事な相談なの!マナカちゃんに関することで!」


 手はず通り、学園長である多賀城 コウゾウへと相談を持ちかけるシズク。

 だが単に媚びるだけでなく、シズクは学園長の注意を惹けるマナカの名前を口にする辺りが周到だ。

 これがリナだったら、もう少し警戒されていたところだろう。だが……元側近のシズクの言葉なら、話は別だ。


 学園長はその言葉に、ついにその足を部屋からシズクに向け直す。

 だが、その顔は依然鍵へと向けられている。

 まずい、ここで閉められてしまっては引き離した意味が―――、


「……!?わかった、それなら聞こう。ちょっと待ってくれ、鍵を……」


「超いそぎだから、ちょっとすぐ来てよせんせー!」


 よし、ファインプレー!


 思わず俺は物陰でガッツポーズを取る。


「……」


 傍らのリナからの冷ややかな視線が、痛い。

 くそ、どうにもここにいると素に戻りがちになっていけない。

 学校という環境が懐かしくてか、リナ達という明確な協力者がいる状況が心強くてかはわからないが……再度気を引き締めねば。



「うわぁわかった、いくから引っ張らないでくれ!服が!」


 そうこうしてるうち、学園長、多賀城 コウゾウはぐいぐいと引っ張り続けるシズクに根負けしたらしい。

 彼女の言うままに、彼は外れの空き教室へと向かっていく。


 ……鍵はそのまま、オートロックが作動する気配もない。


 今だ、今しかない。



「……よし、いくぞ」


「うん……!」


 俺の言葉に、リナはそう強く返事をする。


 扉は現代には珍しく取っ手がある木造タイプのもので、俺たちはそれを開く。

 すると扉は問題なく開き、その先には本棚や最深の机が目を引く、ステレオタイプな情景が広がった。


 こうして俺たち二人は、学長室への侵入を敢行したのであった。

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