あの日交わした契約を私は決して忘れない 3/7
緩やかな坂を更に222歩上っていき、開けたあぜ道を237歩直進して、左に80度曲がる。8歩先に蓋の無い排水溝が左右に続いているから気を付けて飛び越えないと、ワンピースが泥だらけになっちゃう。彼に買ってもらった一番のお気に入りだから汚したくはないからね。
念の為、足で地面の感触を少しずつ確かめていく。あった、コンクリートと先に何も無い場所。幅は30センチほど、普通に飛べば大丈夫……なはず。
「よし!」
無駄に気合を入れて、腰を落として、いざ飛ぼうとした瞬間、
「なにやってだぁ?おめっさん」
ズルッ!バチャッ!!
「あ……」
完全に出鼻を挫かれた左足は本来の目的点より手前の、よりによって、排水溝に着地した。一瞬で足首まで溺れる。いや、この分だとスカートも泥だらけだろう。最悪……。
「あーあ、だいじょうぶかぁ?」
誰のせいだと……。いや、悪気があったわけじゃないのは分かるけど。
声のした左斜め後ろを向く。多分50~60歳くらいのおじさんだろう。
「あ、はい。大丈夫です」
愛想笑いをしつつ、足を引き上げ排水溝の向こうへ渡る。正直あまり関わりたくない。そのまま歩き去ろうとした私へ、やはりというか声をかけられた。
「おめっさ、どこいくで?」
「……あ、ちょっと散歩してるだけで……」
「さんぽて、おめっさひとりじゃあぶねーべや。だれかほかにおらんけ?」
「いえ、大丈夫です。道は分かりますから」
「みちわかるて、ここのもんじゃねっぺ?」
「まあ、そうですけど……」
あー、これはまずい。非常にまずい。話しながら遠ざかろうとするけど、一向に離れてくれない。このまま追いかけられたら本当にまずい。今だけは田舎特有の他人への優しさが恨めしい。
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