あの海に落ちた月に触れる

作者 郷倉四季

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★★★ Excellent!!!

※過度なネタバレは控えているつもりですが、できることなら未読の方には先に本作を読んで頂きたい。


幼いころから兄の暴力に苦しみ、自分を抑えて日々を過ごしてきた主人公、矢山行人。
自分の欲しいものすら口に出せず、意思を形に出来ず、ただただ兄のされるがままに屈していた幼少期。それにより、彼は歯を折られるほどの痛手を強いられたが、それ以上に心に負った傷は甚大なものだった。

普通の子どもなら、早くに心折られて再起不能になっていてもおかしくはないだろう。
しかし、その絶望と向き合えるだけの希望を、彼はまた享受していた。
幼馴染の秋穂。彼をここまで繋ぎ止めてきたのは、彼女という存在があったからこそだ。自分では釣り合わないと行人自身も感じるほど、秋穂は花も実もある女性だった。

行人と秋穂。互いに揺るぎない信頼と愛情を携えていながらも、彼の気持ちは揺れ動いていた。中学三年生、多感な青春期。感情の揺れ動きや迷いが生じるのは当然と思われるが、行人のそれは今後の人生を左右するほどのものであったのだと思う。

これまで心身に多大な傷を蓄積してきた彼は、中学三年生になった今も、変わらず自身の意見や欲しいものすらはっきりと主張できず、意思を顕在化できない少年だった。
それは、行人の兄の彼女である美紀の「君の言葉には、いつも重さがないよね」「実感のない言葉をぽんぽん投げているような気がする」といった台詞からも感じられるだろう。
兄にされるがままに屈してきたことでいつの間にか失ってしまった個性やプライド。それが彼の自信を蝕み、この先自分がどう生きてゆけば良いのか判断できなくさせたのだろう。

本作は彼の“自分探しの旅”のようなものだったのではないかと、読み終えてから感じた。
彼がどういう答えにたどり着いたのか、それはぜひ自分の眼で確かめて頂きたい。

一人の少年の迷い・苦悩・葛藤。それらを繊細に、… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

主人公は、行人という中学三年生の少年。
中学最後の夏。夏休みのすぐあと。
彼と登場人物たちとの間で、会話が交わされ、時にちょっとした夜歩きの冒険を経て、彼の物語が進んでいきます。

彼を取り巻く、不登校、いじめ、家庭内暴力、病気、性への興味――
それらはなにげない日常のひとコマとして、少年の目を通して淡々と進んだかと思うと、その時々で立ち止まっては少年の中で彼らしい思考を繰り返します。

少年の一人称による感情の吐露がとても巧く。
少年少女の間で交わされる会話はテンポよく、時にコミカルで。
グイグイと読者の目を惹きつけます。
少年の、まだ広くはない視野と幼さを残した心情に、気がつくとどっぷりとはまっていきます。
この筆力の高さ。
恋愛もの・現代ドラマを書かれている方にはかなり参考になると思います。

ラストでわかる、タイトルの意味がとても素敵でした。

★★★ Excellent!!!

 主人公は、まるで溯上をしようとしない魚のような雰囲気があった。小説の主人公と言えば、人間関係が苦手で、不器用な人を思い浮かべるが、この主人公はまるで泳ぎ方を知っているみたいに流れを行く。それはスクールカウンセラーの女性の言葉に、よく表れている。この女性は主人公の兄の元彼女だ。
 主人公が人間関係を巧くやっていく分、主人公を取り巻く登場人物たちは、不器用さがある。ゲームをやりながら主人公を待つ、不登校の少女。短命だが能力に勝る兄貴。その彼女。病院から決まって金曜日に逃げ出す少女。
 きっと皆、神様を探して生きている。
 自分の思い浮かべる、神様を――。
 青春の生と性の中でもがく様が、主人公の目を通して綴られていく。

 是非、御一読下さい。

★★★ Excellent!!!

私はたまたま「眠る少女」「拳銃と月曜日のフラグメント」「南風に背中を押されて触れる」という順番の後で、この作品を読みました。

「南風に背中を押されて触れる」は
まだ連載中です。

登場人物の今と過去を知る事が出来て、
私が読んだ順番は偶然ながらも良かったなぁと思っています。
(どの作品から読んでも大丈夫な小説になっています)


思春期特有の何でもない風に装いながらも、
実は言葉たった1つで傷ついてしまう危うい繊細さ。まるで世界はそこにしかない様な閉塞感を
思い出した気がします。

そこに絡んでくる性と生。

主人公の行人は軽薄な様で、
実は性に対して性欲だけではなく
自分をも変えてくれる何か期待しているのです。

「セックスは肯定してもらえるもの」
と思っているところからも
軽薄さは表面上のもので、むしろ潔癖さを感じました。

ただ、本当に好きな子をその対象に出来ないというか、しないところが、
この話の複雑なところで……。
1番重要なところではないかと単純な私は思っています。


ここから「南風に背中を押されて触れる」
へと、時は飛ぶのですが、
そちらはそちらで色々な事柄が枝分かれの様に
なっていて……。

どの作品を先に読むかで、
印象が変わるかもしれません。

ただ、どれから読むにしても、
思春期の青さにどっぷりハマりたい方には
こちらをオススメします。

そして、こちらを読んだら
「南風に背中を押されて触れる」も読んでしまうことでしょう。

逆もまた然りなのです(笑)

他の小説も……。




★★★ Excellent!!!

思春期の微妙な性について扱った作品です。

爽やかななタッチで描かれているので、読みやすいです。

女の子たちのキャラがいいです。
そそる台詞を言う女の子良い。

深い会話が考えさせられます。

神様とは何か。セックスは何の証か。

タイトルも良く、最後まで印象に残ります。

★★★ Excellent!!!

主人公の行人は15歳。
中学3年生男子らしい好奇心と、戸惑いと、
ある種の達観をまとって生きている。

女の子も気になる。
仲のいい子がいて、何かと気がかりな子がいて、
兄の彼女も魅力的。
そうなれば当然、性への興味は尽きない。

学校ではいじめがあり、
不登校の生徒もいて、街には暴走族がいる。

そんな環境のなか、
迷いながらも“成長”していく行人の姿がすがすがしく、
読む者の手を止めさせないフックも配置されていて、
納得できるエンディングも用意されています。

あくまで淡々としてクールな筆致。
そのことが、「青春の生々しさ」を
より色濃く浮き彫りにしているようにも感じます。

若干――ほんの小さなことですが、
わずかなほころびを感じる部分はあります。
が、作品の本質を揺るがすほどのものではなく、
本作が素晴らしい青春小説であることに変わりはありません。

お見事でした!