黄色と赤

運河の見える橋で一本取り出して火をつける。

フゥゥー。と吐き出した煙の毒々しさを遠くに見える無数のオフィスビルや高級マンションが放つ黄色と赤の光で掻き消す。

そんな煌びやかな街がボヤボヤとした曖昧な光になるまで目を細め

フィルターから味わう。

もしこのタバコの箱の中に一本だけ毒が塗られていたとしたら。

僕は大事に大事にその一本を扱うだろう。

「その時が来たら吸わせてくれ。」

フゥゥー。煙は一瞬、形を保ったかと思うと景色の中に溶けた。

もしその一本が取り上げられ

朽ちて

吸えなくなってしまったら?

どうしようか。

僕は漠然とした死よりも恐ろしい選択を迫られるのかもしれない。

取り上げた本人を階段からでも突き落として僕も死のうか。

「死」を怖れて何もせず時が僕を連れ去るのを待つか。

どちらにせよはタバコの為の「復讐」などではないのかもしれない。

は死ねなくなった僕の為の「復讐」なのかもしれない。

僕。

エゴ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る