小話・花恋の昔の恋と新しい恋。
「あのね今日ね、あやめちゃんと昔遊んでた頃の夢を見たの」
花恋ちゃんと街へ遊びに行き、そこでタピオカドリンクを飲んでいた私に花恋ちゃんが突然そんな事を言いだした。
…私はびっくりして飲んでいたタピオカを喉につまらせてしまった。
「…‥あっくん時代の?」
落ち着いてタピオカを飲み込んだ私は咳払いをして、花恋ちゃんに聞き返した。
「うんそう。ほら、あやめちゃんたら中国雑技団ごっことか言って、ジャングルジムのてっぺんで逆立ちした後回転しながら飛んだじゃない」
「あぁー…」
私の黒歴史が詳らかにされていく…
やめて…やめてくれ…
「ビックリしちゃったけど、無事着地しちゃうんだもん。すごかったぁ。それとね、体の大きな5年生の男の子と陣地争いして喧嘩したこともあったでしょ?」
「花恋ちゃん、ごめんそれ以上はやめて」
「どうして? 私はあんな事出来るあっくんがすごいと思ってたよ?」
「…うぅん…」
そんなキラキラした目で私を見ないで…! 良心の呵責に耐えかねるんよ…!
なんで私あの時男の子のふりなんてしたんだ! ボーイッシュな女の子じゃ満足できなかったんか! 今更後悔しても遅いけど……ほんと、どうにかならなかったのかな私…
私は力なく項垂れた。
「あやめ?」
「! …
私の名前を呼ぶ声がしたのでそちらに顔を向けると、そこには馴染み深い顔立ちをした青年が一人いた。何処にでもいそうな平均的な顔立ちのそれ。背丈は平均よりも少し高いくらい。
親しげに私の名を呼んだ彼の名は田端蓮司。私の父方の従兄である。
…なんなの田端DNA。
蓮司兄ちゃんは叔父である父さんの面影あるし、父さんは伯父さんやじいちゃんと似てるし。私は父さんの遺伝子色濃く受け継いでるし。
…和真とよりも、実の兄弟に間違われたことのある従兄は4月に大学3年になる。大学進学を機に地元を離れてこっちで一人暮らしをしているのだ。蓮司兄ちゃんは祖父母の住んでる家の近くに実家があるんだ。
…昔はよく一緒に野山を駆け回ったものだ。
「いやいや、夜からこの近くでサークルの飲み会があるんだよ」
「うわぁー…やだやだお持ち帰り狙ってんでしょー? 不潔ぅ〜」
「お前ね、それただの偏見だからな……ん、友達?」
「うん。美少女でしょ!」
自分の事のようにドヤると、蓮司兄ちゃんに頭を撫でられた。なんだよ蓮司兄ちゃんまで私が柴犬に見えるのか? 言っておくけど田端DNAが受け継がれたその顔じゃ同類なんだからな。
眞田先生と陽子様に蓮司兄ちゃんの写真を見せたら絶対柴犬って言われるに違いない。
蓮司兄ちゃんはちらりと花恋ちゃんに視線を移すと、よそ行きの顔で花恋ちゃんに挨拶をした。
「従妹がいつもお世話になってるね。コイツお転婆だから迷惑かけてたらゴメンね?」
「…あっ…いえ……」
「それじゃ、またなあやめ」
「うんバイバイ」
去りゆく従兄に手を振って別れた私だったが、隣で待っていてくれた花恋ちゃんに顔を向けると、ぎょっとした。
花恋ちゃんは顔を真っ赤にさせて蓮司兄ちゃんの後ろ姿を見つめていたから。…その瞳はうるうると潤んでいた。
その目を私は知っているぞ……
「…あの、花恋ちゃん?」
「か、かっこいい人、だね…」
「……えっ?」
花恋ちゃんどうしたの? かっこいい? それ、蓮司兄ちゃんに向けて言っているの……?
言っちゃ悪いが、花恋ちゃんの近くにいた元攻略対象たちのほうが顔面偏差値は上なのよ?
「…彼女、いるのかなぁ…?」
「…いやぁ…あんまりそういう話はしないし…」
私は彼氏が出来たことをさらっと話したことはあるけど、お互いに深くまでは話さない。同性の従姉妹同士なら話していたかもしれないけどね。
蓮司兄ちゃんは今どうだろ? 前はいたみたいだけど…
「あやめちゃん…私……」
おいおい嘘だろ。
それ、あっくんである私によく似た従兄(本物の男)を見たから…恋だと錯覚しているんじゃないの…?
花恋ちゃんもしかしてブス専…? いや、蓮司兄ちゃんは決してブスじゃないんだよ。私と同じで平凡なだけ。その場合フツ専っていうのかな? ストライクゾーン広いやつ。
でもそうでしょ。あんなにイケメンとラブハプニング起こしていたのに、ここに来て初恋の人に似ているフツメンにフォーリンラブとか…
「…蓮司兄ちゃんはあっくんじゃないんだよ?」
「…わかってるもん…」
あの一瞬の接触で何が彼女をこうさせたのか。
…更に花恋ちゃんは蓮司兄ちゃんの連絡先を教えてほしいと私に頼んできた。
マジか。花恋ちゃんアンタマジなのか。
蓮司兄ちゃんの性格全然知らないでしょ? マジでいってんの? 従兄の性格は悪くないと思うけど、人によって合う合わないがあるんだしさ、もうちょっと慎重に…
一旦落ち着くように説得はしてみたけど、花恋ちゃんの意志は固く……蓮司兄ちゃん了承のもと、2人はメッセージアプリでのやり取りをはじめた。
たまに花恋ちゃんから定期報告が入ってくるけど……マジだったらしい。
蓮司兄ちゃんは隣区の私立大学に通っているけど、なんと花恋ちゃんが通う予定の大学と同じ。学部は異なるけど。
何この偶然。こわい…
……また間先輩に私が八つ当たりされるのかな……いや、この場合蓮司兄ちゃんに矛先が向かうかな? だといいな。
私にとばっちりが来ませんように…
大学受験も終わり、高校の卒業式も終え、無事に大学合格した私。
いよいよ大学生になるんだなと心機一転のはずなのに、私には次なる心配の種が生まれた気がしてならない。
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