地味で影の薄い姉の反逆【乙女ゲームの田端あやめ視点】
「言いたいことあるならさ、はっきり言えば?」
「……別に、なにもない」
「…姉ちゃん見てるとイライラする」
そう言って弟は苛立たしげに部屋へと帰っていった。
夕飯時に聞いた弟の進路について、私が厭う声を上げたことを弟は不満に思っていたらしい。
同じ公立高校を志望していると言ったのだ。
…言ったらなにか変わるのかな?
…どうせ、誰に言っても理解されるわけがない。
綺麗で頭も良い弟には、地味で努力しないと頭の悪い私の気持ちなんて…
何もしてないのに周りに貶される私の苦しみなんてわかるはずがない。
私が何をしたと言うの。
地味で根暗? そんなの私がこの容姿を望んで生まれたんじゃない。
目立たないほうが人に見つからないから悪く言われずに済むから身を縮こませているだけなのに。
どうせみんな目障りだから私を貶すんでしょう?
一体どうしたらいいのよ。
私は自分なりに努力したつもりだ。
容姿は整形しないと変わらないけど、清潔感は維持したし、ちゃんと手入れだってしている。
それに比べて、学力は努力次第で上を目指せる。
進学校に入れば、きっと馬鹿にする人は減るはずだもん。だから私は努力した。
学校で理不尽な仲間外れやいじめに遭おうとも私は耐えて頑張ってきたのだ。
滑り止めの私立の女子校は受かった。
そして一週間後に本命の公立高校の受験を控えていた矢先の出来事だった。
受験当日、母に応援の言葉を掛けられながら、私は重い足取りで受験会場の公立高校に向かった。
高校の正門前にたどり着き、私は心臓が大きく跳ね上がった気がした。
ダメだ、ここじゃない。
だって、和真はきっと合格する。
私と違って何もしなくても勉強ができるんだもの。
一年目は良くても和真が入学してきた二年目からまた同じ目に遭うの?
私…
「君、受験生だろう? あと30分で開始だから急いだほうがいい」
「!」
在校生らしい誘導係の男子生徒にそう声を掛けられて私は後ずさった。
その人は整った顔立ちの先輩だった。きっとモテる人なのだろう。背も高く、凛とした人。
和真同様女の子にモテそうだ。
その人を目に映した私は一瞬、高校二年になった自分と入学してきた和真の姿を想像して息が詰まった。
無理だ。
私はもう耐えられない。
私は多くを望んでいない。
ただ平穏に過ごしたいだけなのに。
どうして私は地味でブサイクで、頭の悪い姉なんだろう。
きっと和真もこんな姉がいるの内心うんざりしてるよね。
私なんか、居ないほうがいい。
私は唇を噛みしめると踵を返した。
返したのだが、その腕を男子生徒に掴まれてしまい、前へ進むことが出来なかった。
「おい、何処行くんだ!」
「離して下さい。受験辞退します」
「は!? この日のために頑張ってきたのだろう!?」
「私はもう! 弟のせいで人生を棒に振りたくはない!!」
怒鳴り声に戸惑った男子生徒の手の力が緩む。引き止めてきたその手を振り払って今来た道を逆戻りした。
私のその行動に男子生徒は慌てて声を掛けてきたが、それを無視した私は全力で走って、駅に到着すると帰りの電車に飛び乗った。
先程家を出たはずなのにすぐに帰ってきた私に母はびっくりしていたが、私は今まで我慢していたことを母にぶちまけた。
「和真と同じ高校に行きたくないの! また比べられていじめられる! どうして私を綺麗に産んでくれなかったの!? どうして私は頭が悪いの!? どうしてお父さんみたいな地味な人と結婚したの!? 私もう嫌だ!」
私は母に対して八つ当たり気味に怒鳴り散らした。
昔から私は綺麗で出来の良い弟が嫌いだった。
小さい頃は弟も私の後をついてきていたけども、物心がついた私が冷たくあしらうようになって近づくこともなくなり、同じ家に居ても会話のない姉弟になった。
だって弟のそばにいると比べられる。
何よりも私は自分が劣っている事をまざまざ知らされるから、弟の側には居たくなかったのだ。
だけど一番キライなのは、何も悪くはない弟を妬み嫉み嫌う自分の醜さが一番嫌い。
私の心はもう限界だったのだ。
人々のそれを受け入れるなんて無理。
私の心は劣等感の塊になっていたから。
近所の人、親類、友達、教師、色々な人に私は様々な言葉で傷つけられてきた。
祖母は和真を一等可愛がるし、私はいつも伯父たちに貶される係だ。年頃になると親の目を盗んでふざけてセクハラをされたことがある。
だけど怖くて言えなかった。
だってそんなの冗談とか、スキンシップとか、気にしすぎとか言われたら…それよりももっと傷付く言葉を言われるのが怖かったから。
いっそ別の家の子になりたかった。
外がダメならばせめて、学校では平穏に過ごしたい。
私が受験エスケープしたことは担任に怒られたけども、私は一片たりとも後悔はしていない。
これで良かったんだと胸を張って言える。
両親には今までどんな事があったかをすべてぶちまけた。すると父は憤り、母は泣き出していた。
父も母も色んな場面で庇ってくれていたが、気づかない所で私が傷つけられていたことに怒り、嘆き、私に謝ってくれた。
それに今年から親戚の集まりには行かないでいいと言ってくれたし、女子校への入学も許してくれた。
弟は何か言いたげな顔をしていたが私は気づかないふりをした。
そして、四月。
あの公立校よりも偏差値が幾分か低い女子校のセーラー服を身にまとい、弟が通うことのない高校の門を晴れ晴れとした気分でくぐった。
もう、弟と比べられませんように。
そう願いながら。
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