夏って色々燃え上がる。恋とか花火とか。

 夏祭りに行くと必ず購入するものがある人もいるかと思う。私はさつまスティックを見かけるとついつい買ってしまう。バイト先のポテトフライとは別物なのだ。それをモグモグしながら私は友人と花火大会前の一時を楽しんでいた。

 今日は友人のユカとリンと三人で来ている。彼氏のいない私とユカ、彼氏の都合がつかなかったリン。皆おめかしをして色々な出店を見て回っていた。


「花火何時からだっけ?」

「8時だよ」

「今7時か。どうする?」

「んー」


 時間までどうするか友人らと考えていると、「私彼氏いるから!」と女の子の声が聞こえた。その先で浴衣姿の女の子が男らにナンパされている姿があった。

 なんかこんなの最近見たことあるな。あ、ヒロインちゃんだ。

 私は辺りを見渡してみたが、彼女の連れの姿が見当たらない。仕方ないなとため息を吐くとその一行の群れに割って入っていく。


「この人になんか用?」

「え」

「! 田端さん!」

「山浦君は?」

「大志とはぐれちゃって……」

「あっそ。で? この人になんか用? 私の知り合いなんだけど?」


 私は相手を怯ませるべく出来る限り柄悪く見えるように振る舞った。和真の時のように最終兵器タカギがいる訳じゃないのでどうなるかわからないが、知り合いが連れさらわれそうになっているのを見て見ぬふりする趣味はないので、なんとか頑張ってみる。


「あー朝生さんじゃーん」

「彼ピッピはどうしたのー?」


 そこに心強い仲間(ギャル友)が現れたことで拍子抜けしたナンパ男達を出し抜き、幼馴染みの彼女・朝生真優の手首を引っ張って救出することに成功したのである。


「電話は? 繋がらない?」

「電波が悪いのか応答がなくて……」


 しゅん…とする幼馴染みの彼女……分かりやすくここでは真優ちゃんと呼ぼう。彼女はクールビューティな自分の魅力をよくわかっている青系統の大人っぽいデザインの浴衣姿で、ロングの髪の毛は結い上げているのでいつもは出さないうなじがお色気満点だ。

 こんな美人の彼女を放置して全くあいつは何をしてるんだと私は呆れる。


「そのうち見つかるかもしれないし、それまで私らと回らない?ナンパ避けはできると思うよ」

「ナンパ避けって…」


 真優ちゃんは苦笑いしていたが、一人は心細いようで私の案に賛成したのである。




 それから30分くらい経っただろうか。未だに幼馴染みの姿は見当たらない。

 今日は花火大会。この人混みで電話も繋がらないとなると再会するのは難しいのかもしれない。


 このまま一緒に花火を観てもいいのだが、真優ちゃんはやはり幼馴染みと観たいだろう。

 スマートフォンの液晶を何度も見つめ、不安そうに顔を歪める真優ちゃんに声をかけようとしたその時、リンが声をあげる。


「あれっ山浦じゃね?」

「ん? ……誰か、女といるけど……」

「え……」

「……んなっ!?」



 一番最後に声をあげたのは私だ。驚きすぎて反応が遅れた。

 何故なら、幼馴染みこと山浦大志はヒロインちゃんと抱き合っていたからである。


(えっ……えっ? こんなイベントあったっけな?)


 私は内心混乱していた。

 傍観を楽しんでいたとはいえ、こんなタイミングで……


「大志!? 何してるのっ!?」

「! 真優、」

「なんでその子といるの!? どうして抱き合ってるの? 私いっぱい探したのに! 電話も何度もしたのに! 」

「お、おい真優これは誤解で」

「いやっ! 触らないでっ! 大志のバカっ」


 嫉妬した真優ちゃんは山浦君を詰りながら泣き出してしまった。山浦君が落ち着かせようとして真優ちゃんに触れようとしたその手は振り払われる。彼女の綺麗にしていた化粧は涙で崩れていく。


 困り果てた山浦君の後ろでヒロインちゃんがおろおろしていた。

 よく見たら彼女も浴衣姿で……鼻緒が取れてしまったらしく、下駄を片足分手に持っていた。

 推測だが、鼻緒が切れた瞬間抱きとめられたのだろうか。……風紀副委員長の時と同じではないが似たシチュエーションである。

 今日は既視感をよく覚える日だな。



 私は仕方なくヒロインちゃんに声をかけることにした。


「鼻緒とれたの?」

「あ、田端さん。そうなの。それで転けたところを庇ってもらったんだけど……」


 ヒロインちゃんは申し訳なさそうに山浦君と真優ちゃんを見てるが、二人は痴話喧嘩の真っ最中。

 私は自分の荷物をあさくって、ハンカチと5円玉を取り出すとヒロインちゃんの手にあった下駄を手にとって応急処置を施した。

 ハンカチはもう使い古したものなので、裂いても気にならない。


 昔同じように鼻緒が取れて困ってるときに通りすがりの老紳士がこうして直してくれたのだ。

 あと50年彼が若ければ恋に落ちていたこと間違いないだろう。


「はい、多分これで歩けると思うよ。」

「ありがとう! すごい田端さん直せるんだね!」

「人がやってるの見たことあるだけ。応急処置だからちゃんとしたところで直してもらってね」

「うん!」


 ヒロインちゃんは応急処置ではあるものの直された下駄を見て目を輝かせている。

 こんなに喜んでもらえたなら犠牲になったハンカチも本望だろう。


「ところで一人なの?」

「妹と来てたけど、妹は学校の友達と行動することになったの。今は一人よ」

「ふーん。これから私ら花火観るけど一緒に来る?」

「いいの?」


 

 その間も山浦君と真優ちゃんは言い合いしていた。真優ちゃんが一方的に怒ってる感じで、山浦君は困り果てているようだ。

 だが痴話喧嘩している中にわざわざ入ってく趣味もないし、今回のは幼馴染みが完全に悪いので庇ってやる気もない。私はヒロインちゃんを連れて友人らと予定通り花火見物をしたのであった。




 ヒュー……ドドーン!……バチバチバチ……


「おぉー……」


 打ち上がる度に見物客が歓声をあげる。


 花火はいい。

 音はうるさいけど、なんといっても美しいし、日本らしさを感じる。これを観ないと夏を迎えた気がしない。

 

 私は持参した自撮り棒をセットして花火をバックに記念に四人で写真を撮った。なんだかヒロインちゃんと少し仲良くなった気がする。写真を送るのにメルアドを交換してしまった。


 橘先輩と交換させられたときよりもワクワクするのはなんだろうね。




 

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