第67話 私という悪役

「あの…弟子、と言うのは?」


冷静になれ冷静になれと自分に言い聞かせながら、当たり障りがないように微笑みを浮かべながら尋ねる。




「俺は今まで、力で全て解決できると思っていた。しかしお前の言葉で考えさせられた…力とは、守るとはどういうことなのか。先程の言葉を聞いて、知りたかった答えの一片を知れた気がしたんだ。俺は知りたい、守ることがどういうことなのか…だから弟子にしてくれ!!頼む!」


頭を下げたまま必死に頼み込んでくる彼を誰も止めようとしない。






それだけ『守る』という行為が作十郎にとって大事な物であることを、彼のルートをプレイしたプレイヤーの私は知っている。




「顔を上げてください」


私がそういうと作十郎はゆっくりと顔を上げ、真剣な眼差しで私を見つめる。






…必死に、自分の知らないことを探求しようとする人って格好いいよね…でも




「お断りします」




私の言葉に作十郎は捨てられた猫のように眉を下げる。




「貴方の必死の想いに応えられる程、私は立派な人間ではありません」


「そんなことは…っ」


「買い被りすぎです、私は自分のために……自分に利益のある人達を守ろうとしているに過ぎない。私は、悪人ですから」




言葉にしてみて、それが痛いほど自分に刺さっている事に気がつく。






分かっていたハズだった。


だって私が一族を守ろうとするのは、皆が私に優しくしてくれるからだ。


自分自身が破滅したくないからだ。


その為に、皆を巻き込んでいる。


一族の為とか言いながら自分のために動いている。






まさに悪役じゃないか。








「アザミ様、もう行こう」


ふと立ち上がったレオンに手を引かれる。手を引かれて気がついた、手のひらに爪を立てていたらしい、力を入れすぎていたせいか指先が少し震えている。


「私達はこれで失礼する。お茶でもてなしてくれたこと礼を言う」


クラウドが礼を述べるのが聞こえたが、残された二人から返事はない。


私達は振り返ることなく道場を出た。
















◇◇


「あの…レオン…?」


東の国の外れ、森の入り口までやって来て声をかけるとレオンはようやく足を止めた。




私の本性を知って、呆れただろうか?


嫌われただろうか?






「アザミ殿、先程の言葉は真実か?」


黙っているレオンの代わりにクラウドが私に問い掛ける。一度ゆっくり息を吐き出して私は頷く。


「はい…私は、自分のために―」


「もういい!」


言葉をレオンに遮られた。引かれたままの手に痛いくらいの力が籠る。


「何でそうやって俺達にまで嘘つくんだよ!」


レオンは泣きそうな顔をしてる。クラウドも悲しそうに私を見ている。






何でそんな顔してるんだろう……二人ともイケメンが台無しだよ…


そっか、私が悪役だからだ。


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