第39話 希望のみちしるべ(9)
Mira 2010年1月10日 19時22分54秒 氷星天 ラーゴラス市弐区 騎士団支部西棟 2F 食堂
夕食の時間になり、訓練生はそろって食堂に集まっていた。バイキング形式で好きなものを好きなだけ食べられるのがここのウリだ。そして、やはりアリスの周りには人だかりが出来ていた。男女問わず皆彼女の強さに夢中だ――――正直羨ましい。ただ、端から見るとアリスは料理を取るのを邪魔されて迷惑しているようにも思えた。今日のカリキュラムは終わったし、消灯前の空いた時間に色々話を聞こうと思っていたのだが……。
「あ、ミラくーん!」
意外なことに、こちらに気づいたアリスの方から手を振って呼びかけてくれた。僕は周りの視線が刺さるのを堪えながら彼女の元に歩み寄った。
「一緒に食べよ!」
「えっ? あ、はい!」
より一層周りからの視線が鋭く突き刺さった。アリスは気にも留めていない様子で、次々と料理を皿に載せていく。……それも結構な量を。
「いやーお腹空いちゃったねぇ! あたしってばこう見えて燃費悪いから沢山食べないと、すぐ腹の虫がドンパチ騒がしくなるからさぁ!」
(見た目通りだよ)
アリスは御盆丸ごと二枚使ってあらゆる料理をたっぷりと運び、僕らは向かい合って席に着いた。僕も結構大食いなタイプだと自負していたが、アリスはサラダから肉まで僕の二倍近く皿に盛っていた。成る程、そりゃ色々なところに脂肪が乗るわけだ。
「いただきまーす!」
決して上品な食べ方ではなかったが、満開に笑顔を咲かせて料理を頬張る。見るからにもちもちの頬をいっぱいに膨らます姿は、リスか何かを餌づけしている気分にさせられる。
「あれ? ミラくんどったの?」
「ああ、いえ。いただきます……」
僕としたことが変な気持ちになっていた。ご飯を食べている女の子に見蕩れるだなんて。誤魔化すようにフォークを握り、僕も料理に手をつけた。こんな可愛い顔して僕のことをボコにするんだから、ここに来るまでに相当厳しい訓練を受けていたに違いない。
……しかし気になったのは、大佐がこれまで自らの手で育ててきたであろう大事な娘をこんな遅いタイミングで騎士学校に入れたことだ。あれ程の力量を蓄えたのなら、そのまま訓練を続けても騎士にはなれただろう。昔と違って星天騎士は受け入れる間口が広くなったから、大佐のネームバリューも後押しになって普通学校卒でもいいポストに食い込めただろうに。
「アリス、変なこと聞いちゃうかもですけど……アリスってアザトス大佐の娘さんだよね? あんなに強いのにどうしてわざわざ騎士学校に?」
「あたし孤児なの。十年前にアザトス隊長に拾って育ててもらったんだ」
「何ですって?」
「隊長はあたしの両親は事件に巻き込まれて失踪したなんて言ってるけど、あたしついこの間評議会の公文書館の司書にちょーっと協力してもらって事件記録を見たの。そしたらね、あたしは超獣に襲われたスピーダートラックの残骸に取り残されていたって記録があったの。それで、あたしは真相を調べるために一番手っ取り早く超獣攻撃隊に入れるルートのある騎士学校に来たってわけ。隊長ったら元々あたしが騎士になることに反対してたからものすっごーい怒ってたけど、あたしだって隠し事されたことにものすっごーく怒り返して、半分家出感覚で出てきたの」
「事件記録って……結構昔のでしょう? 『評議会の機密情報に関する法律』で、騎士団の扱った事件なら五年で公開されるのに、まるで秘密にしてたみたいじゃないですか?」
超獣の存在が公になったのが十六年前。その襲来を予期していながら隠蔽していた当時のロキシー騎士団長をはじめとした超獣攻撃隊ORBSの隊員は強い批判を浴びた。しかし直後にこの法案が通され、騎士の関わったあらゆる事件は機密性に関わらず解決後五年以内に全ての情報を一般公開することになった。十年前の超獣事件となればそれも例外ではない。
指摘を受けたアリスは、口をへの字に曲げて応えた。
「詭弁に決まってるじゃないの。アザトス隊長も含めて、今の評議会……もといORBSの機密に関わっている人たちはみーんな隠し事してるよ。隊長が魔天を離れてこんな僻地に飛ばされてる時点でおかしいでしょう? 十六年も前に魔天は超獣の襲撃を受けているのよ? “あの噂”は……きっと本当なんだってば」
“噂”――――侵略者の存在は昔からよく囁かれていた。超獣がただの生物でないことは誰の目にも明らかなことだ。誘導弾を撃てる生物が自然界にいるはずがない。故に、かつての深海超獣バルギルをはじめとしたあらゆる超獣は、外宇宙からの侵略者が遣わした尖兵なのではないかと、人々は口々に語っているのだ。騎士団はそれを否定しているが……。
「アザトス大佐とアシュレイ隊長は共に魔天を救った英雄……魔天の防衛に就くべき二人が揃って氷星天にいる。考えたこともなかったけど、言われてみれば……いったいどうして……」
「え? アシュレイ隊長って……WGFの?」
「ええ、実は……僕も孤児なんです。アシュレイ隊長に十年前に拾われて……」
「すっごーい! あたしたちってまるで似たもの同士! 生き別れの姉弟だったり!? おねーちゃんって呼んでいいからね!!」
「ちょっ……声が大きいです!」
「おっぱいも大きいよ!」
「やかましい!」
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