第36話 ブレイズの剣
ハインリッヒ王の宮殿はヒマリア王国の首都イアトペスの中央部に位置している。貴史と、タリー、そしてヤースミーンは賓客として宮殿に滞在していた。
ヒマリア王国内に突如出現した魔物が巣食うダンジョンのボス、エレファントキングを退治した件で褒賞を与えるから首都まで来るようにと特使が使わされたのだ。
貴史たちはゲルハルト王子の部隊から譲り受けた馬に乗り、一週間に及ぶ旅をして首都にたどり着き、王宮のゲストハウスで旅の疲れをいやしていた。
今日は、ハインリッヒ王と大司教に謁見を許されるというので3人はゲストルームのダイニングで待機していた。
貴史は王室付きの仕立て屋があつらえた礼服に着替えたが、襟の辺りが窮屈で椅子に座っても落ち着かない。
「採寸してあつらえた割に窮屈ですね。」
「そうか?、礼服など、どこの世界でもこんなものだろう。」
タリーは、世慣れているためか比較的落ち着いている。
「私は、こんなきれいなドレスが着られて夢みたいです。」
貴史の目で見るとロココ調のドレスを着たヤースミーンは、舞い上がっているようだ。
「そうだ。シマダタカシ、ブレイズが使っていたドラゴンスレイヤーソードを持ってみてください。」
ヤースミーンは魔法系少女キャラが持っていそうな先端に星が付いた棒を片手で振りながら言った。
「その棒は一体どうしたの。」
「おつきの人が、室内でも魔法を使いやすいようにと用意してくれたのです。」
貴史は、壁際に置いてある大ぶりな剣を手に取った。やはりドラゴンスレイヤーソードだったらしい。手に持ったその剣は片手では持ち上げられないくらいずっしりとした重さがある。
ヤースミーンは貴史が剣を手に持つと同時になにかの呪文を唱え始めた。
貴史がきょとんとして見ているうちに、ヤースミーンは呪文を唱え終え、手に持った棒を一振りする。
ヤースミーンの棒からほとばしった青白い光が貴史が手に持った剣を包んだ瞬間、貴史は剣の重さが軽くなったのを感じた。
「え?。」
あれほど重かった剣が片手で軽々と扱える。貴史は大剣を上下に左右にぶんぶんと振り回してみた。
「おいやめろ。室内でそんな物騒なものを振り回すんじゃない。」
重量のあるドラゴンスレイヤーソードの切っ先が自分の鼻先をかすめたので、タリーがたまらず止めにかかった。
「あ、ごめん。急に軽くなったからつい振り回してしまった。ヤースミーン何をしたんだ。」
「攻撃支援の魔法を使ったのです。シマダタカシは本当の剣の重さや慣性重量の四分の一の力で動かせますが、攻撃を受ける方は今まで通りの重量を伴った打撃を受けるのです。」
貴史は振り回していた剣をピタッと止めると鞘に納める。
「こんないい魔法があるなら、どうして今まで使ってくれなかったのだ。」
「それは、私が魔法を使えなくなっていたからですよ。」
「ああ、そういえばそうだな。」
貴史は旅の間、ヤースミーンが数々の魔法を使いこなすのを目の当たりにしてきたので、つい最近まで魔法が使えなくなっていたことを忘れていたのだ。
「今の呪文でどれくらいの間効き目があるんだ?。」
「十分間ですね。もっと長く使える魔法もあるのですが、その分呪文を唱える時間も長くなります。普通、防御魔法とセットで使って、一気に大物を仕留めてもらうのです。」
貴史は納得した。それなら大型の竜とも戦えるというものだ。この剣のかつての持ち主のブレイズもそうやって戦っていたに違いない。
貴史の考えを読んでいたようにヤースミーンが口を開いた。
「シマダタカシの戦いぶりは私の友達のブレイズにも引けを取りません。それに相手がたとえドラゴンでもひるまずに立ち向かう様は見事です。この謁見が終わったら私と一緒にドラゴンハンターとして生計を立てませんか。」
貴史はタリーのもとにグリーンドラゴンが持ち込まれた時、ドラゴンの肉はタリーが使ったが、それ以外の皮や腱、うろこや骨といった品物を求めて様々な商人が訪ねてきたことを思い出した。
それらの品々は工芸品の材料として高値で取引されるのだ。
そのため、ドラゴンを探して狩ることで生計を立てる人たちもいる。
とりわけ、ドラゴンにとどめを刺す役割は刃刺しと呼ばれ、刃刺しを務めるものはまるで一国の王のような待遇を受けているらしい。
俺にそんな役割をしろと言うのかなと考えながら貴史は鞘に収まった剣を見た。
剣の柄には元の持ち主、ブレイズの名前が象嵌細工で入れてある。
その時、貴史はまずいことに気が付いた。自分たちはこれから謁見する大司教に、エレファントキング討伐の褒美としてヤースミーンの仲間たちの復活を頼むつもりだ。
それはとりもなおさず、ヤースミーンが思いを寄せていたブレイズも復活するということだ。
「なあ、ヤースミーン。エレファントキング討伐の褒美は事前に申告してあるんだよな。」
「ええそうですけど。」
ヤースミーンは星の付いた棒を持ったまま、衣擦れの音をさせながら。部屋の中を歩き回っている。今日は機嫌がいいようだ。
「ブレイズを復活させたら、ヤースミーンはまたブレイズに惹かれるのではないかな。」
ヤースミーンはピタッと立ち止まった。
「そんなことはないとおもいますよ。」
ヤースミーンも途中で自信がなくなってきた様子だ。
その時、使いの者が貴史たちが控える部屋をノックした。
「ハインリッヒ陛下並びに大司教様の準備が整いました。お三方とも拝謁の間までお越しください。」
三人は顔を見合わせた。
ヤースミーンは顔を引き締めると貴史にうなずいて見せた。
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