第5.6話 ドリームライク
まったく、凪月くんは!
進々のことをいつもバカにするくせに、自分の方がよっぽどバカだ。
怒りを通り超して、進々は呆れていた。
彼は頼りになるのか、ならないのか、よくわからない男だ。
バスケ部創立時の、流々香との交渉のときもそうだった。やることは間違っていないんだけれども、どうにも女の子の気持ちをないがしろにしてしまっている。
遥という姉をもっていながら、どうして、そう気が回らないのか、と不思議に思う。
まぁ、凪月くんだからなぁ。
姿恰好は、遥とそっくりだし、時々、遥と同じようなカリスマ性を見せることもある。けれども、いざ、というところですっころぶ。そんな危なっかしさこそが、凪月に対する進々の印象だった。
でも、そんな彼のおかげで、羊雲学園のバスケ部を創ることができた。
いや、まだできてないけど。
その足掛かりを得ることができた。
ほとんど流々香先輩のおかげな気もするんだけど。
まぁ、一応、凪月くんにもある程度、感謝しておいて罰は当たらないだろう。
だって、ここまで来られたんだから。
「今度こそ、がんばるんだ」
進々は、一人、気合を入れていた。
「何か言いました?」
小町の問に、進々は手を振って応えた。
「ううん、何でもない」
「そうですか。ただでさえ奇行が多いんだから、独り言は控えてください」
「え? 私、そんな奇行が多いの?」
「自覚がないなんて、かわいそうな人ですね」
「私、かわいそうなの!?」
小町は、発言がいちいち辛辣だ。
けれども、小町の言葉には偽りがない。特にコート上では、バスケに対して、とても真摯だ。勝利を目指して、その他のつまらない諍いや好き嫌いを捨てることができる。それだけで、進々は小町を信頼できた。
ただ、
「ねぇ、私ってかわいそうなの? ねぇ? ねぇ?」
「……うざっ」
「え? うざいの!? どこが? ねぇ、どこがうざいの? 直すから教えて!」
「そういうところですよ」
もう少しオブラートに包んでほしい。
「うぅ……」
「まぁ、気になさらないでください。性格というのは変わらないものですよ」
「それってもうだめってことじゃないの!?」
「いえ、違います」
「え?」
「気にしても無駄ということです」
「一緒じゃないの!」
ぬぉぉお、と進々が頭を抱えていると、華が、よしよし、と撫でてくれた。
華は本当に性格がいい。
はじめは、その身長の高さに嫉妬した。あれだけ大きければ、バスケだけでなくいかなるスポーツでも重宝されるだろう。実際、他の部活動から、ものすごい勧誘を受けていた。
今思えば、凪月が勧誘を成功させてくれてよかった、とそう思う。
華がいれば、次の白藤高校での試合、きっと勝てる。
それにいい子だ。
何だか、腹黒い人ばっかり集まっちゃったし、一人くらいいい子がいないと精神的につらい。
「大丈夫ですよ、進々さん。小町さんは、進々さんの性格が鬱陶しいと言っただけで、嫌いだと言ったわけではないですよ」
「それって同じことだと思うんだけど。……そうなの?」
小町の方を見やると、彼女はそっぽを向いた。
「まぁ、そういうことにしておいてあげます」
「本当? よかったぁ」
進々が胸を撫でおろすと、小町はふんと鼻を鳴らし、華は笑みを浮かべた。
「では、会計に向かいましょうか」
「あの、スポブラは?」
「今度にしましょう。あのケダモノがいないときに」
「そ、そうですね」
華の購入するバッシュが決まって、小町と一緒にレジへと向かった。
「あ、私、ちょっとトイレ行ってくる」
「せめてお手洗いと言いなさい」
小町の忠告に、はーい、と返事をして進々はトイレ、もとい、お手洗いへと向かった。
バッシュを手に入れた華は、明日からのバスケの練習を制限なく行えるだろう。
そうすれば、飛躍的に上達するに違いない。
進々も、うかうかしていられない。
とはいってもポジション違うけどね。
どちらかというとライバルはカトリーナだけれども、まぁ、今は5人しかいないし、あんまりナイーブに考える必要もないだろう。
カトリーナの言っていることは8割方わからないけれども、バスケをしている最中は、言葉なんてわからなくても問題ない。
阿吽の呼吸でなんとかなる。
進々を入れて5人。
このメンバーで白藤高校を倒す。
そうすれば、こんな日がずっと続く。
そして、いずれは全国制覇。
とか。
進々は、ふふ、と思わず笑った。
こんなところを見られれば、小町にまた奇行とか言われてしまうだろうか。
それでも、笑みがこみ上げてきてしまう。
中学生の頃と比べたら、夢みたいで。
「あ、トマルじゃん」
でも、夢は覚める。
そんなこと、バカでも知っている。
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