第11話 強襲

 

「終わったぁ……」

 

 何人かの声が重なり響き、続けて息を吐く声と伸びをする声が聞こえる。

 私も息を吐きながら両手を前に伸ばすと机に突っ伏してみたり。

 

 入学初日が終わった、正確にはまだ正午前なので今日はまだ続くけど。

 ともあれ、緊張の時間が終了すれば気を抜きたくなるのは当然の事。

 それに入学式のはじまりからずっと、ほとんど休める時間も無かったからね。

 

「ふふっ♪気を抜くのも良いけれど、明日からが本番なのを忘れないでくださいねー?」

 尻尾の先生こと、セルティス先生の声だ。

 気を抜く生徒達の姿が楽しいのか、頭にのった狐耳がぴこぴこと揺れている。

「あ、私は夕方まで職員室か研究室のどちらかにいるので、何かあれば気軽にどうぞー」

 微笑みながらそう告げると、先生は入って来た時と同じ様にくるんくるんと尻尾を揺らしながら教室を出て行った。

 歩く姿も可愛いなぁ、そんな事を考えていると後ろから声がした。

 

「ねぇ、シルファはこの後どうするの?」

「んー?」

 森妖精の少女コロネの声だ。

 身を起こし後ろに振り向けば、なんか彼女の手がわきわきとしているんですけど!

 流石に先生が話している間は私の髪を弄る事は無かったけれど。

 髪を弄りたい欲はまだまだ健在みたいです。

 

「やっぱり前から見るのもいいなぁ。ねぇ、少しだけ……」

「だーめ」

「綺麗な髪なのに」

 コロネの言葉には溜息してしまうが、こんなやりとりもなんだか楽しい。

 こう言うのを友達の距離感と言うのかな?

 それに髪を褒められるのは、悪い気分では無い。

 せっかくだし彼女を誘ってさらに友情を深めてみるのも良いかもしれない、が……

 

「…はいはい。さて、この後か…どうしようかな?」

 反面まっすぐ寮へと戻り、お姉さまに今日の報告をしたい気持ちも強い。

 でも、どうせ報告するのならネタは多くあった方が良い気もする。

 あ!お姉さまの教室に行ってみるのも楽しいかもしれない。

 そんな事を考えていると、新たな声が追加される。

 

「迷ってるみたいね?だったらみんなで学園内を見てみるのはどう?」

「あ、委員長…?」

「はぁ…できれば名前で呼んで欲しいのだけど……」

 ルキアだ、そして私の言葉を聞けば彼女は溜息しながら肩を落としてしまった。

 だって仕方ない、彼女はこのクラスの委員長だし。

 

 と言うのも、先の時間の最後に委員長を選出する事になったのだけど。

 その時、即座に手をあげ立候補したのがルキアだった。

 彼女が語るに、将来に備え今から経験を積みたいとの事らしいが。

 あまりの勢いと熱弁に皆ぽかんとなってしまい、結局彼女がそのまま委員長に。

 勢いって大事だよね、つくづく思いました。

 

「でも、馴染む気がするし……」

「そっかそっか、シルファもそう思ってたんだ?」

 同意したのはコロネ、腕組しながらうんうん頷いてますよ?

 あの勢いもそうだけど、やはりルキアは根っからの委員長気質なのかもしれない。

 多分だけど、私やコロネだけでなく他の子達もそう思っていそう。

 ほら、通りすがりに頷いてる子達がいるし。

 

「もう、コロネまで」

 コロネの言葉にルキアはさらに肩を落としてしまう。

 流石に少し可哀そうな気がしてきた。

「確かに前の学校でも委員長やっていたから仕方ないけど…やっぱりね?」

 そう告げるルキアの目を見て何となく理解した。

 私達とは友人同士として関係を築きたいと言う事だ。

 確かに肩書を持った途端、関係が変わってしまうのも少々せつないもんね。

 なにより、彼女の名前を知ったばかりだし。

 

「わかった、ちゃんとルキアって呼ぶから安心して、でも時々呼んじゃうかも…?」

「ありがとう。なるべく定着しない事を願っているわ」

 苦笑するルキアだけど、でもなんだか嬉しそう。彼女とも良い友達になれそうな気がする。

「はいはーい、私もルキアって呼ぶから安心するといいよ?」

 私に続く様にコロネも言う。

 

「そうしてくれると嬉しいわ」

「ほら、私もシルファもルキアに迷惑かけそうな気がするし」

 なんで私まで?と思いつつも、コロネの言う事を否定出来ない。

 私の場合ライラの件も先送りにしたままだし。

 それ以外にも何かが起こりそうな、そんな予感がしてしまう。

 

「シルファは心配性なんだね~? 顔に出てるよ?

 ルキアの事は私がちゃんと支えるから、存分に迷惑かけるといいよ?」

「存分にって…ひゃ?」

 ルキアに抱き付きながら肩越しに顔を出したのはクロワだ。やはりなんだか眠そうに見える。

 それにしてもこの二人仲いいなぁ……。さりげなく胸触ってるし?

 これも友達の距離感なのかな?少し違う気もする。

 でも、クロワが支えると言ったのは本当の事。

 ルキアが委員長になるのと合わせ、副委員長にはクロワがなったからだ。

 寮では同じ部屋を使う者同士、何かと都合がいいからと言う事らしい。

 クロワの場合それだけない気もするけど……、考えすぎかな?

 

 さて、皆と雑談を続けるのそれはそれで楽しいけれど、この後どうするかだよね?

 やっぱりルキアの提案に乗って学園内を巡ってみようかな?

 そんな思案中の私に呼びかける声。聞き覚えのある声。

 

「シルファさん…だったわね?少しいいかしら?」

 お嬢様ことライラの声だ、振り向けばやはり彼女の顔があった。

 でも、あの凛とした輝きは無く、どこか思い詰めている様にも見える。

「は、はい…私に何か……」

「実は貴女にお伺いしたい事がありますの」

 ああ、ついにこの時が来てしまった。

 聞きたい事。間違いなくお姉さまと私の関係についてだよね。

 後ろめたい物は何も無いはずだけど、ライラの顔を見るとつい身構えてしまう。

 

「私にお答出来る事なら……」

「ありがとうですわ。では単刀直入に、貴女とセレーネ様についてなのだけど……」

 やはりだ。

 でも、お姉さまの名が出た瞬間覚悟を決めた、あるがままを話そう。

 そうすればライラも分かってくれるはず。

 皆も終わるまで待つよ?と言う風にうなずいてくれてるし。

 …って、コロネその顔は何?何か期待していませんか?

 うん、とにかくいざ行かん!

 

「わかった、私とお姉さまは……」

「はーいはい!ちょっといいかな?それについては私も聞きたいかな?」

「「え?」」

 ライラと私の声が重なった。誰?誰の声?知らない声。

 

 わかるのはいきなりの乱入者によって私の覚悟は蹴飛ばされてしまったと言う事。


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