第十二話「エピローグ」

12-1 現実世界へ

 児島朱里が目覚めると、そこはサイコナイトのリザルト画面。

 いつの間にかふかふかのソファに座っており、目の前にはブラウン管のテレビ。テレビに映っているのは砂嵐。かすかにザーッと鳴る音が耳に着いた。デスゲームを終えて、にんまりする朱里だった。

 彼女はじっと自分の掌を見つめた。何も変哲もない掌だ。いつも見ている自分の体の一部、違和感はあったが、それ以上に幸福感が強かった。

 あのデスゲームの世界から帰ってきて、自分の体を抱く。

 これからのことを考えるとうれしくてたまらなかった。現実世界に、家族が待っている現実世界に帰ってくることができたのだから……。

 この喜びをかみしめた後、朱里は周囲を見回すのであった。

 座っているソファとテレビ以外、何もない空間だ。朱里はふぅ……と、ため息をつく。それから、ソファに深く腰掛け、デスゲームのことを想起する。思い返して、終えてみればあっという間だったなと結論付けると現実世界に帰るのであった。

 サイコナイトからログアウトし、現実世界に。

 朱里は現実世界の自分の部屋へと戻るのであった――。

 自分の部屋、ベッドの上で我に返るとDBLSのギアを取る。自分の部屋に帰ってきたというのに――強烈な違和感を覚えていた。

 それから、4つの顔を朱里は視認する。

 デスゲームから帰ってきてホッとした両親の顔と、兄とその恋人の微笑んでいる顔だ。

 朱里は4人の顔を見て口角を上げる。うれしさのあまり笑いそうになったが、すぐさましおらしい顔をした。ほどほどにしろと言われたゲームをやって、あれほど気をつけろと言われたデスゲームに参加した訳なので。


「おかえり。大丈夫か?」


 優しい秀雄の言葉に、朱里は頷く。

 まだ、仮想世界での恐怖が抜けていない。口がきけないのだと4人は思っていた。


「おかえりなさい、朱里。もう、お昼の3時だけどね……ご飯はどうする?」


 母親に尋ねられ、朱里は意を決して口を開く。


「ありがとうございます、お母さん」


 朱里の母親の片眉がピクッと吊り上がった。


「えぇっと……そうで――じゃない。えぇっと、ごめん……あの、うん。ちょっと、まだ混乱してて」


 あたふたしたあと、朱里は兄に視線を。

 兄と見つめ合い、たまらなくなってにっこりと笑った。満面の笑み――だったが、両目を右の掌で隠してしばらくそうしていた。


「あの~みんな、ごめん……」


 それから、朱里は朱里らしく一言謝るのであった。

 目の前にいる朱里に違和感を覚えているのか、朱里の兄の恋人と母親は顔を見合わせている。デスゲームから帰ってきてから妙だと……。

 失敗したかなと思った後――朱里は立ち上がる。前の体よりも、少し視点が高くなっているからか、よろめく。倒れそうになったが、秀雄が支えてくれたおかげで何とか倒れずに済むのであった。

 倒れそうになった時、父親に支えられうれしくなる朱里。今まで、こんなことはなかったから……とてもうれしかった。


「ありがとう、お父さん」

「あぁ、いい。ちょっとフラフラすんのか? 気を付けてくれよ。もう少し寝てもいい。何なら何か取ってこようか?」


 朱里は謝ると、そっと自分の部屋を出る。

 廊下を出て、トイレと洗面所の横をすりぬけてリビングへ。台所にある冷蔵庫を開けると朱里は何か飲むものはないか物色する。過度な緊張を強いられた後だから喉がカラカラに乾いていた。何か水を飲みたかった。


「結構、ものが詰まっているんですね。うちとは大違いだ……」


 そうつぶやいた後、1リットルのペットボトルに半分ほど残っていた麦茶を――朱里は一気に飲み干すのであった。

 麦茶を飲みほした後、朱里はリビングを見渡すのであった。

 誰が置いたのかはわからないが棚の上にある季節感のある小物に目を奪われていた。かわいらしいデフォルメされた猫が5匹。この家族のことを暗示しているのだなと、あたかも外からやってきた人間のように解析する。


「これでやっと――」


 これでやっとせんぱいの家族になることができた。

 そう考えると、やはり口角が上がるのを止められなかった。この喜びをどう隠せばいいのやら……朱里に成り代わったこなみは考えあぐねていた。

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