11-5 シアワセを求めて

 漆黒の空間の中で横たわる少女。こなみだ。

 朱里の元へゆっくりと、白い外套をきた少女が歩いていく。てくてくと、この場にそぐわないかわいらしい仕草で。

 こなみは朱里の傍らに佇むと、その寝顔をまじまじと見つめた。

 無邪気に眠る朱里の顔を見て、こなみはにんまりとした。


「ありがとうございます、朱里さん。あなたのおかげで私は解放された」


 こうつぶやいた後、こなみはかがむ。

 そして、そっと……。


「これでやっと、せんぱいの側に行くことができる」


 朱里に耳打ちをした。

 それからそっと頬を愛おしそうに撫でるのであった。


「せんぱいは――あの人のものです。あの人には、私はかないません。ですから、私は――あなたになるしかないのです。せんぱいのお側にずっといるためには……」


 うつむくこなみの面持ちは暗い。それにフードを深くかぶっているため、その表情の仔細はわからない。震える肩と声は、フラットで抑揚がない。何を考えているのか、皆目検討がつかない。


「私はせんぱい――いえ、あなたの家族が羨ましかった。絵に描いたような、私がずっと憧れていた家族ですもの。ずっとですよ……あなたの、あなたたちの家族になりたいって思っていました」


 父親に捨てられた挙げ句、実験に使われたこなみ。心も身体もボロボロだった。家族に振り回されたこなみは、ずっと普通に暮らしたかった。ただ、それだけだった。

 こなみはそっと朱里の額に手を乗せる。仮想世界空間だったが、その手のひらに、熱を感じられた。

 こなみはこの瞬間のために、すべてをかけていた。

 遠回りを繰り返し、ようやくたどり着いた。


「あなたの身体を頂きます。朱里さん」 


 そして、こなみは言った。

 どこまでも黒く染められているこの空間の中で、笑い声が響き渡る。望みを叶え、これで”しあわせ”が手に入ると思ったら、嬉しくてたまらなかった。


 そして、2人は闇の中に混ざり合う――。

 この漆黒に融けて何もなくなった。

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