11-4 終息

 展望台のリノリウムはもうない。壁も天井も何もかも。すべてが闇に包まれている。

 だが、銃口の先しか見つめていない朱里はそのことに気づいていなかった。集中力をただ一点に注いでいる。


「自分の娘を……悪魔だなんて、どうかしているよ」


 朱里の目の前に現れた大男。化物になってしまった大倉である。

 大倉の胸には、最愛の人。大倉なみえである。彼女を強く抱くと、辺りに血が撒き散らされる。この抱擁の強さが、大倉がどれくらい妻を深く愛しているのか示していた。


「あぁ、それはわかっている。けれども、私は――彼女の喪失に耐えられなかった。娘を憎まずにはいられなかったのだ。どうしようもなかった。死のうと思ったくらいに! だが、死ぬことが怖くてできなかった」


 朱里は拳銃を握り直す。しっかり銃口を大倉に定めると、引き金を指にかけた。

 覚悟は決まったようだ。


「あんたが死んじゃえばよかったのに……あんたが死んでしまえば、こんなことにはならなかった。こんなことになるくらいなら、DBLSなんて産まれなきゃよかった。こなみちゃんにはなんの罪もないじゃない。全部……だって、全部!」


 あんたのせいなのだから――。

 歯をむき出しにし、両肩を波のように上下させる朱里を見下ろす大男。静かにたたずんでいた。まるでひきつけを起こしたかのように微動だにしない。体を震わせ、凄まじい形相でわなないている。

 そんな男を、朱里は撃つ。思い切り目をつぶり、朱里は引き金を引いた。

 ぱぁんと、乾いた音がした。反動で朱里はしりもちをついてしまった。

 それでもきちんと銃口は大男をとらえていた。銃口から飛び出たそれは宙空を走り抜け――きちんと大倉の頭を貫いた。

 大男の断末魔はなかった。

 頭を射抜かれた後、後ろに倒れ――そのまま何も言わなくなった。

 大倉が倒れる音は、銃声ほどではなかったが、どしんと空気を震わせた。これに身をすくめた後、朱里は目を開けた。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をする朱里が目をこじ開けてみてみると――大倉が倒れていた。

 それを見て、安どする朱里。これでやっと、何もかもが終わったのだと彼女は思った。


「はぁ……ははは……」


 口からこぼれる、乾いた笑い。

 意ぜずここに戻ってしまったから、秀雄が気付くかどうかはわからない。けれどもちゃんとモニタリングをしてくれているはずだ。

 そのうちきっと、お父さんが助けに来てくれるだろうと――朱里は思っていた。


「終わった?」


 何も言わない大倉と自分に問う朱里。

 虚空は何も答えてくれはしなかった。けれども、朱里は大体悟る。


「これでやっと――」


 終わったのだと。

 深く息を吐いた後、その場に朱里は座り込む。うなだれ、顔を上げると大倉の死体はどこにもなくなっていた。

 そのうち助けが来るはずだ。もう、自分を襲ってくる存在はもういない。命を脅かされることはない。しばらくぼんやりとする朱里。気が抜けてしまったせいで今、かなり強い眠気に襲われていた。

 それに身をゆだねると、その場にぱたんと横倒しになった。

 そして、そのまま――夢の世界へと旅立ってしまった。

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