10-4 後始末へ

 再び街に渦巻く霧。大倉の登場により、次第に濃くなっていく。

 今は、もう5メートル先は見えない状態だ。

 霧の濃度がギリギリ見えるか、見えないかの距離になった時、


「すまないが、このサーバを君に破壊される訳にはいかない。アドミニストレータは私にある。……だから、この場から静かに引いてくれないかな? 今なら君たちをリアルに帰すことが可能だ」


 大倉は3人に言った。

 どこか痛むのだろうか? 痛みに耐えるような苦しみを味わっているような様子だった。静かに苦悶する面持ちの男がそこにいた。

 大倉の言動のち、秀雄は少し考える。大倉の表情が暗い理由を。

 しかし、それ以上にやるべきことがあった。


「わかった。あなたが何をこの世界でやろうとしているのかはわからない。が、とにかくこの子たちを現実世界に帰してやってくれないか?」


 肌寒くなっていく農道。吐く息は次第に白くなっていく。周囲を取り巻く霧と同じ色をしていて、霧と同化していくような錯覚に朱里は陥っていた。

 だんだん気持ち悪くなっていく朱里。


「おっと! 大丈夫か?」

「……ごめん」


 立っていられなくなり、朱里は博にもたれかかる。


「博士、頼む」自分の娘を一瞥したあと、秀雄は言った。「あんたがこの世界で何をしようとしているのかはわからんが……」

「そこを深く聞かないでくれるのであれば、私は君たちを現実世界に帰そう」


 この条件を――。


「わかった。深くは聞かない。だから、さっさと現実に帰してくれ」


 秀雄はその条件を呑んだ。

 大倉は博に支えられる朱里をじっと見つめる。すると2人は霧の中に呑まれるのであった。

 そして、あっという間に消え失せた。


「今、2人を現実世界に送った。……確認してくれ」


 そう言ったあと、大倉は口元をわずかに動かすのであった。

 笑ったことを知らない英雄は、大倉が本当に2人を現実世界に送ったのかを確認するのであった。スマートデバイスを取り出し、コードを打ち込む。そして、朱里と博の精神が無事に現実世界に送られたことを見ると、安堵した。


「あんたがこの世界で何をしようとしているかは知らん。知ったこっちゃない。俺は自分の娘を助けさえすればそれでいい。そう思っている」


 大倉は何も言わない。

 ただ黙り込み、秀雄の言葉に耳を傾けている。


「どんなことが、あんたにあったのかは知らないけど、あまり娘に当たるなよ……」


 来たばかりで深く事情を知らない秀雄。こう言ったのち、秀雄の姿は霧の中に消えるのであった。

 霧の街に1人取り残されてしまった大倉。この世界から3つの異物を廃したあと、大倉は口角を上げる。それから、両肩を震わせた。


「これで、これでやっと――」


 願望を果たすことができる。

 予定はかなり狂ってしまったが、これで妻を生き返らせることができる。霧の中に消える大倉の笑い声は高らかに響いた。

 彼は一体……これから何をしようとしているのだろうか?

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