9-3 あなたの苦しむ顔が見たい

 厚い胸板に自分の妻を生やす大倉。

 丸太のような腕を振り回し、図書館の入口を破壊して入ってきた。朱里と博に緊張が走り、顔がこわばる。


「児島、君のお父さんに電話する、いいかな?」

「うん、お願い」


 博はすぐさま朱里の父親に電話。

 2人を助けようとしている朱里の父親は、すぐに電話に出てくれた。


「あ~ごほごほ……」わざとらしく咳払いをする朱里の父親。「問題発生です……じゃない、問題が発生したようだね?」

「はい。えぇっと……大きな男が、胸に人間が生えている3メートルの大男が図書館に入ってきました」


 こういった後、博に朱里はこう言った。


「言ってなかったかもだけど……。その大男さ、大倉のお父さん。私の目の前でさ、大倉こなみに化け物にされた。多分だけど、胸の女性は大倉のお母さん。大倉のお父さんが生き返らせたいって言っていた人。大倉に教えてもらった」


 博は頷くと、


「大倉のお父さんらしいです。ゲームマスターである大倉こなみが、化け物にしたみたいで……あの、胸の人間はどうやら、自分の奥さんみたいです」


 朱里が補足してくれた情報を告げた。

 本棚を倒して歩く大倉。その様子を朱里は注視する。父親の合図があれば、いつでも飛び出せるように準備をして。


「わかった。とりあえず――あぁ、これはうまくいきそうだ。うん、うまくいきますね。君らを大倉博士に見えなくしよう。音を立てなければ、向こうに気づかれることはないはずだ。とにかく、そこを出た方がいい。正気を失った大倉博士に殺されるかもしれない」


 この意を、博は簡潔に朱里に伝えた。

 朱里は頷くと、父親にこう認識を改めるように告げた。


「もともと大倉のお父さんは正気じゃなかった。電話を切る前にそう伝えて」

「わかった」


 博は電話を切る前に、朱里の父親に伝えた。


「すみません、児島のお父さん。電話を切る前にちょっといいですか? あの、娘さんからです。大倉のお父さんはもともとおかしかったみたいです」

「というと?」

「もともと正気じゃなかったと」


 その言葉を言った後、


「……くふふふ。うふふふふ、あっはっはっはっはっは」


 PHSのスピーカーからこなみの笑い声が聞こえた。


「えっ」


 博が息を呑んだ時だった。


「そう、私のお父さんはもともと狂っていたんですよ。娘を実験に使うくらいおかしかったんですよね~」


 朱里と博の背中に声が。

 二人が振り向くと、そこにニタニタ笑うこなみがいた。だが、目が見えていないのか博と朱里を捉えられてはいなかった。正面から視線が外れている。


「すみませんね、朱里さん。お父さんではなくて私でした……自分の父親だと思って、安心しきっていたあなたを見るのはお笑いでしたよ。くふふふふ……」


 茶目っ気たっぷり笑うこなみ。

 向こう側で本棚を倒して遊んでいた大倉はこちらを向いた。満面の笑みだ。獲物を見つけた猛獣のように、穏やかな顔をしていた。自分の渇きをいやしてくれる存在を血肉とするため、自分の願望を叶えるために……全力で向かってきた。

 両手を広げ、大倉は食らうべく――休憩室に突っ込んでいった。


「悪いですけど、お父さん。悪いですが――」


 しかし、こなみはそれを許さなかった。

 アドミニストレーターの力を使い、朱里と博を連れて瞬間移動した。


「まだまだ苦しんでもらいますよ、お父さん。私が生まれてから十数年……あなたにはずっと苦しめられてきた。それをあなた方に伝えようと思いましてね」


 こなみは朱里と博に笑顔を向けた。

 すくむ2人。恐怖心に負けないようにこなみにガンを飛ばす。とにかく、意地を張っていないとやっていられなかった。

 そんな朱里と博が連れてこられた場所はというと、どこかの研究室。薄ら暗い照明がベッドの拘束具を照らしていた。この雰囲気も相まって、光を返す金具の輝きが妖しく冷たい感じを醸していた。


「おふたりとも……ここがですね、私で実験されていたところです。朱里さんには私の顔を見せたでしょう? 見覚えがありますよね?」


 頷きはしない。ただ睨みつけるだけ。それしかできなかった。

 現実世界では数多の理不尽に屈していたこなみだが、この世界では強い力を持っている。睨むことしかできない朱里をあからさまに見下していた。向月が自分に同じそうしたように……表情にしっかり現れている。

 いじめを見ていた朱里はそのことに気づく。あぁ、同じなのだなと気づいたら、途端に怖くなくなった。だが、こなみが強いのには変わりない。依然として、表情は硬いままだ。


「……やっぱり、答えてくれないんですね。無視ですか。お兄さんのことは深く反省しているというのに」


 こなみが何を考えているのか。なんとなくではあった。朱里は理解していた。

 自分が激昂することが目的だなと。


「普通さぁ、反省していたらこんなことしないよね? サイコハザードを起こして、いじめや虐待。当て馬にしてたことへの復讐なんてさ。やることがみみっちいんだよ。あんたがどんだけ辛かったか、知らないけど。ていうか、知ったこっちゃない」


 やり返されて、キッと朱里を睨むこなみ。両の拳はかたく閉ざされていた。

 だが、こんなところで怒るゲームマスターではなかった。


「まぁいいでしょう。お楽しみはこれからですから」


 ある目的のため、再びこなみは不敵な笑みを浮かべるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます