7-4 ジ・エンド

 再び、銃口から火が吹き荒れる。

 向月が両手で握りしめているリボルバーから放たれた弾丸は、こなみの眉間を見事撃ち貫いた。こなみもまた、傍らでものを言わなくなった東尾と同様に、リノリウムの床を血で汚すのであった。

 これにより、ゲームマスターは死に至った。


「ふぅ……ざっとこんなものかしら?」


 ゲームマスターを仕留めた向月はしたり顔を、固まっている朱里と博に向ける。それから二人にこんなことを言った。


「いろいろごめん、あ~さっきは……あ~全部、こいつらのウソだから。気にしないで、うん……きららちゃんはさぁ、多分、だまされたんだと思うけど」さも悲しそうに涙を流すと、向月は言った。「ごめんね、あたし……」


 二人はわかっていた。向月が演技をしていることは。

 本当に恐ろしいのはあの茶番を演じた後に、ウソだと言ってのける神経だ。女の子座りをして、しくしく泣いている向月を慰めなければいけない。しかし、博は彼氏としての役目を果たせなかった。本当に何もできなかった。


(この世界で一番恐ろしいのは、幽霊でもお化けでもない――人間の心なんだ……)


 むき出しになった人間の本性は恐ろしい。そんなことを思った朱里はその場にへたり込む。ゲームマスターが死んで、気が抜けてしまったようだ。


「……ねぇ、彼女が泣いているんだよ? 慰めないの?」


 しくしく泣いていると思ったら、鋭い激が飛んできた。

 指摘され、生返事を返すと――博は向月の元へとゆっくり歩いていく。挙動がぎこちなく、まるでロボットのようであった。

 向月にやられてしまったこなみと東尾。忍びなくなった朱里は二人の方を向いた。2人に視線をやった時、朱里は気づきたくないことに気づいてしまった。

 なんと、また……こなみの死体が消えていた。


「うぅぅぅぅぅぅぅうぅ……うううぅぅぅぅぅぅぅううううぅぅぅう……」


 そして、撃たれて死んだはずの東尾がうめき声をあげて動いている。

 気づいてしまった朱里は、すぐさま博を止めた。袖をつかみ、思い切り引っ張った。それにより、転倒してしまう博。

 何をやっているんだと、向月が吠えようとした時であった。

 向月が自分の背中にいる存在に気づいたのは。死んだはずなのに、地面を這う東尾。ものいわぬ死体が自分に迫っている。


「ぎゃあああああああああああ!」


 気づいたときにはもう遅かった。ゾンビになった東尾に向月はかみつかれてしまう。

 生者の肉を貪るゾンビと、悲鳴を上げてもがき苦しむ人間。その様相の凄まじいこと、おそろしいこと……。積もり積もった怨念を晴らすべく、向月の肉を食らう東尾。暴れる向月のことなど意に介していない。粛々と食事を行っている。

 これにたまらず朱里と博は抱き合いながら逃げ出した。


(ゲームはまだ続いている……)


 そのことを覚り、こらえがたい絶望に打ちひしがれそうになったが、まだ死にたくないという欲求がこれを消した。

 外へ逃げ出そうとするが――展望台の出入り口が開かない。焦っているせいだろうか?


「ごめん、開かない!」

「クソッ! ちょっとどいて――」


 二人は代わる代わる乱暴に扉を開けようとするが、ビクともしない。蹴っても、叩いても、外への扉は開かない。


「いやぁぁっぁあああああああああああああああああああ」


 朱里と博の背中では、向月の絶叫が続いている。

 助けを求める向月だったが、二人は助けなかった。あんなものを見た後だからか、いいや自分たちの命が惜しかったからだろう。

 生きながら食われる感覚に苛まれ、向月は発狂してしまう。

 愛しながらも憎んでいる向月を食うという東尾の狂気と、生きながら食われるという感覚を味わい狂ってしまった向月の狂気。

 この二つがまじりあい、恐ろしい怪物が生まれようとしていた。


「あっ!?」

「うわ!?」


 耳をつんざく向月の悲鳴が止み、何かと思って振り向いた朱里と博の小さな悲鳴。

 向月の体と東尾の体が融解し、まじりあって、何かおぞましい生命体が生まれようとしていた。2人はそれを見てしまった。

 さらに荒ぶる2人。向月と完全に溶け合ったよくわからない赤茶けた化け物がこっちにやってきている。ゆっくりと、床を形容しがたいもので覆いながら、にじり寄ってくる。


「開けってんだよ! この野郎!」


 切れた博が蹴り飛ばすと、扉はようよう開いた。

 すぐさま、朱里と博は外に出る。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


 化け物は産声を上げた後、博と朱里を追いかけてきた。

 この怪物のもとは東尾と向月だ。2人には知性があったが、この泥の化け物にはそんなものは備わっていなかった。人間が持つ、人間たらしめている原初の――空腹を満たしたいという感情が、朱里と博という人間――生き物を追う。

 展望台から全力で疾走する博と朱里。

 お互いを気にする余裕はなかった。足の赴くままにこの化物から逃げる。しかし、泥の化け物はそんな2人を食らうべく、執拗に追いかけてくるのであった。

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