7-2 向月雅というヒト


「東尾。あんたは覚えていないかもしれないけどさ、私……あんたのせいで二度ほど手首を切ってんの。先生のおかげで傷は消えているけどさ。切った時はさ、とっても痛かったし、辛かったんだ。だからさぁ、あんたにはそれ以上の苦しみを与えてやりたくってね。あんたの何もかもを奪ってやらないと気が済まなかった。博を利用しようとしたんだけど……大倉、あんたのせいで台無し、どう責任取ってくれる?」


 向月は笑う。歪む顔に彼女の本性が浮かび上がった。

 笑った後、凄まじい形相で向月はこなみをにらんだ。昔のこなみならば身を縮こませるだろうが、今は違った。不敵な笑みを浮かべている。どうしてニコニコしていられるのだろうかと、朱里は考えた。

 こなみはこのデスゲームのゲームマスター。ここにいる4人の生殺与奪を握っている。彼女が望み、行動すれば――簡単に殺すことができる。


「責任を取れと?」と、こなみが向月に質問をする。

「そう、責任を取って。現実世界に帰ったら、あんたを外に出られなくしてやる。殺してやる……覚えておきなさいよ」


 険しい顔をしている向月からそっと離れる博。

 こんな女の彼氏だったとは、思いもしなかった。思い出の中にある向月の姿と、今むき出しになっている本性はかけ離れている。それに、まさか……自分の本心を知られているとは思わなかった。まさか、自分の本心を復讐のために利用しようとしているとは……。

 朱里の側に行く博。それを横目でちらっと見た後、向月はこなみの眉間に銃口を向けた。

 しっかりと向月は銃を握りしめ、構えている。


「パパと一緒に何度もハワイに行った時にさ、何度も射撃場に行ったことがあるんだ。何回もあんたの顔を、東尾の顔を思い浮かべて撃ちまくった。だから拳銃の扱いはさ、得意なのよ。この距離なら、あんたを確実に殺すことができる」


 一見、可憐な女性に見えるが――とんでもない女だった。

 銃口を突き付けられているのだが、こなみは全く動じていない。不敵な笑みを浮かべているままだ。


「知っているよ。あんたが父親にいたぶられてきたこと」

「調べたんですね、私のこと……」

「もちろん。敵のことは調べなきゃね、戦えないでしょ? あんたが転校してしまうまで、徹底的に調べたわ。自分の父親にモルモットにされていることをね。……同情はするけど、容赦はしない。とにかく私のために死んでくれるかな? 大倉」


 淡々とした声で――死んでくれと、さらりと殺すと言ってのけた向月。

 立ちはだかるものは容赦なく倒してきた。殺人もいとわない向月にこなみは興味を抱いたらしい。こんなことを質問した。


「あなたに殺される前に、一つ――いいですか?」

「手短に頼むわよ。私はあんたを撃ちたくってしょうがない」


 こなみは小さく何度も頷いた後、こんな質問をした。


「どうして私をいじめたのですか?」

「そうねぇ……いっつもすまし顔で本を読んでいてむかつくってのもあったけどさ、何より一番気に食わないことは、私のことを無視したこと。あんた、覚えていないかもだけど、私が話しかけてきた時に黙々と本を読んでいた。私がこの世で一番嫌いなのは、無視されること。あんたはそれをした。だから、私はあんたを許さなかった」


 無視されることが向月は何よりも苦痛だった。

 中学時代、東尾のグループにいじめられている時、クラスメートから無視され続けてきた。その時感じた耐えがたい苦痛がトラウマになっている。だから、こなみに無視されたことが何よりも許せなかった。


「ははは……」笑う東尾。「そういや、あんた――無視されるの、嫌いだったよね? 思い出したわ。無視されて、めっちゃ泣いてたわ」

「思い出してくれた?」東尾に一瞥くれると、「じゃ、死んでくれる」


 東尾が嗚咽を漏らす前に引き金が引かれた。

 乾いた音のち、脳天を弾かれ――博と朱里は目をつぶり、耳をふさいだ。

 大音量の発砲音を聞いた後、ぐわんぐわんとする頭。数秒後に少し収まって、朱里が目を開けると――床に黒いしみが広がっていく……。それから、横たわっている東尾の姿を視認した。これにパニックを行って朱里は後ずさった。博は驚いて、その場に座り込んでしまった。

 人を殺したというのに、すまし顔をしている向月。全く動じていない様子だ。こなみすぐさまに銃口を向けた。


「殺しちゃったんですか……」

「えぇ、殺すわよ。私の敵なら容赦なくね。だってそうしなきゃ気が済まないもの」


 それから、向月は語る。

 この世で一番、無視が嫌いな理由を。


「私は誰にも無視されない存在になりたい。誰からも愛される存在になりたいと考えている。誰からも愛されること、羨望の目で見られることが、私の幸せなの。だからね、無視する人間が嫌いなの。あたしの敵なのよ」


 恍惚とした表情を浮かべた後、向月は引き金を引いた。

 二度目の銃声のち、こなみは地面に倒れた。

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