第七話「友情崩壊ゲーム」

7-1 友情の真実

 各々が抱く、感情が顔に現れている。

 博の驚愕と向月の恐怖。それから、東尾の憎悪。無表情のこなみがにらみ続けている朱里はというと、眉間を狭くして4人の動向に気を配っている。

 非常に混とんとしている状況である。

 仲の良かったはずの者同士が傷つけ合っているという状況。

 とはいえ、構造は単純である。大倉こなみの復讐という点では。ただ、東尾と向月をめぐる人間関係が複雑だ。

 博は巻き込まれてしまったが、蚊帳の外。朱里も同様に。気になる話ではあるが、別のことを気にしなければならない。サイコナイトでシミュレーションを繰り返し続けたおかげか、朱里は冷静だった。


「さっきさぁ」東尾は息を吐くと、鎌首をもたげた。「聞いちゃったんだよね~クソ雅が大倉に対してさぁ、言っていたこと。すっげぇ、腹立ったのよ。何かっつったら、あたしのことでさぁ……」


 先ほどから般若のような形相は変わっていない。

 東尾の怒りのボルテージは、さらに伸びあがっていく。


「そうそう、そうなんですよね~人をいじめて愉しむような人ですからね~、向月さんは。彼女さえいなければ、東尾さんは今も醍醐君と彼氏彼女でいたはずなんですが……」


 こなみはさらに東尾の怒りを煽るのであった。

 東尾の顔の筋肉が脈動している。揺れる火のように顔面が滾っていた。こなみはさらに東尾の憤怒へ油を注ぐ。


「朱里さんどこかで聞いたことのあるお話だとは思いませんか?」


 いいや、油をまき散らすといった方が正しい。

 こなみは東尾の怒りの炎を朱里や博にまき散らそうとしている。これに気づいた朱里はそっと後ずさる。

 しかし、逃しはしない。

 こなみににらみつけられ、金縛りにあったかの如く朱里は体を動かすことができなくなってしまった。石にでもなったかのようにどこも動かすことができない。

 焦る朱里。

 そんな朱里を見て、こなみはにんまりとした。


「朱里さんも酷いんですよ。だって、私を当て馬にしてお兄さんとその幼馴染の女性の仲を取り持とうとしようとしたんですから」

「それはひどいね」くすくす笑う東尾。

「それに、彼女は言っていましたよ。さっきね、久川さんとお話をしているときに、あなたのことを話していたんですよ。彼女も道中に向月から真相を聞いていたようで、そのことを嬉々として話をしていましたよ」


 違うと言いたかったが、こなみにかけられた術のせいで唇が動かない。

 博の方を見る朱里。視線を交わした後、


「そんな話はしていない」


 と、博は朱里を弁護する。


「でも、こんな話はしていましたよね?」


 こなみが指を鳴らすと、先ほど朱里と話していたことが展望台のスピーカーから流れ出すのであった。博が東尾に近づくために、向月と付き合っていることを。


「「「どうやったら……どうやったら、東尾と幸せになれるのだろうか?」」」


 最後の言葉が終わった後、博は気づいた。自分のポケットから、拳銃がないことに。これに慌てふためいた後、博の目の前にリボルバーが現れた。

 自分の彼氏が裏切っていたというのに、向月は涼しい顔をしている。

 先ほどの恐怖はどこに行ったのだろうか? 銃を構えているからだろうか? そんなことを朱里は考えていた。博はというと、この状況についていけず、軽くパニックになっていた。取り返さないといけないのだが、キャパシティがいっぱいで思考が停止していた。


「雅~あんたがそんなんだからさ、彼氏もそうなんだよ」向月を鼻で笑った後、東尾は久川の方を向く。「あんたが鬱陶しい理由はそれか。私のことが好きだとね。私はあんたみたいなさわやかな奴、嫌いなんだよね。雅のせいで別れることになった男を思い出すからさ」


 博の淡い想いはここで潰えた。拒絶され、ガクッとひざを折る。想い人に拒絶され、完全に頭が真っ白になったようだ。


「でも、それ以上にひどいのは向月だよね。わかっていて、そうしたんでしょ?」

「まぁね」


 ここでようやく向月は口を開いた。


「あたし以上に、あんたも性格が歪んでいるよ。人のこと、言えないっしょ。親が金持ちだから気に食わなかったんでしょ? グループであたしをいじめていたよね? これはその仕返しだから。あたしはあなたをどこまでも蹴落とさないと気が済まないの」


 向月は、東京都の有名な私立の全寮制の小中高一貫校に入学していた。だが、両親が離婚して父親の実家へと変えることに。有名なヤンキー中学である夢の浜北中学校に転入し、激しいいじめに遭うのであった。

 その時にいじめを行っていたのは、東尾が所属していたグループ。クラスの中で、一番ヒエラルキーが高いグループだった。


「知っているから。あんたがあたしをいじめさせたこと、グループを分裂させた時に主犯格が言っていたよ。金持でむかつくってさ」


 向月はいじめにあっていた。

 大人たちに助けを求めたが、頼りなく――死さえ考えた。だが、死ぬことが恐ろしすぎてできなかった。

 できなかったから、向月は戦うことにした。

 情報戦を行い、東尾のグループを分裂させた。東尾の幼馴染……彼氏を浮気させ、東尾の大切なものを奪った。

 奪った後、東尾の親友となった向月。

 それでも気は収まらない。さらに貶めるためにデジタルタトゥーを植え込もうとしたが、こなみによって制止された。

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