6-4 目には目を、歯には歯を


「でも、そうしたら――」


 そうしたら、久川はこなみに対して何をしたのだろうか?

 朱里は思った。博とこなみの関係について、だ。いったい何が原因で、デスゲームに参加するに至ったのか皆目見当がつかない。

 大倉という男は推測ではあるが、こなみの父親。こなみにネグレクトや虐待を行っていたため、憎まれても仕方がない。向月や東尾はこなみをいじめていた。東尾は暴力と暴言を振るい、向月は陰でこなみを陥れていた。ものを隠し、壊していた。朱里はというと、こなみの恋を応援すると思いきや、淡い想いを利用しようとした裏切り者。


「俺にもわからないよ。ていうか――全く話をしたことがない。そもそも顔を合わせたことがないしさ。唯一の接点、って言うのかな? 雅が彼女ってだけだな」


 ウソを言っている様子は全くない。いや、人というのは何を考えているのか全く読めないものである。向月という卑しく陰湿な女性を彼女にしていた。いじめに参加していてもおかしくはない。そのことを隠しているかもしれない。


「ふぅ~ん」


 博に疑いの目を向ける朱里。

 あからさまに見る目が変わった。それを肌で感じ取り、博は困った顔をした。完全に疑われているな、と。

 どうしたら、朱里の疑惑を晴らすことができるのか。

 展望台の暗がりの中に視線をやる博。そこに何も答えはないが、それでも探さずにはいられなかった。彼は本当に、大倉こなみという人物をよくは知らない。会って話をしたことすらないというのに……。


「あ~うん、児島なら話をしてもいいかなぁ」


 サッカー部のスポーツマンは腹を割って話をすることにした。


「何の話?」

「雅……と東尾に対してだなぁ。俺が何を思っているか……お前に本当のことを話しておこうと思って」


 本当のこと? 首をかしげる朱里。


「いやぁ~あ~うん。立って話すのも難だからさ。座って話をしないか?」


 朱里は何も返事をしなかった。その場にじっと佇んでいる。あからさまに博のことを警戒していた。

 取って食おうとは思っていない。やれやれと思いながら、博は壁に背を付け座り込む。それを見た後、朱里は博と距離を取り、壁に背中をくっつけた。座りはしなかった。何かされてもすぐに逃げられるよう。

 このことについて、言ってもいいのだろうか。

 何とも言えない顔をしながら、博は思っていることを話すのであった。


「去年の夏に、雅に告白されてから結構経つけどさ。実をいうと、あいつのことが好きじゃないんだ。本当は俺、東尾のことが好きなんだよ」


 こんな場所で急にそんなことを言われても……首をかしげる朱里。

 それでも博は語りだす。


「俺はずっとマネージャーの東尾のことが好きだった。あいつ、ツンケンしているけどさぁ、結構かわいいやつなんだよ。猫っぽいというか……うん。ずっと、東尾のことがね。気になっていた。いつからかはわからんけどさ、東尾と仲良くなっていくにつれて――雅とも遊ぶようになった。ほんで花火大会でさ、雅に告白されたときにさ。どうしようか考えた。告白されて、どうしようかってさ」

「どうしようかって何?」

「あの~うん……実は、悪いことだとは思っているけど、もっと東尾と話ができるんじゃあないかって思ってて。付き合ったら相談とかして、もっと仲良くなれるかなって。雅の親友があいつだからさ」


 疑惑を晴らすどころか、余計に深くなってきている。

 東尾ともっと仲良くなるために、向月の告白を受けた。にわかに信じられない理屈である。ますます、朱里はますます警戒する。保身のために、向月よりも東尾の方が好きだと言っているのだと朱里は考えている。

 ここに来てからというもの、朱里は誰も信じられないでいる。博には二度ほど助けられたが、それでも気を許すことはできなかった。


「話はわかったよ。東尾ともっと仲良くなるために、向月の淡い想いを利用していると?」

「うん」博はうなだれると、「まぁ、そういうことになるのかな」


 これ以上、朱里はなんにも言えなかった。

 言える訳がない。なぜなら、朱里も人の想いを利用したことがあるからだ。そのせいで、意せずデスゲームに放り込まれた。先ほどから胸の奥がチリチリして苦しい。何かが喉から顔を覗かせているような感覚に苛まれていた。

 朱里が黙りこくっていたら、


「どうやったら……どうやったら、東尾と幸せになれるんだろう?」


 不意に博がこんなことを言ったが、その質問に対して朱里は何も答えることができなかった。

 展望台のリノリウムは深い闇をたたえていた。

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