4-2 交番で

 東尾こと、東尾きららは向月の親友である。

 2人の仲は睦まじい。博という恋人ができるまで、一部の女子たちから向月と東尾はレズではないかとウワサされていた。

 ちなみに、朱里とも面識はある。

 昨年、東尾は同じクラスで向月と一緒に大倉こなみをいじめていたから。

 やったことはえげつない。大倉こなみの所有物を隠したり、彼女が書いていた小説をクラス中に拡散して笑っていたり、とにかく一緒に悪逆の限りを尽くしていた。


「きららちゃんとさ、なんの話をしてたの?」

「お前のことについてだよ。あの子、友達想いじゃん。心配性みたいだから」


 部屋が一瞬暗くなり、ぱっと明るくなった。

 何事かと思い、朱里は身を縮こませる。一つしかない部屋の出入り口を注視するが、何もなかった。安心はできないが、注意するに越したことはない。老婆がいるかもしれない。部屋から出るときに、気を付けなければいけないなと思う朱里であった。

 再び、向月と博に視線を戻す朱里。

 彼女がいるというのに、他の女に電話をした訳だ。向月は嫉妬深いと朱里は思っている。痴話喧嘩でも起こるのではないかと危惧していた。


「そっか、そうなんだ」


 淡白な反応だった。

 これに朱里は違和感を覚えた。学校で人目をはばからず、いちゃついている姿をよく見ていたから。


「児島さん、提案があるんだけど――」

「なに?」

「うん。あの――きっとだけどさ、この世界は多分だけど、夢の浜を再現したものだと思うんだ。だから、夢の浜を出れば現実世界に帰れるんじゃないかって考えているんだけどさ。どうかな?」


 どうだと聞かれてもわからない。

 博は続ける。


「前に、ブレア―で結構問題になったんだけどさ。サイコハザードっていう、仮想世界から現実世界に帰れなくなる現象。覚えてる? ニュースとかでいろいろやってたよね?」

「あぁ、うん……よく知ってる」


 覚えているも何も、親がサイコハザードを収拾している。嫌というほど、危険性を話されてきた。一時期それで朱里は父親のことが嫌いだった。兄がサイコハザードに巻き込まれた後は、ゲームをあまりやらなくなった。今は特に何も言われないので、何とも思っていない。時折、苛立つことはあるのだが……。


「サイコハザードが起こるようになってからさ、強制ログアウトする方法が義務付けられたよね?」

「あ~うん。確か、そうだったよね。ブレアーだったらマップの端に行けば強制ログアウトになるんだったよね」と、相槌を打つ向月。

「うん、そうそう――だから、夢の浜を出てみようって考えてる。何もせずにここで救助を待つも難だと思うし」


 朱里の父親曰く、やってはいけないことらしい。

 現実世界からのサポートなく、集団で動くことはよろしくない。むしろ公共施設で固まっている方がいいらしい。

 だが、2人が聞いてくれるとは限らない。むしろ、聞いてはくれないだろう。

 それでも言うべきことは言っておくべきだ。


「あの~言いづらいんだけどさ、この世界ってブレアーみたいな感じじゃないよね? 別のゲームであるんだけどさ、時間制限でゲームからログアウトさせられたり、リモコンとかを持たせられてボタンを押したら強制ログアウトするゲームもある」


 向月と博の挙動が止まる。

 キョトンとしている2人に朱里はさらに続ける。


「サイコハザードを起こした人の頭の中にベースになっているゲームの存在がある。えぇっと、ゲームマスターって言うのかな? そのゲームが何なのかがわからなければ……どうしようもないんだとか。まぁ……クリア条件っていうのかな? それがわかれば脱出できるらしいんだけどね。私たちじゃあ、ちょっとわからないというか」

「それでも何もしないよりはましでしょう?」話の途中、向月が口を挟む。「情報を集めなきゃ、救助している人たちに知っていることを話さなきゃいけないじゃんね。その時に情報を多く持っていた方がいいと思うんだけど?」

「それはそうなんだけどね。でも、サイコハザードは外側……現実世界からみっちり調べることができるらしいんだ。だから、現実世界につながりやすい場所でバリケードを作って救助されるのを待った方がいい」


 向月は困った顔をした。その顔を博に向ける。

 不安そうな顔をしている恋人に微笑むと、大丈夫だと頷いてみせた。それから、2人とも朱里のまなざしを射抜く。


「助けてくれるのを待てってこと? でも、ずっと放置される場合があるんじゃ……それだったら現実世界でミイラに……そんなのは嫌。それじゃあ……それよりも自分から脱出する方法を探した方がいいと思うんだけど?」

「俺も雅と同意見だ。じっとするよりかは出口を探した方がいい。その方がいいと思う。ひょっとしたら出られるかもしれないだろ? 夢の浜に出た瞬間にさ。待つよりかは行動した方がいいと思うんだけど……どうかな?」


 朱里は考える。

 今後、どうすべきかを。


「……2人がそこまで言うなら」


 とりあえず、2人の意見に同調する朱里。

 でも本当のところはこう考えていた。いざという時は一人で行動しようと。

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