第三話「ホームセンター」

3-1 尼堂の交差点にて

 朱里と向月が通う学校から10分というところに四宮堂というケーキ屋がある。

 そのお店のシャッターの前で二人の少女は座り、肩を寄せ合っていた。

 朱里は向月に生き延びるためのすべを話す。

 まず、襲い掛かってくる老婆の存在。次に、老婆が目ではなく音に反応すること。それから、老婆が現れた時に何をすればいいかなど。知っていることはすべて打ち明けた。


「ありがとう、児島さん。その老婆というか化け物のことはよく分かった」向月はこなみの上着を見えて顔を歪める。「ずっと気になっていたんだけど、服に――血がついているよね? それはなんで?」

「この世界に来てからすぐ、老婆が現れてね。玄関に落ちていた“こなみ”っていう包丁で撃退したんだ。その時に返り血を浴びちゃったみたいで」


 向月は“こなみ”という言葉を聞いたとき、眉をひそめた。

 眉と眉の間が険しく谷のようになっている。朱里はそれが気になった。


「どうかした?」

「ううん、何でもない」


 様子がおかしかったので、尋ねてみるも突っぱねられてしまう。二人はあまり親しい仲というわけではない。たまたま危険な場所で一緒になっているだけだ。お互いに馴れ合うつもりは全くない。

 何でもないのなら、


「私、学校に行ってみようと思うんだけどさ。どうかな?」


 休憩はこれくらいにして、学校に行ってみようと朱里は提案した。


「何のため?」

「えぇっとここが夢の浜なのか確かめるためにね。あと、ステージっていうのかどうかわからないけど、ステージの広さをつかむためかな」

「ステージの広さをつかむためってどういうこと? ここ、夢の浜でしょ?」


 向月の言う通り、夢の浜ではある。

 しかし、夢の浜に似た別の場所である可能性を否定できない。今つながっているのが、DBLSサーバかどうか、確かめなければならなかった。


「DBLSってさ。人の意識を機械につなぐものなんだけど……サイコハザードが起こっちゃうと、とある人物の脳に意識がアクセスしちゃうものなんだ。つまり、誰かの記憶が作った夢の浜にいるかもしれないってこと。それを確かめたい」


 向月には理解しかねた。ただ首をかしげるばかりである。

 朱里は専門家でなく、ただの高校生だ。本当に大丈夫なのか、ここが誰かの脳内なのか、本当にわかるのだろうかと疑問であった。

 だが、向月が頼れるのは現状、朱里だけ。朱里を頼るしかなかった。


「学校に行けばわかるって言っていたけど、どういうこと?」

「詳しくないから話せないけど、その人の心理的特徴っていうのかな? なんか――学校に、その人が根付いているものが現れやすいんだとか。現にお兄ちゃんがサイコハザードにあった時、学校に飛ばされたらしいんだけど、その時、雪が降っていたんだって。それだけじゃないんだけど、ほかにも例があるんだ」

「学校にねぇ」向月は息を吐くと、「でも、学校っていってもたくさんあると思うんだけど? うちの高校だけじゃないでしょ? 夢の浜にはほかにも高校あるじゃんね? それに小学校とか、中学校とかさ。見た感じ――ここ、夢の浜じゃん? めっちゃ多いと思うんだけど? それに例って? 児島さんのお兄さんの時はそうだったってことでしょ? 安全だから行くって訳じゃないの?」

「えぇっと――」


 向月に突っ込まれ、答えに困窮する朱里。

 朱里自身、サイコハザードについてきちんと理解しているわけではない。父親から要約された話を聞かされただけである。それに朱里の父親は話下手だ。回りくどい説明に加えて専門用語が多く、難解な言い回しをする。そのせいで朱里は学校に行かなければいけない理由を完全に理解していなかった。

 そのおかげで向月にうまく説明できなかった。

 向月は腕を組み、怪訝な顔を朱里に向けている。この顔を見て、きちんと調べておけばよかったと朱里は思った。わからないことをわからないままにしていたことを後悔する。


「あ~っと、うん……なんというか、学校とかに武器とかあるかなって」


 問い詰められ、こんな言い訳しかできないのがもどかしかった。

 申し訳なさそうに朱里が言うと、向月はため息をついた。


「学校に武器なんて、普通に考えてあるわけがないでしょ? それなら、ホームセンターとかに行けばいいじゃない。チェーンソーとか鉄パイプとか売ってるしさ。あと、のこぎりとか包丁とかもね。普通に武器になるじゃんね? ここから――そう遠くない場所にあるよね? 世津埼のコメル。知ってるよね?」


 向月にとことん突っ込まれ、ぐうの音も出なくなってしまった。

 頼りになるのかならないのかわからない。向月は不安を覚えている。本当に朱里は大丈夫なのかと。

 しかし、現状は朱里を頼るしかなかった。


「とにかくさ、学校じゃなくてホームセンターに行こうよ。児島さん。そっちの方が絶対にいいよね?」

「……うん、そうだね。ごめん。そうしようか」


 しょげている朱里に立つように促すと、向月はホームセンターへと向かう。朱里は何とか切り替えると、向月の後を追うのであった。

 四宮堂のケーキ屋から世津埼のコメルというホームセンターまで、歩いて30分。

 霧にまかれながらも二人は目的地を目指すのであった。

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