1‐3 スペシャルゲームのお誘い


「ウワサ、本当だったんだ……」


 テレビ画面に表示されているのは、スペシャルゲームの誘い。

 まさか、スペシャルゲームに招待されるとは思わなかった。朱里はソファーから身を乗り出すと、テレビのリモコンを握りなおした。

 手の中は汗でにじんでいる。うれしさのあまり、朱里の両手は震えていた。誤操作に気を付けながら、震える指先でそっと『決定』ボタンを押下する。そうしたら、朱里の目の前にあるテレビ画面にこう表示される。


『スペシャルゲームへの参加を承認しました! 少々お待ちください……』


 これで、朱里はスペシャルゲームに参加できる。朱里は「よっし!」と、ガッツポーズをとった。

 スペシャルゲーム……サイコナイトのプレイヤー界隈で、噂になっている。

 その内容としては、ベータテストだ。サイコナイトの運営がランダムに5人のプレイヤーを選び、次回のアップデートで追加されるキラーから逃げるというもの。

 そのゲームに参加するだけで、たくさんクレジットを手に入れることができる。

 もちろん、逃げ切ることができれば、たくさんクレジットをもらえる。通常のゲームでもらえるクレジットは、逃げる側は平均100~250クレジットもらえる。キラーなら100~500クレジットを1ゲームで得ることができる。

 スペシャルゲームに参加する場合であれば、参加するだけで、なんと700クレジットももらえる。ちなみにスペシャルゲームで逃げ切ることができれば、2000クレジットもらうことができる。

 これは非常においしい。

 朱里が欲しいキラーのクレジットは2000。現在、朱里のクレジットは1360。このスペシャルゲームに参加するだけで、キラーが買えるようになる。

 今は深夜の1時。

 明日は学校に行かなければならなかったが、朱里はこのゲームに参加しない訳がなかった。


「少しくらい、夜更かししてもいいよね?」


 そうつぶやいた後、朱里の目の前にあったブラウン管のテレビが、す~っと遠のいていった。

 あたりに暗闇が満ち満ちる。

 恐怖感と期待感に揉まれ、朱里は高揚していた。これから起こることが楽しみで仕方がなかった。


「ん……あれ?」


 気づけばソファーは、ベンチになっていた。そばにはバス停の看板が立っており、停留所に変わっていた。趣向を凝らしたゲームの演出に、にんまりとする朱里。とても興奮し、彼女の鼻がほんの少し大きくなった。

 バス停の看板に『サイコナイト リザルト画面』と書いてある。

 リザルト画面停留所に、バスがやってきたのは間もなくのことだった。

 やってきたのは、70年代の日本のバス。古めかしい外観が朱里の目を惹いた。中でも一番気になったのが、掲示板が真っ白なこと。行先が書かれていないバスがどこに行くのか、怖くてたまらなかった。

 停留所でバスは止まり、自動ドアが開いた。

 朱里はそそくさとバスに乗った。


「あれ、運転手がいないんだ」


 乗った後、そのことに気づく朱里。首を傾げた後、一番後ろの席に座る。すると、バスがゆっくりと動き始めるのであった。運転手もいないのに。

 なんだかホラーゲームの主人公にでもなったような気がして、気分が高揚する朱里。

 このゾクゾクする感覚がたまらなかった。


「さて、これからどうなるんだろうね?」


 リザルト画面から――朱里はどこへ向かうのか、まったくわからない。現実世界ならとてもうかつな行動だ。軽率で、とがめられる行為である。しかし、ここは仮想世界。命の危険は及ばない。そう考えているからこそ、朱里はバスに乗ってしまった。

 朱里は振り向き、窓からバス停が遠くなるのを見続けた。前は真っ暗で見るものはない。

 看板はすぐに闇の中に消え、見えなくなってしまった。

 しょうがないので正面を向くと――。


「えっ!?」


 あろうことか、ベッドの上に座っていた。


「えっと――ここは?」


 ベッドの上、どこのベッドの上なのかを知るために、朱里は立ち上がる。

 暗い部屋で照明は消えた状態だったが――なんとなく、この場所がどこか分かった。いつもゲームはもとより、勉強もやっている場所だからか。


「えぇっと……ここって自分の部屋だよね?」


 バスの後部座席にいたが、気づけば朱里は自分の部屋にいた。

 現実世界に戻ってしまったのかと考えたが、そうではなかった。普通ならば、朱里の両親や兄と兄の彼女がいるはずなのだが、まったく人の気配がしない。呼びかけても誰も答えてくれなかった。

 父親が「うるさいぞ」と注意してくるはずなのだが……不可解極まりない。シーンと静まり返っている。

 妙だと思ったその時、


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」


 形容しがたい声。

 金切り声に似たその声に、朱里は身を縮こませる。本能的に身の危険を感じ、朱里の瞳孔が開ききった。背中にべたつく感覚に、激しい動機。ゲームをしているときに感じる感覚に身をゆだね、朱里は自宅にいる何かを確かめに行くのであった。



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