1‐2 リザルト画面にて

 ゲームを終え、気づけば朱里は古びたソファーに座っていた。

 我に返った朱里の目の前には、古ぼけたブラウン管のテレビがあった。

 ソファーとブラウン管のテレビ以外は何もない。あとはどこまでも広がる暗黒の空間。唯一の光源はブラウン管のテレビのみ。

 この空間は、ゲームのリザルト画面と呼ばれる場所である。

 リザルト画面に戻ってきた朱里は体を伸ばすと、テレビモニターを注視。そこには先ほどの結果が表示されていた。

 モニターに表示されているのは、ゲームの参加者の一覧。一番上が牙の男に扮していたプレイヤーで、その下からは逃げる側のプレイヤーたちの名前が連なっている。牙の男にやられてしまったプレイヤーの名前は赤く表示されており、もちろん朱里のハンドルネームも赤かった。しかし、一人を除いては……。

 朱里はうなると、何もない空間に手を突き出す。すると、どこからともなく古めかしい電話が丸テーブルに乗って表れるのであった。

 古き良き時代のダイヤル式の電話。

 これを見たときは使い方がわからず戸惑ったが、電話のかけ方を兄の彼女に教えてもらい、普通に使えるようになった。

 受話器を上げ、穴に指を入れてダイヤルを回す。番号はあさぽんというプレイヤーのだ。

 3コールのち、あさぽんは電話に出た。のん気な「も~しも~し」という声の後、朱里は眉間を険しくした。


「あさぽんさん、お疲れさまでした」朱里は息を吐くと、「さっきの件ですけどね……私の上着のポケットに何かしました? やりましたよね? ねぇ?」

「あっ、あぁ!?」上ずった声を出すあさぽん。「あ~っはっはっはっは……」

「上着のポケットに何か入れましたよね? 急にブーっと鳴ったせいで、キラーに見つかっちゃったんですけど」


 キラーこと、牙の男を操作するプレイヤーに見つかってしまったことを抗議する朱里。

 それに対し、あさぽんはヘラヘラしてごまかそうとしていた。


「いや、あの……朱里ちゃん。私としてはねぇ、あの、もうちょっとでクレジットがたまりそうでさ、新しいキラーを買おうと思ってて」


 このゲームを逃げ切ることができれば、新しいプレイアブルキャラクターを買えるからだとあさぽんは語る。


「まぁ、魔が差したというかね。朱里ちゃんのポケットの中に、拾ったおもちゃをこっそり入れちゃった訳よ。すまないと思いながらさ。おかげで、キリシマ手に入ったんよ」

「欲に目がくらみ、裏切った訳ですね」


 痛いところを突かれ、呻くあさぽん。しばらく黙り込むと、「すみません」と謝るのであった。

 朱里の顔がほころぶ。

 あさぽんはとてもいい人だ。このサイコナイトを朱里が始めたばかりの時、あさぽんに助けられた。逃げる技術やキラーの特徴や弱点についてレクチャーしてくれた。そのおかげで、ゲームを楽しめている。


「あさぽんさん、四宮堂のケーキ……あるじゃないですか?」

「うん、あるねぇ……」

「あそこで限定品が売られているんですけど、知ってます? 17時から売り出されるやつなんですけど」


 電話向こうで、うろたえるあさぽん。

 うろたえるあさぽんの姿は面白かった。朱里の口角は尖っている。


「……わかった。それで手を打とう。四宮堂の限定抹茶ケーキだね。今月さ、ピンチなわけだけど――友情に背に腹は代えられないね」


 友情の言葉を聞いた時、朱里の右眉がピクリとした。


「ほいじゃ、朱里ちゃん。一緒にケーキを食べに行こうか? 私のおごりでねぇ」

「よし!」


 満面の笑みを浮かべ、朱里はガッツポーズをした。

 いつかは未定であるが、近日、放課後に朱里はあさぽんと一緒に四宮堂の限定抹茶ケーキを食べに行くことに。


「いつ行くかは後でね」

「はい! あさぽんさん。よろしくお願いします」


 受話器を置くと、朱里は深くソファーに腰かける。

 いつの間にかテレビ画面に砂嵐が吹き荒れていた。大きなノイズがやたら、朱里の耳についた。一瞥くれると、朱里は上着のポケットからリモコンを取り出す。彼女が手にしているのは、目の前にあるテレビのリモコンだ。

 真っ赤な電源ボタンを押し、テレビを黙らせる。リザルト画面は完全に真っ暗になり、しーんと静まり返った。

 朱里がこのゲームを始めてから、かれこれ半年が経つ。

 始めた頃よりも逃げる技術は進歩しており、キラーに対しての知識も増えた。以前よりも朱里は強くなっており、最近は生き残ることが多くなってきている。そのおかげか、より一層ゲームを楽しいと感じている。

 けれども、朱里は物足りなさを感じていた。

 その理由としては、クレジットがなかなかたまらないことだ。クレジットをためて、キラー側でゲームをもっとやりたいと、人を追いかけたいと思っている。

 そんな朱里のもとへ、こんな知らせが舞い降りる。

 突然ついたテレビ画面。何かと思い、朱里が画面を見ると――そこにはこう表示されていた。


『おめでとうございます! あなたはスペシャルゲームに招待されました』


 これを見た朱里は、目を輝かせた。

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