第21話  中央の王子

アスカと8人の騎士たちが話し合っている時、1人の大柄な男がずかずかとテーブルに近づいてきた。


この酒場にいた誰もが騎士団を恐れて遠巻きに見ていた所に向かって、その男は躊躇なく進む。


「おい!」

しかもいきなり騎士団長ジェイドの横に立つ。アスカもびっくりした。背丈はジェイドと変わらないぐらいだが、筋肉で横幅は倍ほどもある。

浅黒い肌にライオンのような黒髪は野生の獣のようだ。


「ジェイドじゃねえか!」

男の大きな声に、ジェイドはゆっくりと顔を向ける。


「ダン。久しぶりだな。」


「相変わらずスカしてんなぁ!!元気だったか!」

ダンと呼ばれた男は横のテーブルのイスをぶんどって自分も騎士たちのテーブルに着いた。


騎士団の隊長たちは最初いぶかしげな顔をしていたが、”ダン”という名前を聞いて途端に恐縮し始めた。


「王子様というのは、実に気楽だな。」

ジェイドが皮肉っぽく言う。ダンはガハハと笑った。

(王子様・・・?中央の国の・・・?)

アスカは騎士たちの態度が変わったのも納得した。中央の王子様となれば、この大陸の最大の権力者の一人ということなのだから。


「王子様っつっても5人目だからな!!べつに大した責任もない立場だ!確かに気楽なもんだ!」

ダンは店員が持ってきたひときわ大きなジョッキに入ったお酒を一気飲みした。


「酒がうまい!後は女がいればこの世は最高だ!王子なんかクソくらいだぜ!

しかしお互い女っけがないと思っていたが・・・お前・・・」

ダンは、ジェイドが隣に、隠すように座らせているアスカをジロジロ見た。


「なんだよ。しばらく会わんうちに女房でももらったか。」

「これは妻ではない」

ジェイドはそっけなく答える。


「じゃあなんだよ。オレには分かるぞ、お前がその女を大事そうにしてるのがな。違うのか?じゃあ見せてみろよ!人間の顔をしてるならオレにも抱かせろ」

ダンがその大きな手でアスカのフードを引っ張ろうとするのを、ジェイドは氷の剣で止めた。


「おいおいおい・・・」

あと数ミリで鼻がそげ落とされそうになったダンは慌てて手を引っ込める。

「マジかよ・・・。お前・・・。」


「誤解するな。この女は利用価値があるから連れているだけだ。お前に壊されては困る。」


「わかったよ!そういうことにしといてやる!」

と言いつつダンはアスカにこっそりウインクをして見せた。


ダンを交えた騎士団の話し合いは昼過ぎまで続いた。

夕方まで少しは休まないと体がもたないと、隊長たちもそれぞれ休憩に入る。


酒場の混雑の中でアスカがほんの一瞬ジェイドから離れた瞬間、腕を強く掴まれて店の地下の暗がりに引き込まれた。


「!!」

声が出せないように口も塞がれる。暗くて顔は見えないが、相手は2,3人いるようだった。


「早く脱がせろ!」

男たちがアスカの服を引きちぎり始める。


(やめて!いやだ!)

叫びたいが声が出ない。


「こいつのそばにいると・・・なぜか堪らない気分になる・・・店に入ってきた時から狙っていたんだ・・・早く・・・早く・・・」

男たちは酷く興奮していて明らかに尋常ではない様子だった。


アスカの、人魚の木の実のせいだろうか。異様なフェロモンがまき散らされている。


実はさっきアスカとテーブルを囲んだ騎士たちも言いようのない気分に襲われていたのだが、鍛え抜かれた精神で自分を押さえていた。


しかし酒に酔った一般人が我慢できるはずもない。


アスカは抵抗しながらも全裸にされた。


「おい、よく見せろ!」

1人の男が小さな燭台をアスカに向ける。


暗闇の中、白い足、細い腰、豊かな乳房、そして息をのむほど美しい顔が浮かび上がって来た。


「こいつは・・・すげぇ・・・」


男たちは一斉にアスカに襲い掛かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る