第13話 海から
「化け物・・・?!村に・・・?」
アスカは真っ先に父親とレオンの顔を思い浮かべた。
「そうか・・・思ったより早かったな。よし、第2、3隊を村の近くまで様子を見に行かせろ。
怪物には決して手を出すな!」
「はい!」騎士はすぐにテントを出ていく。
「ま、待ってください!化け物が出たなら、村の人を助けてください!お願い!」
アスカの懇願をジェイドは無視した。
「ジェイドさん!化け物って・・・もしかして海で村の船を襲ったという・・・」
「そうだ。アレは陸にも上がれるようだな。」
「なっ・・・村の人が危ない!みんなが・・・みんなが・・・!
お願いします、今だけ、ボクを村に返してください!必ず帰ってきますから!
父を・・・友人を助けたいんです!」
「ダメだ」
「お願いジェイドさん!お願い!何もできないなんて嫌だ!!」
「さっきの若い騎士の首が手土産になるが、それでもいいなら行くがいい」
「・・・・!!!」
アスカはなすすべもなく泣き崩れた。
*****
最初に、それに気付いたのは人魚の村で長く食堂を営んでいる女将だった。
下ごしらえで、海辺でタコを洗う。棒で叩いて柔らかくするのだ。
人魚の木が燃えさかり、村人は大騒ぎしているが、すぐにお腹を空かせて興奮冷めやらぬまま食堂に押しかけて来るに決まっている。酒と揚げたタコを出せば儲かりそうだ。
女という者は現実的なのだ。明日の家族の生活をいつだって1番に考えている。
白い泡が出てきたタコを見ながら女将はそんなことを考えていた。
ふと、海を見る。静かだった。
赤い夕陽が水平線から見える。いや、そんなはずはない。
夕日はさっき沈んだのだから。
赤いシルエットは徐々に大きくなり、どんどん近づいてくる。
女将は目をそらすことも出来ずジッと見ていた。
二つの大きな目が海面から出てきた時、
女将は叫び声を上げて村の中心に向かって走り出した。
村の中心には男たちが集まり、未だ燃えさかっている人魚の木に水をかけていた。
「海から!海から!」
女将は赤い化け物のことを言葉にできず、ただ男たちを捕まえて海の方を指差した。
1人、また1人、水を持つ手を止めて海の方を眺める。
「なんだアレは・・」
「うわあああああ!!!」
化け物に襲われた船に乗り合わせて、何とか助かった男が恐怖に狂った叫び声を上げた。
「あいつだ!あいつだ!にげろーーーー!」
「あれは・・・!!」
レオンは海から上がって来た化け物を凝視する。
とにかく巨大だった。100人乗りの船すらもおもちゃのようだ。そして真っ赤な体にクジラのような大きな口、イカのように何本もある手足。
しかし、村人を最も恐怖のどん底に陥れたのは次の瞬間だった。
ギギャアアアアアアアアア
腹の底から鳥肌が立つような化け物の雄たけびを聞いた時だ。
村人はいよいよこの村の、いやこの世の終わりだと口々に言い合い、自分の家へ転がるように帰っていった。
「荷物をまとめて逃げるんだ!」
「中央の騎士団はどうした?!」
「山だ!山の方へ行く騎士団を見た!」
「みんな、山へ逃げろ!」
「みな、待て!逃げ場などない!」
人波の流れに逆らうように村長が現れた。
「父さん!」
レオンは父の側に駆け寄る。
「しかし村長!早く逃げないと化け物が・・・!」1人の男が言う。
「あれからは逃げきれない!倒さぬ限り、この村は全滅だ!」
村長はレオンの両肩を掴んだ。
「よく聞け我が息子レオン!お前はこの村を、いや世界を救う運命なのだ!」
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