Monolog..



 ぴちゃっ。


 相変わらず、この小さな箱庭の中には、一定のリズムで雫が落ち続ける。花たちに潤いを与えるために。何もない静寂を貫くように。一滴、また一滴と。

 ここにいる花たちには、様々な物語がある。彼らはそれを見てきたのだ。

 改めて箱庭の中で咲き誇る花たちを見渡した。初めに見た時とは違う姿で視界に飛び込んでくる。どの花も凛々しく誇らしげに胸を張っているように見えた。

「そろそろお迎えが来るかな。次のお話で最後にしようか。今日はたくさんの物語を聞いてくれたね。久々のお客さんで僕も花たちも嬉しかったよ。君とお別れするのは少し寂しいけど、会えてよかったよ」

 帰れるんだと思うとほっとした。どこへ帰るか? わからない。ここではないどこかへ。自分が元いた場所へ。そうすればきっと思い出す。

「最初に君を見た時、小動物でも迷い込んだのかと思ったよ。挙動不審でふるふる震えていたからね。今も印象はあまり変化ないけど、好奇心旺盛な小動物かな。花に好かれそうなタイプだね」

 アルビノの青年が何を言っているか、時々わからなくなる。違う人種だからだろうと強引に納得した。これほど全身真っ白な人間を見たことがないのだから。そして花だらけの小さなこの場所——箱庭も。

「さあ、最後の物語だ」

 得体の知れない彼とも、この箱庭とも、次の物語が終わったらお別れだ。


 ぴちゃっ。


 ぴちゃっ。


 心做しか、落ち続ける雫の音が大きく聞こえる。それはしだいに大きく、激しさを増して落ちてきた。

 ああ、雨だ。

「そう、これは雨のお話」

 アルビノの青年が、思考を先読みしたように、楽しげに話し始める。

「雨季に艶やかな姿で咲き乱れる花たちに見守られ、そして実った恋のお話」


 サァァァアアア——


 今まで落ち続けていた雫の音は雨の音に掻き消された。

 少し豪華になった古書の椅子に腰を下ろし、正面で揺り椅子に玩ばれるように揺れ続けている青年を見た。


 心の準備を終え、最後の物語を語る彼の繊細な声に耳を澄ませた。

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