Monolog..



 ぴちゃっ。

    キィッ……。

 ぴちゃっ。

    キィッ……。


 絶えず落ち続ける雫と、アルビノの青年が座っている揺り椅子の軋む音が、妖しげにリズムをとっていた。彼は目を閉じ、穏やかな表情で、自ら語った話の余韻に浸っていた。その閉ざされた目には涙が滲んでいるようで、長い睫毛が輝いている。

 その姿をじっと眺めていると、青年はゆっくり目を開けた。灰色に縁取られた瞳が、神秘的にしっとりと潤んでいる。

「どうだい、君。少しは緊張は解けたかい? ああ、震えは止まったようだね」

 無言で頷くと、彼は安堵したように吐息をついて微笑した。

「それはよかった。僕、語り手としてはまだ日が浅いから心配だったけど、君の緊張が解けたなら嬉しいよ。あとね、今のお話は実話なんだ。この箱庭で暮らす花たちが見てきた物語なのさ。僕はこうして、この箱庭に来たお客さんに物語を振る舞ってるんだよ。さっきのタンポポの物語は心がぽかぽかする素敵はお話だったでしょう? この物語は僕の一番のお気に入りなんだ。でも君にはイマイチだったかな」

 首を大きく横に振って否定した。青年はまた微笑した。そして、白く繊細な指先で、目尻から溢れそうになっている涙を拭った。

「よかったらもっとお話を聞いていってよ。花たちも久々のお客さんに喜んでるんだ。ここにいる花たちには、それぞれに物語があるんだよ。そうだ、次は君の母国からきた花の物語にしようか」

 母国という言葉がぴんとこなかった。この場所が、見たことのない不思議な場所だとは思った。初めて訪れる場所だと。だが、それより前、ここへ来る前のことが思い出せないでいた。自分はどこからきたのか、自分は誰なのか。

 自分の体に視線を落とす。アルビノの青年とは対照的な黒い洋服に身を包んでいるようで、服の袖から覗く肌は黄みを帯びているように見えた。真っ白な彼と比べたら、白人ですらくすんで見えてしまいそうだが、自分の肌はどう見ても白でも黒でもなかった。

「では、次は寒い季節の物語だ」

 青年が楽しげに語りだす。彼の体が揺れるたびに、揺り椅子も楽しそうにキィキィと軋む音を立てながら前後する。すっかり思考回路を断ち切られてしまったので、自分のことは後回しにして、青年の穏やかな声に耳を傾けた。

「しんしんと降り積もる雪の上に、一人の少女が投棄されていました」

 思わず目を丸くし、続きをせがむように前のめりになった。キィキィと揺り椅子の軋む音が不安を煽る。少女はなぜ投棄されてしまったのだろうか。彼女はその後どうなるのか。

 食い気味な姿勢を見て、青年は満足そうに語り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます