中等部の幽霊
1
仕事と学校は別。学校の事は仕事に持ち込むな、と蘭子さんをはじめ事務所の先輩方に言われた事だ。
学校があるからこんな失敗しました、なんて仕事じゃ通じない。
とはいえ、私が小学生なのに仕事をすると、撮影が一段落してから相手方から学校の話を振られる事が多かった。
「それで、小夜子ちゃんはクラスに好きな男の子いるの?」
スタッフ全員が気の抜いた休憩時間。大人からの定番すぎる質問に私は悩みながらも真剣に答える。
質問した人はミロワールのデザイナー・加々美さん。オシャレなスーツがよく似合う、まだ若くてきれいな顔をした男の人だ。
どういうわけかこの人が私を気に入って、初仕事を与えてくれた。そして撮影など仕事について親切に教え、それが終われば褒めてくれた。子供相手だからといい加減にすることはない、しかし子供だからと優しくしてくれるとてもいい人だ。
その人に聞かれたのだから、こちらも真剣に答えなくては。
「男の子はあまり喋る事がなかったので、わかりません」
我ながらうまく答えができたと思う。
男子と話す事がなかったというのは真実だ。私はこの身長でからかわれ続けたのだから、むしろ男子は嫌いな部類だった。
しかし最近はゼロ組のおかげで変わりつつある。というのもゼロ組の男子達は男子の嫌な部分があまりないからだ。
彼らは身体的特徴で人をからかったりしないし、やるべき事はやるし、誰かに何かあれば助けようとする。
非常に頼もしい男子達を私は知った。だからといってそれが『好きな男子』になるわけじゃない。
「こら、加々美。そんなおっさんじみた質問するな」
加々美さんを止めるのは背が高い女性の内海さん。
内海さんはパタンナーだ。パタンナーとは加々美さんが考えたデザインから型紙を作るお仕事らしい。
その内海さんは女性だけど私より背が高い。そしてシンプルな服装とショートカットの人なので、とてもかっこいい男の人に見えてしまう。……私も身長を気にしている事からほめてるつもりであっても本人には言えないけれど。
そんなかっこいい二人が組んで立ち上げたブランドがミロワール。
高校生以上のお姉さんのためのブランドで、お値段はちょっとお高い。ただし特別で華やかで可愛いというのが売りのファッションだ。
「好きな子について聞くのっておっさんなの?」
「おっさんだよ。若い子の話題に必死についてこうとする感じがイタイ」
「若さは大事でしょ。僕ら若い子向きの服作ってんだからさー」
そんな風に言うお二人はまだ二十代のはずだ。なのにもうそんな意識をしている。デザイナーってそういうものなのかと私は密かに感心した。
「まぁ小夜子ちゃんを構いたくなっちゃうのも分かるけどね。ほんと小夜子ちゃんてうちのイメージぴったりだし」
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