8
明るく励ますようなリーチ君に反して落ち込んで行くザクロ君。
そりゃそうだ。彼は殺人犯におびえながらお面をかぶるという不便な生活を選んだのに、それが無意味に近いのだから。
ザクロ君も悪人の考えを理解しきれなくて当然だ。悪いことをする人の気持ちは悪い人にしかわからない。でも、私はザクロ君くらい警戒していいと思うけれど。
「まぁ警戒はしとくにしてもさ、受賞式はほんとに出る気はないのか?」
「それは……」
「犯人が本当に殺すつもりならとっくに殺せる。大がかりな舞台だからって気にする理由もないだろ」
どうやらリーチ君は真相をはっきりさせて、ザクロ君を式に出席させたいらしい。素顔をさらしても思っていたよりは危なくはならないのだから尚更だ。
「お前の考えはソンチョウすべきだけどさ、なんか教頭がえげつない事を考えてるらしいんだよな」
「え……?」
「教頭はお前に賞を辞退なんてさせないけど、表彰式は病欠で欠席させて、日を改めて学校に取材陣を呼ぶらしい」
リーチ君はどこから聞き付けたのか、とんでもない事を教えてくれた。
それを学校の名声のためだけにやるのだから本当にゲスな教頭だ。
「……欠席は許すのに、どうして辞退させないの?」
「下手に不満抱えたまま出席させたら、ザクロが授賞式で何かやらかすと思ってんだろ。その代わりに学校に取材を呼びまくるってさ」
こうなってより困るのはザクロ君だ。表彰で目立つのは仕方ないけれど、表彰されるのはザクロ君だけではない。他にも受賞した子はいるのだから、ザクロ君はそこまで目立たない。
しかし学校に取材を呼ぶとすればザクロ君だけが目立ってしまう。それは避けたい事だろう。
何より似たような結果になるのなら自分達が少しでも望む選択がいい。
「安全面は俺達で考える。だから出席してみないか?」
「安全って……?」
「とりあえず俺らもついてく。休日だから行けなくもないだろ。取材の方も、なんとかする方法があるんだ」
リーチ君が思い付いたというなんとかする方法。それがあるなら彼に任せた方がいいと私は思う。
当の本人である、ザクロ君もそう思ったのだろう。彼はうつむいて頷いた。
■■■
「それで一体どうするの?」
ザクロ君がサッカー部に戻ってから。私達三人は作戦会議をした。
リーチ君はいつも何かひらめいてもすぐに話してくれない。今もにやにやとザクロ君作のスペアお面で遊んでいた。
「まぁ、何かあってもなんとかなるだろ。式自体は人目が集まる訳だし。それより考えなきゃいけないのは長期的な安全だ」
「長期的な安全?」
「犯人がもしザクロを口封じするとしたら、取材の記事を読んでからだろ。それでもいつ来るかわからないのに、ずっと警戒しなくちゃいけないのは大変だ」
ずっと狙われているというのはザクロ君にも辛い話だ。どうせならすぐに解決してあげたい。
「じゃあ、警察に相談するのはどうかな?」
私は当たり前な提案をした。そもそも犯人が野放しにされているのがいけない。
犯人は警察に相談して捕まえてもらうのが一番だ。
「それは難しいだろうな。そもそも親父さんは事故死という事になってるんだし」
「あ……」
あの事故が今さら殺人だった、なんて事にはならない。警察や医者が判断して、事故死となったんだから。
「でもおかしいよね。ザクロ君のお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんもすごく優しい人なのに、ザクロ君の言葉を聞かないなんて」
たすく君は不思議そうに呟いた。彼はすでに家に遊びに行くなりしてザクロ君の家族を知っているのだろう。
優しそうな人達なら、どうしてザクロ君の言葉を信じてあげられないのだろう。
「……そうだな。あの優しい人達なら息子が怖がってるならやれる事はやるよな。警察に相談したりとか、カウンセリングに通わせたりとか」
リーチ君はその事にははっと気付いて考えこむ。
ザクロ君の不安は相当なものだ。
本当に殺人でないか、息子の精神面に問題がないか、調べつくすはずだ。なのにそれもないのはおかしい。
「……殺人だけはない証拠でもあるのか?」
リーチ君は自慢の頭脳から何かをつぶやくが、私にはまったく理解のできないつぶやきだった。
■■■
美術館のホール。そこの休日に行われる表彰式は、意外にも無関係な私達の出席を認められた。
本来出席できるのは受賞生徒とその教師か保護者だけらしい。
でもやっぱり全国から受賞者を招いたため、遠方の学校など予定のあわない子供は来れない。
子供のための賞だというのに広いホールががらがらで子供が少ないのはいけないと、関係のない私達でも来ていいという事になったようだ。
ただし課外授業の延長として制服を着て、大人しく座っている事が条件である。
表彰されるザクロ君だけは前方に座り、私とリーチ君、たすく君は後方に並んで座る。
たすく君の隣にはザクロ君のお母さんと、引率の志水先生が座っている。ザクロ君母は息子の晴れ舞台を見るため、一緒に来たのだった。
ザクロ君のお母さんはザクロ君に似てとても小柄で、おしとやかなふるまいと着物姿がよく似合っている。にこにこした優しそうな人だった。とても息子の言葉を信じてあげない人には見えない。
「リーチ君、その荷物は何?」
「表彰式が終わってからのおたのしみー」
歌うようにリーチ君は答えた。
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