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昼食を終えて、私と理一郎君は正門前で人を待つ事になった。
これから来るのは美容師さんと、理一郎君のお姉さんだ。美容師さんはそういう話だったからわかるけど、なんでお姉さん?
「ねぇ、いい加減どうするつもりか教えてよ」
これから私は美容師さんに髪を切ってもらうのだろう。そこまでは私にもわかる。しかしそれ以降がまったくわからないから素直に聞いた。
なのに理一郎君はイタズラを企んでいるような目をして、その企みを私には教えてくれない。
「んー、結構法的に危ない事だからさ、小夜子は知らなくていいよ」
「法的に危ないことってなに?」
普通に危ないより不安だ。だけど理一郎君は話すつもりはないのだろう。いざやってみて失敗した場合、私に迷惑がかからないように話さない方がいいと考えているらしい。
「まぁうちのねーちゃんも事件知って怒ってたし、できる限りの事はしてくれる。それに学校側だって後ろめたいんだ。余計な争いにはなんねーよ」
現在女子大生という、理一郎君のお姉さんが認めている事なら大丈夫か。それに学校もこちらが何か悪さをしたって、学校内で済ませたいはず。
「でもたすく君やザクロ君は理一郎君の計画を知ってるみたいだし。それって私が仲間外れみたいで……」
「小夜子の事、仲間だと思ってるよ」
理一郎君は過敏なまでに素早く返す。
「仲間と思ってるから攻撃されると助けたいし、誰かやお前本人でもお前をバカにされると腹が立つ。これが仲間じゃないならなんなんだよ」
「あ……」
「信じて欲しい。そりゃあ今日からの知り合いだから、難しいのはわかってる。でも俺達は、間違ってない奴を助けたいと思う」
理一郎君は真剣な目で、自分達の方針を語る。
多分彼らは私でなくても助けてくれる。彼らが仲間と認めるのは『間違ってない奴』なんだから。
「『正しい』のは色々だよ。川崎先生だって生徒ならどんな奴でも庇わなきゃいけないからあれは正しい。だから『間違ってない』ってのがポイント」
「川崎先生は、『正しい』けど『間違ってる』?」
「そ。先生なら庇うだけじゃなく叱らなきゃいけない。小夜子だってちゃんとケアしなきゃいけないんだ。だから俺達は間違ってない奴と一緒に悩んでやりたいから特別課題にしてんだ」
正しい事は人の数だけ存在する。だからゼロ組は間違ってない人の味方だ。
間違ってると言われ直すかもしれない。直すまでに行かなくてももう一度考えてくれるかもしれない。そう期待して。
「……理一郎君は大人だね」
「リーチでいい。大人でもねぇよ。こうしてゼロ組になって、少しはガキじゃなくなっただけ」
そう言ってリーチ君は柔らかな猫っ毛の後頭部を掻く。
そして言い辛そうに、自らの過去を語りだした。
「俺、いじめられてゼロ組に来たって言ったろ?」
「うん」
「あれ、実はだいぶはしょってる。本当はいじめられて金をばらまきすぎたのが原因なんだ」
いじめで金をばらまく?かつあげされてお金を渡すとかではなく?
私の疑問を察し、リーチ君はゆっくりと付け足して行く。
「俺は三年の時にいじめられたんだ。うち裕福だし、姉ちゃんが三人もいてとにかく大事に育てられててさ。だから俺、言いたい事はなんでも言うから単純にクラスでは嫌われてたんだよ」
それはなんとなく想像のつく話だった。
子供なのに色んな見方のできる彼は、きっと普段から大人ばかりと話していたのだろう。けど同じ子供からしてみれば見下されているようで腹が立つのかもしれない。
「ある日俺はいじめっこに金持ってくるよう言われたんだ。断ったら殴るって」
「うん……」
「で、その金額はお年玉で間に合うけど、このまま金を渡してよいものかと考えた。裕福っていっても親の金だ。でも親は俺を愛してくれてるから殴られるよりはいいから許してくれるはずだけどな」
「う、うん……」
ここで親の愛を信じられるのだからすごい話だ。でもお姉さんが三人もいればきっと大事にされていたはずで、思い上がりなどではない。
「だから考えた。いじめっこに渡すはずの金を別の奴に渡して、味方になってもらおうって」
私は小学三年生リーチ君のひらめきに素直に感心した。
いじめっこに渡すはずのお金を味方になってくれそうな人に渡す。
それは大人がボディガードを雇うようなものだ。それならもっとお金を要求される事はないし、助けた人間にごほうびを与えるのならいい使い方に思える。
ただ、こうして語られる様子ではいい結果にならなかったらしい。
「それで俺は平和な学校生活を送れるようになった。でもそれでいじめがなくなった訳じゃない」
「別の誰かがいじめられるようになったの?」
「あぁ。元々俺をいじめていたリーダー格が、いじめられるようになったんだ」
「どうして……」
「俺が金を渡した奴が率先してそいつをいじめたらしい。それが正しいって思ったんだってさ。ざまみろと思ったけど、気分は晴れなかった」
ごほうびを得てリーチ君を守った人達はそれが正しいと思うようになったのだろう。だからいじめっこを、必要もないのに攻撃した。
それが『もっと正しい』と思い込んで。
「それで終わるだけでもなく、その元いじめっこは俺の真似をした。金をばらまいて味方を得たんだ」
「あ……」
「うちだってユーフクだけど、この学校は全体的にユーフクな奴が多いからな。そして俺らの金のばらまきに釣られて、別の奴までもがいじめられたくないから金をまくようになった」
離婚した父が学費を払っているからこの学校に通えている私には、信じられない話だった。
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