1-14 アルバイト

 突然ですが、ここで問題です! デデンッ! 

 仕事を終えて、白馬亭に帰ってきたら泥だらけでした! その後俺たちはどうしたでしょうか?

 正解は、これだ。


「こちら新製品の試供品となっております! 是非ご利用下さい!」


 白塗りのドーラン、青毛のもじゃもじゃウィッグ、青と白のストライプのタイツ、黄色の半そで短パンのつなぎ。まさにこれピエロ。


「ママー、変なのがいるー」

「こらっ! 止しなさい!」


 クソガキとお母様が素敵な会話をなさっておられる。


 テメーッ、クソガキッ! 半端ねえ事になっぞっ! おおぅっ! このパン切れ四個分のブーツで蹴り飛ばしてやっからよぅっ!


「良かったら使ってね」


 ハハッ! 素敵な営業スマイル。俺って結構こういう仕事向いているかも知れない。


「要らねえよ! 馬鹿っ!」


 試供品の汗取りシートを顔に投げられた。それでも俺は笑顔を絶やさない。


「すみません」


 お母様が謝罪だけを言って、クソガキと逃げるように去っていく。俺は試供品を拾って、かごに戻した。


「よろしければこちらの試供品を使ってみて下さい」


 ギルティが道行く男性に声を掛けている。白い光沢素材のトップスとミニスカートにロングブーツ。まるでレースクイーンだが、ドラム商会が気前よく貸し出してくれた。ピアスは嫌だと言って、羊の毛刈りをまだやっている。


「こ、こちらららら……あの、よろしければ」


 その奥でどもっているパワーもギルティと同じ格好をしているが、あの破壊力抜群のボディーでちょっとした人だかりが出来ていた。パワーの持っているかごに手を突っ込んで試供品を取る男性たち。帰り際にパワーと握手までしている。


「うわぁ……」


 正直ちょっと引いてしまった。あんな露骨なのってさぁ……あ。

 結構身に覚えがあったのだった。


「すみません。お一つ頂けませんか?」


 上品な女性の声が聞こえた。若い女性の声だ。


「ありがとうございます」


 一番良い声でお応えして差し上げた。素敵な出会いの予感がする。


「やはり君か」


 バニシングフラグ。視線を上げれば唖然とする程のロケットおっぱいが見えた。知っているおっぱいだ。


「何をしている? お仕事かね?」


 アシュリー異端審問官だった。今日は青い尼僧服をお召しになられているが、一体?


「ええ、まあ。そちらもお仕事で?」

「教会で子供たちに説教だ。吸血鬼を相手にしていた方が楽なのだがな」

「あははは……」


 笑えねー。


「ところで、ピアス嬢が見えないが、別行動かね?」

「ああ、羊の毛刈りのバイトですよ」


 あの物騒なチャクラムヨーヨーでな。


「そうか……」


 アシュリーは当てが外れたといった面持ちで、淡くため息をつく。


「何か?」

「ああ、いや」


 ややこちらに気を遣った風に愛想笑いを浮かべ、アシュリーが言った。


「家出捜索人の件でちょっとな」

「あ、ピアスが、ですか?」

「ああ、うん。随分と放浪していたようだな、彼女」


 アシュリーが俺に一枚の紙切れを手渡す。


「戻ってきたら判事の屋敷に連れてきてくれ。入口の衛兵にそれを見せれば入れて貰える」


 アシュリーは呆れ顔で空を眺めながらぽつりと言った。


「しかし、長かったな……百年か」

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