終曲、そして新曲へ

遥かな未来、遠い星で

 西の空に日が沈みかけ、空に一番星が瞬くころ。

 草原を二人の少年少女が駆けていた。

「とうさん、かあさん、おそいよー。はやくはやく!」

 赤髪の少女は後ろを振り返り、呼び掛ける。

「うん、はじまっちゃうはじまっちゃう!」

 白髪の少年も両手を振って。

 二人の顔はうりふたつ、瞳の色は右が碧で、左はあおだった。

「わかった、わかった。ちょっと待っててくれ。……僕たちも昔はああだったのかな」

 二人から少し後に歩く父親は、昔を思い出すように目を細める。

 彼の髪は白く、瞳はあおいろ。

「当たり前よ。あの子たちは私たちの子ですから」

 父親の隣に歩く母親の髪色は、赤、瞳は碧。

「うん、そうだね。では、若い者に負けじと、僕たちも走りますか!」

「ええ」

 両親も走り出す。

 二人は子どもたちに並び、家族四人は揃って草原を駆け抜けた。


 家族が辿り着いたのは、劇場だった。

 円形の舞台を、観客席が囲んでいる。既に1000に及ぶ席のほとんどは埋まっていた。

 舞台の最前席へ、子ども二人をまんなかに、両親は端に並んで座る。

「とうさん、はやく始まらないかな」

 息子は右隣の父に目を輝かせて告げる。

「うん、わたしもずっと楽しみにしていたの」

 娘も同じように左隣の母へ言った。

「よし、それじゃあ始まるまで、教えて欲しいな。劇の主役を」

 父親は子どもたちに尋ねる。

「はいっ、火の鳥と白狼の物語だよ」

 始めに答えたのは、娘だった。

「ずっとずっと昔、ぼくたちの故郷から飛び立った二人のこと。始まりのこすもなうと」

 次に息子が。

「二人から旅は始まったの。それから長い長い時間がたって、今、わたしたちはここにいる」

「二人とも、良くできました。その通りよ。二人が旅に出たのは、約束を果たすため。この広い宇宙にいる命に出会うためなの」

 母親は二人の答えに満足げに両手を合わせた。

「それ以上は劇のお楽しみが減るから止めておこうか。もうすぐ始まるからね」

 父親の言うように、舞台に演者が現れる。

 赤髪の男性と、白髪の女性だった。

 曲が奏でられ、男女は舞い、幕は開く。


 劇は終わり、舞台に立つ演者には万雷の拍手が贈られる。

「……」

 子どもたちは放心して、感動と興奮が入り交じったような表情だった。

「面白かった?」

 二人に母親が聞く。

「う、うん……でもね、かあさん、火の鳥と白狼は、故郷の星を飛び立った後、どうなったの?」

「二人とも、今はどこにいるの?」

 娘、息子は両親に強く訊く。

「二人は、どこにでもいるんだよ。過去、現在、未来、別の宇宙にも」

「ええ、それに、わたしたちのなかにもね」

 両親は自分の胸に手を当てて答えた。

「わちしたちのなか……」

「二人の意思を継いだわたしたちは、まだ見ぬ先へ旅を続けるの。この劇は儀式。これから旅立つ飛宙士コスモナウトを見送るために」

「そろそろ時間だね」

 劇場の天井が開く。そこには無数の星が瞬いていた。

 そして、轟音を鳴らし、純白のロケットが煙を吹かせて、ソラに飛び立つ。

「……」

 子どもたちは、目を見開き、口をぽかぁとさせる。

 数分後、夜空にロケットが消えたころ、

「すごいすごーい!!」

 と、目をきらめかせ、鼻をふぅふぅと鳴らし、手足をばたばたと振った。

「……僕たちと同じだね」

「ええ。この子たちもを聴いたのよ」

 嬉しそうな表情を見せる両親に子どもたちは真剣な目を送る。


 かつての――

 ――マイラ、いっしょにソラに行こう。

 ――うん、まるすといっしょにわたしも、いく。


 そして、これからの――

「お父さん、お母さん、僕もソラを目指すよ」

「うん。わたしも、飛宙士コスモナウトに」


 コスモナウトへ――

 その魂、意思は引き継がれていく――


 




 

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108 火の鳥と白狼はソラで踊る ひのきあす @16hinokiasu07

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