外伝・初顔合わせ(19)〜さて、裸のおつきあいを始めましょう〜
「さーて、丸く収まったことですし〜。おふたりとも、お風呂へ入って汗を流してなさいな〜」
天ノ宮部屋の上がり畳で、一騒動収まったあとで、天ノ宮部屋の部屋付き親方の島村親方にそう声をかけられ、天ノ宮と稽古にやってきた姫美依菜はお互い顔を見合わせ、頬を赤らめた。
お互い見合ったまま、なにか言い合おうとしながら遠慮してお互いになにか言う権利を譲り合っていると、それを見かねた島村親方がちょっと意地の悪そうな声で言葉を続ける。
「あらら〜、ふたりとも顔を真赤にしちゃって〜。本当に稽古に夢中になっていたわね〜。さっ、汗をたくさんかいているから、早くお風呂に入っちゃいましょうね〜」
笑顔のまま、そう言われてしまい、ふたりとも、島村親方のその笑顔が怖くなって、
「あっ、はい」
そう返すしかなかった。
天ノ宮部屋の風呂場は二箇所あり、一箇所は幕下以下用、もう一箇所は十両以上・親方など用になっている。階級によって風呂場が分かれている、女子大相撲らしい風呂場の分け方であった。
ちなみに、部屋に併設されている……、というか、部屋を併設している天ノ宮の宮殿艦には、彼女専用の風呂場が当然あるが、天ノ宮は天ノ宮部屋での相撲の稽古の後は、部屋の風呂場に入ることにしていた。
相撲を取る
風呂場は旅館の浴場風の入口になっていた。横開きの扉を開き、脱衣所へ入る。右の壁に洗面台、左の壁に脱いだ衣服をしまうかごを置くロッカーが設置されていた。
二人は適当に場所を決め、思い思いに浴衣を脱ぎ、スポーツブラとパンツを脱いで、裸になる。そして長い髪をまとめた。
「……」
天ノ宮は姫美依菜の裸体を横目でちろちろ見ながら何かを考えていた様子だが、髪をまとめ終えると、一つ小さく頷き、姫美依菜の方を向いて、意を決したかのように口を開いた。
「……先程は、本当に申し訳ありませんでした。ごめんなさい」
そう言って小さくお辞儀をした。
その謝礼に、姫美依菜は目を丸くして慌てた様子で、
「え、なに?」
そう応える。そして続けて問う。
「さっきのあたしのアレ?」
「そうです。わたくしは怒られるべきなのに、姫美依菜関はわたくしをかばってくれました。稽古でわたくしはあなたにあんなことをしたというのに……。なんとお礼を言ったら良いのか、本当にわかりません」
「えー、まー」姫美依菜は後頭部を掻きながら応えた。「あたし、天ノ宮関があんな怒られた方をしているのを見ていたら、かあっとなっちゃって……。御笠親方にあんなことをしちゃって、本当にごめんなさいね」
「すいません」天ノ宮は苦笑しながら応えた。「あとで
「まあ、今はそんな事忘れて、お風呂に入りましょう。この分だと、午後も稽古するんでしょ?」
姫美依菜が苦笑しながら返した言葉に、ええ、と天ノ宮はうなずくと、浴場の扉を開けた。
浴室は一般的に見られる銭湯に似た作りで、壁際にシャワーと鏡、その反対側にお大きな湯船があった。広さ的には人間が十人ぐらいは入れる程度の大きさだ。
小さなタイルで区分けられた床をしっかりと踏みしめながら二人は隣同士のシャワーを選び、シャワーの栓をひねって熱い湯を出し体にかける。
自分の全身にシャワーで勢いよく湯をかけながら、姫美依菜は天ノ宮の方に顔を向けると、気になっていた問いを姫君に投げかけた。
「ねえ、天ノ宮関。あたしが巻島家の娘だって、知らなかったんですか?」
(続く)
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