第33話 『探索』 その9

 ぼくは、社長に連れられて、その建物の前にやって来た。


 もちろん、ここは、ぼくの、あの同僚がいなくなったという建物に、違いない。


 「ま、じゃあ、ゆっくり楽しんでいらっしゃいな。わたしは、ここまで。」


 「はあ。そりゃあどうも。社長。忙しいのにすみません。」


 「いえいえ、あとで飲みに行きますか。終わったら知らせてね。」


 「あ、はい・・・・」


 正直言って、『何が終わったら』なのかが、まだよくわかっていないのだけれども。


 『保護者』からの新しい情報はない。


 同僚君は、ここに入ったまま、まだここからは、出てきていない。


 それは、はっきりしている。


 『保護者』の超小型偵察衛星が、いまも、じっと見ているに違いないからだ。


 しかし、なぜか、建物の奥には入って行けていなかったし、その後も何度か試みたが、失敗しているらしい。


 『電子的な機器を妨害する機能があるようだ。もしかしたら、多少気づかれたかも。』


 そんな、なさけない情報では、実際に動くぼくは、困るのである。


 ぼくは、その驕奢な建物の中に入った。


 受付があった。


 社長に連れて来てもらったせいかどうか、実に待遇が良い。


 同僚の場合は、受付に人間は出て来ていなかった。


 いやまあ、大変に奇麗で、接客態度も抜群の受付嬢が相手をしてくれている。


 まずは、パネル表示から、好みの女性を選ぶように言われた。


 ここまでは、すでに分かっている。


 『全員分を見てくださいね。』


 『保護者』が頭の中にささやいてきた。


 『あいよ。』


 「う~~~ん。」


 「難しいですか? ゆっくりでよろしいですよ。どうぞ、気楽に見てくださいね。今は、あなた専用の時間ですから。」


 受付嬢が愛想よく言ってくれる。


 『みな、先日も表示された人ですね。ああ、彼は、この人を選びました。』


 「ほう・・・こういう趣味か・・・意外な。」


 それは、流れる様な金髪の白人女性だった。


 ちょっと横向きの姿が確かに魅力的だ。


 もちろん、パネルの中の女性は、単なる写真ではなくて、一種の立体映像だ。


 さまざまな角度から表示されている。


 髪、顔全体。上半身、下半身、後ろ姿・・・・


 おっと、一応、ビキニ程度の身なりにはなっているが、それでも、かなり挑発的な映像ではある。


 上半身が露わな映像も、ついに出て来た。


 ここまでくると、地球でならば違法すれすれになる。


 「う~~~ん。・・・・・」

 

 「あなた様は、お好みが細かいようですわね。」


 「ははは、まあ、せっかくだから・・・・」


 「もちろんそうですわ。」


  頭の中の声が言った。


 『待ってください、この人、前はいなかった。』


 『保護者』がそう言うのだ。


 『新入りかな。しかし、これだけ女性がいたというわけだろう。もうそれが、おかしいよな。もっとも、人間かどうかは怪しいが・・・でも、新入社員がいたとも聞いてないな。』


 ぼくが、頭の中で答える。


 『ここで見る限り、人間である気はします。この人にして下さい。ちょっと気になる点があります。』


 『どこが・・・』


 『はっきりしたら、伝えます。』


 『はいはい。』・・・・・「あの、この人を、お願いします。」


 「まあ、すばらしいですわ。わかりました。では、館内コンパニオンが、あなたをご案内をいたします。ソファーで少しお待ちください。」


 ぼくは、たった2分程度、豪華なソファーで待たされた。


 巨大な、一枚ガラスの窓がある。


 その外には、素晴らしい庭が広がっている。


 もう、夕暮れの中で、すばらしく、ライトアップされている。


 表通りとは反対側だろう。


 しかし、何だかおかしい。


 ぼくが、データで確認した範囲では、このような庭がある建物はなかった。


 つまり、この庭は、見た目だけの偽物である可能性が高い。


 奥側のまっ白な壁が開いて、中から別の女性がやって来た。


 この人も、また素晴らしい美女ではある。


 赤の帽子と、青のコスチュームが良く似合っている。


 「お待たせいたしました、どうぞ、こちらに。」


 『いよいよ、未知の領域ですな。』


 ぼくは、頭の中でそう言った。


 しかし、『保護者』は、返事をしなかった。



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 「ふうん・・・・まさか、彼がスパイだとは、ちょっと思いにくいわ。まあ、この前のこともあるから、気は付けるけど、ふたり続けてはねぇ・・・・・」


 社長が言っている。


 もちろん、これは、その時のぼくには、見えていない光景である。


 「まあ、ちょうどいいわ。ちょっと、遊んでみましょうよ。一週間くらい、休暇出してもいいじゃない。ちょうど、お客様だし、いないほうが安心でしょう?この子は惜しいわ。すごく役に立つもの。そのわりには、どじだしね。方法なら、いっぱいある。どうにでもなるわ。その間、もっと調べて。」



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