第42話 エピローグ(3)

「なかなか死ねないものだ」

 巧は頭を支え起き上がった。

「ケッ、どの口が言うか」

「楽しいなジン」

 巧は笑みを浮かべる。

「んなわけあるかよ」

 笑ってるぞお前と、指摘されて口角が上がってる事に気づく。

 中学の殴り込みで再会してから、何度となく巧と喧嘩したか。いつまでも自分が泣き虫のジンのままだとそう思われているのが嫌で、巧の発言に過剰に反応しては喧嘩する。

 同じ高校に行きほむら達と影狼を作った頃から、互いにとって居心地がいい距離がわかり親交を深めた。

 巧とは久々の喧嘩だ。楽しくないわけが無い。

 だが目の前にいるのは、友人の顔をした別人。記憶、人格をコピーしたアクゥなのだ。

(貴様は巧を殺した許さない。楽になんかさせるか)

 気持ちが高ぶり、瞳が潤む。


「行くぞ!アクゥ」

 尻尾から斧を引き抜き、振り抜く。

 巧はそれを飛んでかわす。

「まだまだ!」

 斧を持ち上げ、空を舞う巧を目で追う。

「!」

 太陽をバックにデモンンサーベルを構えて落ちてくる。

 逆光で眩しい。それでも刃で受け止めた。

「シュッ!」

 刹那、こめかみに衝撃。頭部を蹴られて、海面まで吹き飛ぶ。


「錆びたらどうすんだ!」

 ザッパーン。

 海から顔を出す。

「なっ」

 一気に距離を詰めた巧に頭部を掴まれ、海面に叩きつけられた。

 何度も何度も繰り返して海水を味わう。

 宇宙でも活動できる装甲だ。水中でも何ら問題ないが、地上で生きる故の本能が悲鳴をあげ精神にダメージを与える。

「調子に乗るんじゃねぇ!」

 頭部を掴む腕を右手の鉤爪で抉り、左肘で腹を刺す。

 拘束を解かれ自由になった体。後方に振り向き様に硬質化し刃となった右腕で胸を斬る。

 ブシャッッッッ。血飛沫が海を汚す。

「うらっっっ」

 巧の体を持ち上げると、砂地へ向かって投げた。


「まだやるか」

 大の字に倒れている巧に手を伸ばす。

「当たり前だ」

 手を掴み立ち上がった瞬間、向かってくる拳。スウェーでかわしカウンターの一撃を叩き込む。

 ピシッ。ヘルメットに亀裂が走り、巧の目が見えた。

「……巧……」

 ボロボロボロボロ、大粒の涙が溢れてくる。

「くそ見づらい」

 ヘルメットを外し、指で涙を拭う。

「泣き虫だなジン」

 幼い頃と変わらずの笑顔を見せる巧。


『僕とほむらが守ってやるよ』

 浮かぶはイジメられて泣きじゃくる自分を慰める巧とほむら。


「知らない奴なら悩まなくて済んだのにッッ!」

 素顔のまま殴りかかる。巧も仮面を脱ぎ捨て迎え撃つ。

 ガンッ。互いの胸に拳を刻む。

 二人の装甲が砕け散っていく。


「おらっっっ!」

「シュッッ!」

 足を止めて、拳で殴り合う。そこにはもう駆け引き等無い、只の意地と意地の張り合いだった。

「俺はこんなに強くなった!強くなったんだよ巧!」

 その言葉は目の前の少年に向けたものなのか。

「だからもうこんなの必要ないんだ」

 傷から流れる血は黒い。

「俺は俺の力で家族をダチを守っていく!」

 ジンの拳が巧の顎を打ち抜いた。

「強くなった……な……ジン……お前の勝ちだ……」

 大地に沈んでいく巧を涙目で見届ける。

「うっうおおおおお、たくみぃぃぃぃ」

 ジンは幼なじみであり親友であった亡き少年の名前を叫び、大声で泣いた。


「語れましたか? 旦那様」

 戦い終えた二人の前に青龍が現れ、ジンの涙を拭った。

 そっと抱きしめ肩をポンポンと優しく叩く。

「玄武さんから全て聞きました。辛かったですわね」

 ギロリ。大の字に倒れている巧を睨む。

 柔らかい感触と心地よい体温が離れた。

「アクゥ、あなたの本当の願い、わたくしが叶えてあげますわ」

 リンッと不意に世界が沈黙する。波打つ音が消えたのだ。

 ジンは周囲を見渡すと、海が凍りついている事に気づいた。

「ハハッ」

 血まみれで黒く染まる巧は嬉しそうに笑う。

「その笑顔が最後まで続くか楽しみですわね」

 両手を突き上げ大きく広げると、頭上に氷で出来た杭が具現化する。

「青龍?」

 まさかトドメを差すつもりか。


––––本当の願い、わたくしが叶えてあげますわ––––


 言った。確かに青龍はそう言った。

 巧の願いを叶えてはダメだ。

「青龍ッッ!」

 止めるのが間に合わず、杭は巧の耳を抉った。

「ぬっっ!」

 耳を押さえ呻き声をあげて、のたうちまわる。

「あらっ、旦那様が止めるから手が滑ってしまいましたわ。これでは、単純に苦痛を与えるだけですわね」

 再び手をあげると、また氷の杭が現れた。

「今度は外しません。お逝きなさい」

 スッと瞳が細くなる。

「止めろッッ!」

 ジンは青龍の腕を掴んだ。

「離して。事情はどうあれ彼は人を殺し過ぎました。巧さんも犠牲者の一人です。まさか旦那様、コイツを殺しても巧は喜ばないって、ヌルイ事を言うつもりですか」

「そうだ……僕の手は血で汚れている……殺せ。それが僕の願いだ」

「うるせえッッ二人共、人の話聞けっ!」

 ぷっつーん。主張してばかりで、話聞かない二人にジンはキレた。

「青龍! お前は俺にアクゥの件任せたんだから、でしゃばるな!」

「はっ……はいぃぃ旦那さまぁんん」

 あーんと頬を赤らめ、熱っぽい瞳でジンを見つめる。

 もじもじと太ももをこすり合わせ、口に指を入れた。

「言うこと聞かない悪い青龍に、お仕置きしてくださいませ」

 ハアハアと息荒くもたれかかってくる。

 発情スイッチが入った青龍を無視する。

「ほ、放置プレイぃぃぃあぁぁん」

 ぶしゃあぁぁぁ。キラキラと輝く透明な液体を体から吹き出し、恍惚の表情で座り込む。


「巧! てめぇは喧嘩で負けたんだ。死にたい願いは破棄だ!」

「なら僕はどうすればいい。この汚れた手では娘を抱けない」

「楽になりたいから娘を置いてくってか」

 ガゴン。巧の顔を蹴り飛ばす。

「安心しろよ……てめぇの願いは叶う」

 切れた唇を押さえ巧はジンを見る。

「おばあちゃんが生きてる限り、犬飼巧を演じてもらう。その間、罪の意識に苛まれろ」

「……ならその後は……」

「青龍に引き渡す。裁きはその時まで保留だ。いいな!」

「はいぃん旦那さまぁん」

「……わかった……」


 こうしてジンの戦いは終わりをつげた。

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